ここ数年スウィングに悩んでいたという奥田靖己プロ。YouTubeなどで研究し続け、たどり着いたのが、女子プロの藤田さいきらを指導する大本研太郎プロの動画。そうして直接対面し、復活の気配が漂っているのだという。奥田がさらなる疑問を持って大本を直撃した。その対談をリポートする。
画像: 「ラウンドもまともにできんかった」という奥田靖己プロが、木本研太郎プロにスウィングを見てもらったときに「スウィングでは右手と左手はバラバラに分離して動く」という木本の一言で、復活のきっかけをつかんだという

「ラウンドもまともにできんかった」という奥田靖己プロが、木本研太郎プロにスウィングを見てもらったときに「スウィングでは右手と左手はバラバラに分離して動く」という木本の一言で、復活のきっかけをつかんだという

「バックスウィングの途中で違和感があった」(奥田)

奥田 3年くらい前から、バックスウィングの途中ですごい違和感が出るようになって、ラウンドもまともにできん感じになっていたんです。それで大本さんにスウィングを見てもらったら、一発目で「左右の手が同じ方向に動いてます」と言われたんですわ。

大本 はい。「左右の手が同じ方向に動く」というのは、簡単に言うと、歩くときに両腕を同時に前後に振っている状態。歩くときは両腕、両足はバラバラに動くのが本能であり自然です。スウィングも同じで、本能に沿って行うほうがいいんです。

奥田 そのときに言われた「スウィングでは右手と左手はバラバラに分離して動く」という言葉が、フッと入ってきて。5年くらい前の「スポーン!」と打てておるときの自分の動画を見返してみたら、確かにテークバックで左右の手が一緒に動くのとは違う感じの動かし方をしていたんですわ。自分でもそのイメージはあったしね。しかし、その細かなところを見逃さないというんがすごいなあと思いました。

大本 スウィングは最初の筋肉の反射ですべてが決まってきます。歩き始めで両手をそろえて歩き出すと、その後の歩きに違和感が出てきて歩けなくなってしまうみたいなもので、テークバックで両手が同一方向に動いて脳のなかに違和感が生じると、胸郭がロックされるんです。

奥田 それがバックスウィングの途中で「ウワァ!」となる違和感となって表れたわけですね。

大本 今はどうですか? 

奥田 いやもうマッチベターです。

大本 よかったです。最初の筋肉の反射ですべてが決まるので、そこだけ無意識レベルで動いたらもうOK。奥田さんは 感覚で打たれる方なので、もともと持っている本能をできるだけ生かせればと思いますよね。

「左右の手が同じ方向に動く」プロのスウィングとは?

奥田 スウィング中に左右の手がバラバラに動く「分離」いうことを詳しく教えてもらえますか。

大本 まず、「左右の手が同じ方向に動く」スウィングから説明します。練習場で両腕にボールを挟んでスウィングをするドリルがありますが、これが両手を同一方向に動かす動きになります。

奥田 プロでもやっております。

大本 プロの場合は分離ができ過ぎるのでそろえるという考え方でやっているケースもあります。

奥田 手の使い過ぎを抑え、軌道を安定させるためですね。いわゆる「両腕の三角形を崩さない」とか「クラブは体の正面」といったスウィングでしょうか。

大本 そうですね。ただ一般の人には勧めません。「そろえる打ち方」では飛距離が出ないからです。それにドリルでは両腕をそろえるスウィングをやっているプロも、実際は両手が「分離」したスウィングになっていますから。

両手をバラバラに使うスウィングは飛距離が出る!

奥田 両手をバラバラに使う「分離」のスウィングは、飛ぶ。

大本 はい。積極的にテコの動きを使うからです。具体的に右手と左手はどう動くのかを説明しましょう。右手は前腕をねじるように動かしますが、これはフェースを閉じて、開いて、閉じるという動かし方なんです。左手はテークバックではクラブを下に押し、フォローではフェースを閉じる動きになります。この右手と左手のバラバラの動きをスウィングの初動で組み合わせることで、クラブにテコの力が加えられ、これだけでクラブが動きます。

画像: 両手で一緒に動かすとテコの力が小さいのがわかる(写真右)。左右の手をズラして作ったテコの力のほうが大きく、効率的だ

両手で一緒に動かすとテコの力が小さいのがわかる(写真右)。左右の手をズラして作ったテコの力のほうが大きく、効率的だ

奥田 これは初動の力のベクトルの話ですよね。それを僕は聞いてピンときたんです。ただ、クラブを持つと「これどうすんの?」みたいな感じにはなるんですよね。僕は以前、やっていたからわかるんだけど、アマチュアの人にはそこが難しいかもわからんなあ。

