ここ数年スウィングに悩んでいたという奥田靖己プロ。女子プロの藤田さいきらを指導する大本研太郎プロの動画を見たあと、直接対面し、復活のきっかけをつかんだ。奥田プロがピンときたという「両手をバラバラに使うスウィング」や「上半身リード」について、大本とさらに深掘りしていく。
画像: 「テークバックはこんなふうに左右の手が引っ張り合うイメージやて!」と目からウロコの奥田。「これで勝手に"タメ"もできる。意識してハンドファーストを作ろうとすると振り遅れます」(大本)。上半身リードのポイントだ

「テークバックはこんなふうに左右の手が引っ張り合うイメージやて!」と目からウロコの奥田。「これで勝手に"タメ"もできる。意識してハンドファーストを作ろうとすると振り遅れます」(大本)。上半身リードのポイントだ

ダウンスウィングでは、クラブを左手の小指で引っ張る

木本 短距離のように、ゴルフでもインパクトゾーンでギリギリ転ばないような体勢にすると最大出力が出ます。腕を振った結果、それに体が連動し、そしてクラブにエネルギーが生じるというのが「上半身のリード」の動きです。

奥田 インパクトゾーンでこけるとしたら、どこにこけますか。

大本 前側が多いですよね。ダウンスウィングで右手をムダに使う人が多いので、そうなります。ギリギリこけないようにするため、ダウンスウィングでは、クラブを左手の小指で引っ張ってこないと軸は安定しません。

奥田 分解写真なんかを見ると、切り返しで左腰が先行して下半身がリードをしているように見えるだけなんやろうね。

大本 人間の胸椎は12個あって、7、8、9番目がみぞおちくらいです。皆さん、背骨と一緒にクルクルと回るイメージを持っていますけど、胸椎って途中で逆に回っているんです。関節は交互に逆方向に動くので、腕を使えば下半身がリードして見えるんです。

ハンドファーストは振り遅れになる!?

奥田 「見える」いうことで言えば、インパクトはハンドファーストに当てるんやないんですか。

大本 インパクトはハンドファーストじゃないです。見え方はハンドファーストなんですが、見え方と意識は違うんですよ。

奥田 真逆なんやね。そこが面白いよね。

大本 要するに、インパクト前で右手の動きは終了していて左手に移行している。右が手前にいて、左が先にいるから、手はその間にいるわけです。だけど右手の感覚が強いから、感覚としては右手が先にいっているような意識なんだけど、映像とかで見ると普通にハンドファーストに見えるわけですよね。

奥田 では、アマチュアの人なんかがレイトヒットの形を作ろうと思ったら、どういう動きをしたらいいんですか。

大本 手を「分離」すれば勝手になります。意識してハンドファーストの形を作ろうとしたら99パーセント振り遅れになります。

奥田 ああ、皆がやろうとしているハンドファーストは振り遅れになるわけか。

大本 今、テニスも野球も右側で打つようになっていますが、ゴルフも同じで左に体重移動みたいな動きはほとんどないです。右サイドで打ったほうが体に負担がかからずに飛ぶということ。再現性も高いですし。

画像: テークバックで左右の分離をイメージし、バックスウィングでは引き手は右(写真左)、ダウンからは引き手は左(写真中)。インパクトでは、右手は自分から見て「逆くの字」でOK。「下半身リードを意識すると、ムリに腰を回す動きが出てきます」(木本)

テークバックで左右の分離をイメージし、バックスウィングでは引き手は右(写真左)、ダウンからは引き手は左(写真中)。インパクトでは、右手は自分から見て「逆くの字」でOK。「下半身リードを意識すると、ムリに腰を回す動きが出てきます」(木本)

奥田 プロになろうというような人はどこかでそういう勉強をするやないですか。昔でいったら分解写真を見て「みんなレイトヒットになってるな」とか。そういうのが僕らでもずっとありますから。でも、今の話では、ハンドファーストに当てるのは右手をこんな(自分から見て逆くの字)イメージでと。真逆ですよ。見え方と意識のギャップなんですよね。

大本 そうなんですよ。

奥田 僕は長くゴルフをやってきて、下半身を使ってどうしようこうしようということでよくなった試しがなかった。アドレス時にスタンスをクローズにするとか、そういうことはまた別です。足では何も事が進まない。要するにテクニックいうかクラブの使い方なんか足ではコントロールできんわけですから。

大本 たとえば、よく言われる地面反力というのは、ダウンスウィングの初期が最大であって、インパクトが最大ではないのです。

奥田 僕なんかは、「沼にじゅうたんを浮かべて、そのじゅうたんが沈む前に帰ってこい」と。そんな感じで打てと言われました。「アイススケートリンクで高下駄履いて打つ感覚でやってみ」とも言われましたけどね。本当にはやりませんけど、芝の練習場も上手いやつが打った後は地面が綺麗です。グワーッとやってないんですよ。

大本 皆さん、ダウンスウィングでの踏ん張りがないとパワーが伝わらないと思っているかもしれませんが、それは勝手に「踏ん張る」状態になっているだけ。踏ん張るために上半身を使っているんです。

