高校1年の勝みなみがツアー優勝したことから始まり、同世代の畑岡奈紗が高校3年で「日本女子オープン」に優勝し、一大ブームを巻き起こすことになった”黄金世代”。 そして今年、黄金世代11人目のツアー優勝を果たしたのが吉本ひかるだ。プロ入り当初、優勝まですぐといわれた彼女だったが……。ここまで一緒に歩んできた中島敏雅コーチ(ゴルフアカデミー中島を主宰)とともに紹介する。
画像: 高校2年の夏から中島コーチの指導を受けている吉本。「習い始めのころはすべてがダメでしたけど、アプローチとパターは特にひどかったですね。でも、当時の自分はそれについてまったく気づいていませんでしたけど(笑)」(吉本)

高校2年の夏から中島コーチの指導を受けている吉本。「習い始めのころはすべてがダメでしたけど、アプローチとパターは特にひどかったですね。でも、当時の自分はそれについてまったく気づいていませんでしたけど(笑)」(吉本)

プロになると感覚だけでは通用しない

実は吉本ひかるもジュニア時代は名の知れた存在で、ツアー優勝も時間の問題といわれた。 

しかし、そこから思うようには成績が出ず、2019年にはシード権を獲得するものの翌年にはシード圏外へ。昨年まで不遇の日々を送っていたが、QT上位によってツアー参戦した今季2戦目で、プロ6年目にしてツアー初優勝を飾ることができた。

画像: 黄金世代11人目の優勝者・吉本ひかる。プロ6年目にして初の栄冠を手にした

黄金世代11人目の優勝者・吉本ひかる。プロ6年目にして初の栄冠を手にした

時間こそかかってしまったものの、今年ツアー優勝できた要因は、中島コーチと取り組んだアプローチとパターの改良、そしてトレーニングによるスウィングと球質の向上だと吉本は言う。

「中島プロ(※吉本は中島コーチのことをプロという)には、高2の夏から見てもらっています。いろいろ教えてもらっていますが、一番変わったのは、アプローチとパットの打ち方です。それまでは、感覚頼りで打っていたので、良いときと悪いときの差が極端でした。要は何もわかってなかったんです(笑)。ある意味、基本となる打ち方を中島プロから教えてもらったことで、年々良くなってきて、結果的に今年の優勝につながったと思っています」

アプローチで、肩の動きをタテに変えたら、ライに合わせる技術が増えた

吉本はそれまで感覚でやっていたアプローチをイチから中島コーチに学んだことがツアー優勝につながったという。中島コーチに聞いてみた。

画像: 吉本のアプローチは、肩がヨコ回転していたためフェースがボールの下をくぐっていた。中島コーチは、吉本に肩の動きをタテ回転に変えさせたことでボールとフェースの接する時間が増え、吉本はライへの対応もできるようになった

吉本のアプローチは、肩がヨコ回転していたためフェースがボールの下をくぐっていた。中島コーチは、吉本に肩の動きをタテ回転に変えさせたことでボールとフェースの接する時間が増え、吉本はライへの対応もできるようになった

「それまでの彼女は、フェース面にボールが乗らない”スカる”打ち方をしていました。具体的にいうと、ヘッドのリリースが早いためインパクトでボールの下をヘッドがくぐる感じです。さらに、ヘッド軌道もカットになっていたので、フェースにボールが乗らないため距離感が日によって変わりやすく、寄る日寄らない日が分かれていたのだと思います。これを直すために、右肩が突っ込むようにして、肩がヨコ回転だったのをタテ回転に修正。すると、フェースでボールを押せる感覚が出るようになり、ライによって打ち分ける技術も身に付きました」

画像: 飛球線と平行に棒を置き、クラブが当たらないように打つ練習。中島コーチのアカデミーに来ると、体とクラブの動きの確認をするため、吉本はこの練習を行っているという

飛球線と平行に棒を置き、クラブが当たらないように打つ練習。中島コーチのアカデミーに来ると、体とクラブの動きの確認をするため、吉本はこの練習を行っているという

アプローチでカット軌道を解消するためのドリルにも取り組んだ。

「肩の回転を覚えるために飛球線と平行に棒を置き、ダウンでヘッドが棒に当たらないように打つ練習はよく続けました」(中島コーチ)

