みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究家で、ゴルフインストラクターの大庭可南太です。前回に引き続き、今週もゴルフにまつわる物理のお話です。今回は「シャフトのしなり」と、それを活用することでボールの弾道がどのように変化するかについて解説をしたいと思います。
シャフトがしなるのはなぜか
まず、なぜシャフトが「しなる」のかですが、そもそもシャフトを完全な剛体、つまりいっさい「ねじれ」や「しなり」の発生しない状態にすることは、シャフトの長さや素材、形状(テーパー構造)からほぼ不可能なため、実際にはクラブヘッドを装着して持ち上げたときの「静的」な状況下でも少しはしなっているはずです。
これがスウィング中の「動的」な状況下でどのように変化するかですが、ここでクルマの屋根にゴルフクラブを装着した状況で考えてみることにします。
まずクルマが発進して速度を60km/hまで上げているとします。このときクルマの加速度に対して、クラブヘッドは「慣性」でその場に留まろうとするチカラが働きますので、やや遅れて速度を獲得するため、シャフトが後方にしなります。
ついでクルマが60km/hに到達してそのまま巡航する(加速度がなくなる)と、クラブヘッドの速度も追いつくために、しなりは解消されます。
そしてクルマがブレーキをかけると、そのマイナスの加速度もクラブヘッドには遅れて伝達されるため、シャフトは前方方向へしなります。
要はクルマとクラブヘッドの間の加速度に差が生じたときに、シャフトがしなることになります。ここまでは誰が聞いても「あたりまえ」のことを言っていると思いますが、これがことゴルフ界では「あたりまえ」にならないのです。
スウィング中シャフトはどう「しなる」のか
これをゴルフのスウィングにあてはめて、シャフトがどのようにしなるのかを考えて見ます。
ここではクラブのしなりの状態を、ターゲット方向へのしなりを「プラス」、ターゲットと逆方向へのしなりを「マイナス」として表現します。
まずアドレスの状態からクラブを後方にテークバックし始めるとき、クラブヘッドは慣性でその場に留まろうとするため、シャフトはわずかに前方方向にしなってしまう、つまり「プラス」のしなりが発生します。
その後テークバックの中間でクラブヘッドの速度が両手に追いつき、一端しなりが解消されるポイントが発生します。
トップから切り返しでは、スウィングの運動方向が逆転します。
これまで目標と逆方向に動かされていたクラブヘッドが、突如ターゲット方向に振り出されるため、やはりクラブヘッドの慣性が働いてシャフトは瞬間的に大きく「マイナス」方向にしなります。
これ以降、ハーフウェイダウンに向けて両手が加速し、クラブヘッドはそれに追随する形になりますので、「マイナス」方向のしなりを維持します。
しかし両手の位置が腰のあたりに来たところで、それまで行っていた下方向への加速をそれ以上行うことができなくなり、クラブヘッドが両手を追い越そうとする「リリース」の状態になりますので、ここで「プラス」方向のしなりに変化します。
インパクトに向けて正しくクラブヘッドが加速していく場合、両手の加速度は減少していきますので、「プラス」のしなりを維持します。
そしてインパクトでは、ボールとの衝突によってシャフトの「プラス」しなりは減少、あるいは「マイナス」に転じる瞬間を経て、ボールが飛んでいった直後のフォローではクラブヘッドが加速度を取り戻して再び「プラス」のしなりになります。以後フィニッシュに向けてクラブと両手の双方が減速していくとともにしなりは解消されます。
「逆しなりで飛ぶ」は本当か?
実はハーフウェイダウンで、シャフトが「プラス」方向にしなる、「逆しなり」についてはなぜか昔から議論があり、「そんなことは起きない」あるいは「(デジタルカメラ特有の)ローリングシャッター現象によるもの」という説を主張する人がいますが、今回のように「なぜシャフトがしなるのか」を考えれば、その主張が疑わしいことがわかります。
そもそもデジタルカメラが登場するはるか以前から、この「逆しなり」という現象は確認されていました。
重要なことは、このシャフトのしなりが、スウィングあるいは打ち出されるボールにどのような影響を与えるかということです。
実は3DモーションキャプチャーのGEARS(ギアーズ)では、静止した状態のクラブと、スウィング中のクラブを比較することでシャフトのしなり量を計測することができます。ここでもハーフウェイダウンからインパクトにかけてシャフトが「逆しなり」することが分かっていますが、これによってヘッドスピードをどれだけ余分に獲得できたかが数値化されています。
その数値を見ると平均で2〜3%ですので、シャフトの特性に合った良いスウィングをすればヘッドスピードが40m/sの人は41m/sになるくらいの効果があります。これを飛距離に換算すれば5〜6ヤードだと思われますが、効果がないわけではありません。
それよりも大きいと思われるのは、シャフトがプラス方向にしなるということは、インパクトで「フェースが閉じる」かつ「ロフトが増える」ということでもあります。従って、これによって「つかまる」「上がる」という効果を得られることになります。よってスライス傾向のプレーヤーが自分のスウィングに合った柔らかめのシャフトにする恩恵は存在するはずなのです。
ただ研究すればするほど、スウィング中にゴルファーがどのようにクラブにチカラをかけているかと、そのタイミングは人それぞれですので、一概に「非力なプレーヤーは柔らかめのシャフト」と言い切ることはできません。
かつては「硬い=重い」あるいは「軽い=柔らかい」という傾向がありましたが、最近は技術の向上で重量帯に関係なくシャフトの特性を変化させることができるようになっています。メーカー各社のフィッティングなどに行ってみることで意外な発見につながるかも知れません。