蝉川の日本オープン優勝に「悔しさ」と「焦り」
大学3年時の冬、ファイナルQTを2位で終えた平田憲聖に、感想と理想のプロ像を聞くと、
「本当に実感がない。でも、自分のゴルフでギャラリーの方に“魅せられる”、周りの方に感謝を忘れないプロになりたいです」
と答えた。
今年、プロ入り2年目にして大ブレークした平田は、その頃と変わらぬ思いを抱いている。
初優勝は5月のミズノオープン。高校時代から世話になるクラブメーカーのホストプロとして恩返しできたし、同級生の中島啓太にプレーオフで勝ったのは大きい。
「そうですね、自信にはなりました。(同級生では)特に蟬川(泰果)とは、国体に大阪代表として一緒に行ったり関西の試合でも一緒でしたけど、啓太は関東でずっとナショナルチームだったので」
蟬川が昨年の日本オープンでアマチュア優勝したときは、
「テレビで観ていてすごいなと思いましたし、悔しいなとも思いました。でもそのときの僕は賞金シード争いのなかにいて、日本オープンに出られないので順位が下がった、その焦りのほうがありました」
全英オープンの経験が日本プロで生きた
常に自分の居る場所を見ながら、冷静に闘志を燃やしているのだ。ミズノオープン優勝で得た初の海外メジャー、全英オープン(ロイヤルリバプール)への挑戦は、予選落ちはしたものの大きな経験となって蓄積され、帰国後すぐの日本プロで生きた。
「リンクスは初めて。難しかったです。いきなり行って何日か練習してというのでは経験の差は出ます。でも、長いパットもしぶとく入れられて自信になったし。日本で風がないというのは、そのぶんやさしく感じました」
その日本プロでは、どれだけ長いパットが残っても徹底してグリーンオンすることを意識した。難しいセッティングなので、アプローチをしたくなかったという。最終日の前半はタッチが合わず3パットも多かったが、
「グリーンが遅くなっているように感じて」
後半はシンプルに強く打った。皆がショートするなか、長いパットも入れ、静かで力強いガッツポーズも出た。
「史上最年少優勝は、終わって知ってびっくり。嬉しいですよね。いつかは抜かれるかもしれないですけど、やっぱり名前が残るのは」
「コツコツ、真面目にやる」が強さの秘密
平田に今の強さの秘密を聞くと「コツコツ、真面目にやること」という答えが返ってきた。
なるほど、これも高い集中力につながっている平田が7歳でゴルフを始めたのは祖父の影響だという。
「お爺ちゃんは今も毎週河川敷に一人でブラっと行くくらいゴルフ好きで。姉ちゃんと一緒にやりたくて練習場についていったのがきっかけでハマった。実は叔父さんはティーチングプロなんです」
それ以前は、母の影響でバレーボールをしていた。
「小学校時代はクラブチームで。だからゴルフは週1、2回。小6からゴルフに本気で取り組み、試合に出るようにもなりました。練習して上達していくなかで、プロになりたいなあと思っていったのかもしれないです」
練習場のプロなどに教わってはきたが、高2くらいからは基本自分がコーチだ。
「やっぱり、自分のスウィングの感覚などがわかるのは自分です。僕は言われてやるより、自分で考えてやったほうが結果もいい」
自分でこだわり、決めたことにはとことん突き進む
時期により参考にするプロも変わる。
「そのときのイメージと合うスウィングの人を見たりします。マキロイのスウィングがいいと思ったときもありますし、全英の少し前から、ミンウー・リーがカッコいいなあと思って見ています」
いいときのスウィングをビデオで見返したり、何を意識していたかノートに書いた記録を見返したりもする。
自分でこだわり、決めたことにはとことん突き進む。
大学進学も、大学3年時にプロ転向したこともそうだ。それまで大阪学院大学では在学中のプロ転向は許可されていなかったが、この年のJGTOの制度変更により、日本学生で優勝した選手は、サードQTからの参戦の権利が得られたのだ。
「井上先生(大阪学院大ゴルフ部総監督)や学校の方に相談して、『そういう道を選ぶのであれば応援します』と言っていただいた。サードからとセカンドからでは違うので。ノーと言われたら、学校を辞めていたかもしれません」
日焼け止めや化粧水のケアは怠らない
ここで、いくつかの質問を平田にぶつけてみた。
――今、飛距離は290ヤードくらい。もっと飛ばしたい?
「コンスタントに300飛ばせたら最高ですけど、今の日本ならそれよりもフェアウェイにいるほうが有利に働くかなと。でも全英で、もっと距離があればゴルフは全然変わると思いました」
――いつも落ち着いているのは?
「あまり欲がないからかも。毎週優勝するぞ! と望んではいないし、いい位置にいたら勝ちたいとは思いますけど、最終日も絶対に勝つぞという感じではない。もともと自分にあまり期待しないんです」
――ゲン担ぎはしますか?
「よかったときのパンツは履きたいなんて思ったこともありますけど、毎週試合が続くと考えすぎはしんどくなるので。最低7時間寝たいなどルーティンはあります。5月にミズノで勝って、メジャーで勝って、ケガとか事故には気をつけようとは思っています」
――肌がすごく綺麗で色白です。
「自分で言うのもなんですけどもっと綺麗だったんです。初対面の方に100%の確率で『何でそんなに綺麗なの』と(笑)。コロナ禍でマスクを着けていて荒れました。日焼け止めや化粧水のケアは怠らない。多少焼けてもすぐに色白に戻りますけど、肌はもっと綺麗にしたい。見られる立場なので清潔感はほしいですよね(笑)」
海外挑戦はアメリカで……
そんな平田には日本のゴルファーをもっと増やしたい思いがある。
「自分が活躍するのはもちろん、ゴルフする以外にも何かもっとやれたらなと。SNSがいいのかわかりませんが、発信していきたい」
後半戦の目標は、
「優勝争いを積み重ねていきたい。そして勝ちたいです」
「賞金王」は考えていない、いや、口にしない。もっと先の目標を聞いても、
「コツコツ頑張りたいので、あまり大きなことを言いたくないんです。自分で自分にプレッシャーをかけたくない。でも頑張りたいです」
海外挑戦を見据えてはいるが、言葉に出さない。それでもあえて、ヨーロッパかアメリカか聞くと、
「それはやっぱり、アメリカのほうが世界一のツアーなので……」
と静かに答えた。
PHOTO/Tadashi Anezaki、Hiroyuki Okazawa
※週刊ゴルフダイジェスト2023年9月12日号「平田憲聖『コツコツと、真面目に』」より