画像: クロスハンドにして肩のタテ回転を意識付けさせる練習法

クロスハンドにして肩のタテ回転を意識付けさせる練習法

また、右手と左手を逆さにして握った状態でのアプローチ練習もさせていた中島コーチ。

「これによって、ダウンスウィングで早めだったヘッドのリリースが矯正でき、肩の動きも自然なタテ回転が身に付きました」

中島コーチの元、この2つのドリルによって、吉本がアプローチ力が向上していった。

推進力が強く、曲がり幅が薄いパッティングが打てるようになった

吉本がツアー優勝できたもう一つの要因として挙げるのがパッティングの向上だ。

「昔から入るときと入らないときの差がかなりありました。それが、どうしてそうなるかわかっていなくて、ただ下手だからなのかな〜、くらいしか思ってなかったんです。でも、中島プロに教わり始めてから、ストロークに原因があったんだってわかったんです」 

画像: アプローチ同様、パットもカット軌道だった吉本。そこで中島コーチは、卓球のドライブを打つイメージでストロークするように伝えた

アプローチ同様、パットもカット軌道だった吉本。そこで中島コーチは、卓球のドライブを打つイメージでストロークするように伝えた

中島コーチは何を教えたのか。それはストロークのイメージ作りにあった。

「彼女はパッティングもカット軌道でした。それだと、距離感が出せないし、カップ際で切れてしまうことがあります。そこで僕は卓球のドライブを打つイメージでストロークするように伝えました。メチャクチャ極端にいえば、ヘッドをインサイドから入れてストレート気味に出していく感覚です。 

画像: 「いつもよりラインを薄めに読めるようになって、カップ際で伸びるので、勝負どころであとひと転がりが生まれる」という中島コーチ。初優勝した明治安田生命レディスでもそのパッティングが冴えわたった

「いつもよりラインを薄めに読めるようになって、カップ際で伸びるので、勝負どころであとひと転がりが生まれる」という中島コーチ。初優勝した明治安田生命レディスでもそのパッティングが冴えわたった

これによって、フェース面にボールを乗せることができるので距離感が出しやすくなります。さらに、いままでと同じストローク幅でも推進力が強くなるので、いつもよりラインを薄めに読めるようになっていきますし、カップ際で伸びるので、勝負どころで、あとひと転がりが生まれるんです」

スウィングは、重心が下がりインパクトで力強さが増した

小技の向上に加え、スウィングの質も上がったと吉本自身が語ってくれたが、具体的には何を行ったのか。

「良くなってきたきっかけは21年から取り組んだトレーニングだと思います。中島プロの紹介で、松山英樹プロのトレーナーをしていた飯田光輝さんに見てもらうようになったんですが、いままで中島プロから言われていた動きがトレーニングを始めたことでやりやすくなってきたんです。 

画像: いままでは力いっぱい振ってもボールに勢いがなかったが、トレーニングを取り入れたことにより、ボールへの力の伝え方がわかるようになってきたという吉本

いままでは力いっぱい振ってもボールに勢いがなかったが、トレーニングを取り入れたことにより、ボールへの力の伝え方がわかるようになってきたという吉本

あとトレーニングによって一番わかりやすい変化は、縄跳びを始めたことで、体内重心が下がってボールに力強さが出てきたことだと思います。縄跳びを始めてから重心って大事なんだな〜って感じるようになりました。 

縄跳びは、試合前にウォームアップで軽い縄で3分を5セット、重い縄で2分を5セットやります。重い縄、これが結構しんどいんですよ(笑)」 

「やっと中島プロの言ってることが理解できてきました」(吉本)

吉本へ最後に中島コーチとの9年間について聞いてみた。

「高校2年から今まで中島プロの指導のもとでやってこられたのは、私の良いときも悪いときも見てくれていたからだと思います。要は、中島プロに対して信用があるからです。 

コーチを代える人もいますが、たぶんお互いに『これで合ってるのかな?』と疑問に思うから離れているのだと思います。

私の場合は、初めからわかってなかったですから疑問もありませんでしたし、やれないのは自分のせいだと考えます。だから、結果が出なくてもコーチを代える選択肢はなかったです。 

とはいっても、すべて中島プロに任せっ切りではありません。調子が悪かった21年くらいから、”やるのは自分”と考え自分と向き合い出してから成績も良くなってきました。中島プロ、これからもよろしくお願いします(笑)」

PHOTO/ARAKISHIN 

ILLUST/Masashi Anraku

THANKS/宮里藍サントリーレディスオープンゴルフトーナメント、ゴルフアカデミー中島

※週刊ゴルフダイジェスト2023年7月25日号「吉本ひかる6年目の初優勝その秘密」より

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