大本 そうですね。クラブを握って左右の手で引っ張り合うとクラブはズレてヘッドが持ち上がる方向に動くじゃないですか、それだけなんです。でも多くの人は、両手を動かして持ち上げる。もちろんこれでもテコは使えますけど、その力は両手をズラして作ったテコのほうが断然大きく、それを利用するから飛ぶ。このテコを利用しないスウィングは飛びません。

奥田 結局ゴルフは、クラブをどう使うかいう話で、テコなら最小の労力で最大の結果を得られるわけだから、これを利用しない手はないですよね。

大本 そうなんですよね。先に右手の動きを覚えて、その後に左手の動きを合わせるようにしたら身に付きやすいと思います。

踏ん張るために上半身を使う

奥田 ただ、プロでもこの「分離」の動きを自分でわかっている人は少ないでしょう。全英で勝ったブライアン・ハーマンはめちゃくちゃ上手い。168センチの小さい選手が大きい選手をなぎ倒すというのが痛快で、彼のことを好きなんですけど、あの体で290ヤード飛ばす。多分、思いっきり分離してると思うんですが、どうですか。

大本 いやあ、すごいです。

奥田 強烈ですよね。フェースがバァーッと開くしね。でも本人のレッスンを見たら「手は使ってない」言うとった(笑)。

画像: 今年の全英王者のハーマンは「分離」スウィング。「フェースがバァーッと開く」(奥田)

今年の全英王者のハーマンは「分離」スウィング。「フェースがバァーッと開く」(奥田)

大本 プロは「手は使っていない、そろえている」という表現をするんですよね。でも、そのままアマチュアの方に伝わると逆に手が使えずカチカチのスウィングになります。これもあくまで意識の問題なので、アマチュアの方は間違わないでもらいたいですね。

奥田 アマチュアの方は、テークバックした後、クラブをどこに上げるべきかも、よう考えるけれど、それは別にどこでもよろしい。結局、どの角度に行くかはどの球を打つかによって変わるんです。

大本 そうです。人によって腕の長さも違うし、右腕と左腕も違うので、正しいスウィングプレーンというのはない。最初に言ったように、最初の筋肉の反射ですべてが決まるので、テークバックでの両手の引っ張り合い、そこだけ分離して動いたらOKです。

「僕は前からスウィングは『上半身リード』やないかと思っていた」(奥田)

奥田 そもそもスウィングは下半身がリードをすると言われますけど、僕は前から「上半身リード」やないかと思っていたんです。

大本 速く走るときには腕を振りますよね。腕を振るとバランスが崩れる、それで転ばないように足が動くわけです。これが「上半身リード」です。体はすべてバランスセンサーでできているので、上半身でモーションを起こすと、下半身はそれに対応します。だから100メートル走の選手は上半身を鍛える。あれは腕を速く振るため。昔、陸上部の部員はよく「もも上げ」をやらされていましたよね。

画像: 上半身リードでないと速く走れない。「速く走るときは、腕を振るんです」と言う大本。「腕を振った結果、体が連動し、クラブにエネルギーが生じるのが上半身リードの動きです。『もも上げトレーニング』は骨盤を後傾 させてしまいます」

上半身リードでないと速く走れない。「速く走るときは、腕を振るんです」と言う大本。「腕を振った結果、体が連動し、クラブにエネルギーが生じるのが上半身リードの動きです。『もも上げトレーニング』は骨盤を後傾
させてしまいます」

奥田 あれは何の意味もないいうことですか。

大本 ええ。ももを上げると骨盤が後傾してしまうので、これは一番やってはいけないこと。短距離は、ギリギリまで前傾して転ばない状態が一番速く走れるんです。だからトップ選手はゴールしたら前に転んだりする。ゴルフでもインパクトゾーンでギリギリ転ばないような体勢にすると最大出力が出ます。腕を振った結果、それに体が連動し、そしてクラブにエネルギーが生じるというのが「上半身のリード」の動きです。(※上半身リード後編へ続く)

TEXT/Masaaki Furuya PHOTO/Tsukasa Kobayashi

※週刊ゴルフダイジェスト2023年9月5日号「上半身リードがエエってホンマですか?」より

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