ゴルフは薬指の使い方が大事

奥田 僕、「指で打つ」いうこともやりましたよ。

大本 たとえば箸は人さし指で操作をしますよね。一方、薬指は安定させる指です。つまり安定側の筋肉が薬指で、操作側が人さし指。多くのアマチュアの方はこの人さし指を使ってクラブを振ってゴルフをしています。人さし指を使うと自由にできるので、気持ちいいから使ってしまう。でも実は、最初に人さし指を使ったスウィングが身に付いてしまうと、あとあと結構大変なんです。

ジュニアの子が試合でスコアがよくないと親御さんに怒られるので、器用な人さし指を使うゴルフをして、ある程度のスコアが出るようなやり方を覚えたとします。でも次第にレベルが上がって緊張する試合になってくると、人さし指って今度は動かない指に転換する。そうやって、ジュニア時代だけ上手かったという選手で終わってしまうケースは多いですよね。

画像: “操作する”人さし指と“安定させる”薬指。「人さし指は器用だけど、緊張すると動かない指になる。指から筋肉のつながりを理解し、薬指の感覚を体幹と連動させることが大事なんです」(木本)

“操作する”人さし指と“安定させる”薬指。「人さし指は器用だけど、緊張すると動かない指になる。指から筋肉のつながりを理解し、薬指の感覚を体幹と連動させることが大事なんです」(木本)

奥田 ゴルフは薬指の使い方が大事なんやね。

大本 運動神経がある人ほど人さし指が反射的に使えます。これがゴルフではよくないほうに影響しがち。一方で運動神経がない人ほど人さし指の感覚が鈍いので、ゴルフではけっこう運動神経が鈍い子が大成したりします。タイガーみたいに運動神経がある人間が薬指の感覚が鋭いと、とんでもないことになりますけど。

奥田 確かに僕は人さし指を使い過ぎやと言われましたね。その辺が今でも抜け切れない。左手の3本指をしっかり握るというのがなんか嫌で、それで人さし指と親指で軽く感じを出して、それで「ゆるゆるグリップ」を覚えたいうのもあるんですけれどね。

大本 悪くはないんですよ。

「昔の『チョキ』で打ってみれば不思議に上手くいく」(2人)

奥田 ただ、95年に日本オープンで優勝したときは、試合のちょっと前に、「人さし指と親指の2本が悪さしているからそれを取れ」と師匠に言われてね。それでトップでクラブの支えがないくらいの感じに2本の力を抜いて、4日間それでプレーした。それで優勝できました。そのグリップを続けていたつもりなんやけど、やっぱり、年齢がいってくると400ヤードを超えるホールでアゲンストが吹いたりするとキツくてね。飛ばしたくなるでしょ。それでだんだんと力が入ってきて、もっと効率のよい方法で飛ばそうとして、右指のほうに力が入っとったんや思います。それで薬指でクラブを操作できんようになっていたので、左右の手の引っ張り合いができていなくて、テークバックで「分離」ができていなかったんや思いますね。

画像: 本来の力は薬指のほうにあるので、人さし指と親指を外して打ってみる。「しばらく続けてみましょう。『分離』も『上半身リード』も体感でき、形もよくなります」(大本)

本来の力は薬指のほうにあるので、人さし指と親指を外して打ってみる。「しばらく続けてみましょう。『分離』も『上半身リード』も体感でき、形もよくなります」(大本)

大本 「~したい」という指令が脳に入ると人さし指が働くようになるんです。でも本来の力は薬指側のほうにあるので、外して打ったほうが飛ぶんですよね。アマチュアの人向けのドリルとして、人さし指を外した状態で打つのもお勧めです。ショットもアプローチも人さし指と親指を伸ばす昔の「チョキ」の形で打ってみましょう。ただ皆さん、5球くらい打ってマスターした気持ちになってやめてしまいますけど、普通のグリップで球を打たないで、これをしばらく続けてみてください。左右の手の「分離」もやりやすくなると思います。

画像: 大本の指導どおりのイメージで実際に打ってみた奥田。「やる前は違和感あったけど、なんや、スムーズないいスウィングですわ」とさらに復活の手ごたえをつかんだ

大本の指導どおりのイメージで実際に打ってみた奥田。「やる前は違和感あったけど、なんや、スムーズないいスウィングですわ」とさらに復活の手ごたえをつかんだ

奥田 思い込みとか固定観念って、ベテランになるほど増えてくるやないですか。それを、これも要らなかった、あれも要らなかったとなってくればいいわけですよね。

大本 その通りです。ゴルフの進化は「断捨離」なんで、やることが少なくなればいいんです。

奥田 よくなろうと思うと、捨てていけないんですよね。だからそうやって整理をしてくれる大本さんみたいな人が必要になってくるわけですよ。今日はありがとうございました。また来ますわ。

TEXT/Masaaki Furuya PHOTO/Tsukasa Kobayashi

※週刊ゴルフダイジェスト2023年9月5日号「上半身リードがエエってホンマですか?」より

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