『私にもできる!』という気持ちが若い選手に芽生えた
毎年行われるプロテスト。今年もすでに第1次予選が始まっているが、第2次予選、最終プロテストを勝ち残った約20名が合格し、晴れてツアープロになることができる狭き門だ。さらに2020年からはQTの受験資格がLPGA会員に限定されたため、推薦などを除けば、ツアー出場権を得るには基本的にプロテスト合格が必須。そんな中、最近のプロテストのレベルが過去よりも上がり、
「相当な実力がないとプロになることができない」
と指摘するのは南秀樹プロコーチ。
「僕らの世代の女子ならば、実力のある選手であれば1次はハーフセットでも通過できていました。でも今は1次を通過するだけでも、かなりのハイレベル。競争が激しく、プロテストを合格できれば、その時点でツアーで活躍できる実力を身に付けていると言えます。
そんな彼女たちでも、試合で勝つとなると一握りに絞られますが、今は岩井姉妹のようにレギュラーツアー経験が少ない選手が勝ったことで、『私にもできる!』というポジティブな気持ちが若い選手に芽生えているのだと思います。
また、吉本ひかる選手や山内日菜子選手のようにプロ転向後に苦労しても優勝できたことで、まだ優勝のない選手にもモチベーションになっていることも初優勝者を増やしている要因だと思います。下部ツアーもレベルが上がっていて、競争という意味ならレギュラーツアーよりも激しい。そこで勝った選手がレギュラーツアーでも今季初優勝(吉本ひかる、山内日菜子、岩井明愛、櫻井心那、小滝水音、蛭田みな美)を飾っているので、今後も誰が勝ってもおかしくないし、下からもどんどん新しい選手が出てくると思います」
「絶対王者不在」と「隙間=チャンス」
タケ小山も門戸が狭いプロテストやQT制限を初優勝が多い理由に挙げるが、それ以上に絶対的な強さを持っている選手が国内ツアーにいないと指摘。
「昔でいえば不動裕理さんが2000年代に絶対的な強さを誇っていて、その当時宮里藍さんもいましたが、不動さんは若手の挑戦を跳ね返す存在でした。一昨年は稲見萌寧、昨年は西郷真央と山下美夢有が大活躍し、今年も山下が4勝を挙げているとはいえ、数年間にわたり頂点に君臨する選手はいません。さらにここ数年、実力のある選手が米ツアーに挑戦する流れがあり、畑岡奈紗、笹生優花、渋野日向子、古江彩佳、西村優菜、勝みなみ……と日本で活躍して絶対的な存在になる可能性を持った選手が米ツアーに挑戦。さらには海外メジャー出場のため有力選手が多く欠場した試合もいくつかあった。そういう要素が重なって国内女子ツアーに『隙間=チャンス』が生まれたことも初優勝が多くなった理由です。また、プロテストとQT2勝目、3勝目にも期待したいです」
9カ月間ほぼ休みなしの過密スケジュール
3月1週目から11月末まで、9カ月間で38試合行われる女子ツアー。ほぼ毎週試合があるタイトな日程にも若手が台頭しやすい土壌があるとタケ小山。
「3月に開幕してから最終戦まで、レギュラーツアーで空きがあるのは7月の1週間のみ。毎週移動しながら試合を続けています。シード決定方法も賞金額からメルセデスポイントになったことで、以前のように高額賞金大会で活躍できたら、どこかの大会をスキップして休みを取るというわけにはいかず、50位以内を目指すには、海外メジャーで活躍しない限りは、試合に出続けてポイントを加算させる必要があり、体力的に相当きつくなります。体力のある若い選手がはまった試合で活躍するのもそれが理由のひとつ。後半戦から終盤まで連戦なので、これから新しいヒロインが生まれたとしても驚きはありません」
11月の最終戦に向けて、ツアーは佳境に入っていくが、南コーチとタケ小山の言葉からすると、初優勝組の複数優勝の達成、そして新たな初優勝ヒロインの誕生もありそうだ。
※週刊ゴルフダイジェスト2023年9月12日号「初優勝の流れは止まらない!」より