「渋野日向子プロに会ったら、『姉さん』と呼ぼう」(大畑)
GD ついに上原さんに勝ちました。おめでとうございます!
大畑 ありがとうございます。今はやっと、人に「上原に勝ちました」って言えるようになったのがうれしい。練習場のおっちゃんたちとか、地方で行ったお店の人とか、知らない人たちにもさんざん「負けてましたね」って言われたから。テレビと雑誌に結果が出るまでは「勝ちましたから」と言えず、モヤモヤしてました。やっと言える。皆さん、オレ、上原に勝ったんですー(笑)
GD そもそも何で上原さんとゴルフの勝負をすることになったんでしたっけ?
大畑 2021年の新年の目標を色紙に書くってことになって「上原待ってろ!」と書いたんです。あなたが色紙持って来たでしょ(笑)。
GD そうでした。正確には「上原(建山)待ってろ!」でしたね。
大畑 東海大仰星高の1年1組には、上原浩治だけじゃなく建山義紀もおったから。ライバルとして2人の名前を挙げたんです。
GD わりと軽い気持ちだったんですよね。
大畑 そうそう。そうするうちに「待ってろ、ウエハラ」の連載(週刊ゴルフダイジェスト)が始まって、テレビの「レッツトライゴルフ」も始まって。
GD 青木翔コーチの門下に入ってもらって、連載は「シーズン3」まで続きました。
大畑 そうですよ。オレも新顔ではあるけど青木門下生。渋野日向子プロの後輩にあたるんで、もし会ったら「姉さん」って呼ぼうと思っています。
「ゴルフは、インパクトの瞬間がすべてやと思ってた」(大畑)
GD しぶこの怪訝そうな顔が目に浮かびます(笑)。でも、青木コーチとの出会いは大きかったですよね。
大畑 それはほんまに思いますね。今回の勝利も青木さんのおかげ。
GD 青木さんは、最初、私たちが大畑さんを紹介したとき「エグい人が来た」と思ったそうです。フィジカルもメンタルも。あと、体幹はめちゃめちゃ強いけど、回転という動きを知らない。いかにもラガーマンのゴルフだなあと。
大畑 そう、オレ、野球とか道具を使うスポーツをしたことがないんです。スウィングっていうのがわからないから、クラブをどれだけ強くボールに当てるか、そればかり考えてたんですよ。インパクトの瞬間がすべてやと思ってた。で、前に飛ばせば飛ばすほどいい、と。
GD 振るというより強く当てにいっていましたよね。それが大けがのもととも知らずにね(笑)。
大畑 笑うとこやないですよー。
GD それが、上原さんに勝つまでになるとはこちらも感慨深いです。最初のころは「アカン!」の声がゴルフ場にこだましていました。
大畑 最近、アレ、ないでしょ。
「”あの日”のオレの落ち込みぶりは嫁も驚いてた」(大畑)
GD 1回目の対決の5番ホールでシャンクしたときみたいなやつね。結局、あのホールで「10」叩き、8番ホールでも「9」叩いたんでしたね。
大畑 「10」とか「9」とか、そんなに大きな声で言わんでもいいって(笑)。1戦目は善戦したなとは思ったけど、めちゃめちゃ悔しくもあった。あのシャンク、1打目が超ナイスショットやったから、欲が出てしまって集中できていなかった。今でもはっきり覚えてるな。
GD 2度目の対決からはテレビの収録も同時にしていて。
大畑 そう、だから不甲斐ない姿は見せられへんっていう思いがますます強まって。技術面でも少しは自信もついていたから、2日間にわたった対決の1日目の夜はひどい有様やった。
GD ああ、初日、2番ホールから3連続ギブアップしましたもんね。ギブ、ギブ、ギブって。
大畑 だから、そう何度も言わんでいいって(笑)。でも、あの日のオレの落ち込みぶりは嫁も驚いてたくらい。
GD 2日目、来ないんじゃないかと心配しました。来なかったら「大畑くーん、一緒に行こうー」ってドアを叩きに行こうかと思っていました。
大畑 小学生じゃないんやから(笑)。
「青木翔さんの指導は消去法」(大畑)
GD 青木さんもいましたしね。
大畑 青木さんの存在は大きかった。ほんと青木さんがコーチで良かった。青木さんのオレに対する指導は消去法なんです。すべてをガラリと変えようっていうのじゃなくて、オレの持っているゴルフの要素で、コレとコレは消して、残すもんは残してくれる。それで、戦えるところまで持っていってくれた。青木さんの中で、この企画の最終地点への道筋ができていたんやと思う。青木翔の“大畑大介マネジメント”みたいなものかな。
GD あら、いいこと言う。
大畑 でも、上原対決のときはちょいちょい上原にもアドバイスするから油断も隙もなかったけど(笑)。
GD 上原さん、「青木先生」って呼びますからね。
大畑 「青木さんはオレのコーチやぞ」って何回言ったか。
GD そういうところが小学生のよう(笑)。
「なんせ、オレの敵はリキミでした」(大畑)
大畑 シーズン2では小学生女子との対決で本気出したし!
GD 「バックティーから勝負したい」と言い出した回ですね。
大畑 いちいちやめて(笑)。
GD 最初の頃の「飛ばせば飛ばすほどいい」と思っていた大畑大介はもうここにはいない。
大畑 いませんよー。
GD 力任せに当てにいっていた大畑大介も……
大畑 いません。なんせ、オレの敵はリキミでしたから。うるさいことを言わない青木さんが終始言っていたことは「リキまないで」でした。でも、ほーんと最初はそれができなかった。ラグビーで試合中に脱力することなんてないから。
GD 自分は脱力して道具に仕事させるっていうのも……。
大畑 常に体一つで勝負してきたもんでね。
GD 難しいですよね。
大畑 リキみは最後までオレの敵やった。上原との3戦目の前日も練習場に行ったんやけど、打ってたら、隣の打席に、たまたま(元阪神の)関本(賢太郎)君が来て、エグい球を打ち出して。それでリキむなっちゅーのが無理。何かの罠かと思ったわ(笑)。
「弾道計測器でチェックするようになったら、一打に集中できる……」(大畑)
GD 前日も練習場に行ってたんですね。3戦目の直前はかなり練習したとか。
大畑 そりゃあするでしょ。スタッフのガッカリする顔とか思い浮かぶんやから(笑)。青木さんとこのアカデミーも何回か行きましたしね。でもね、練習の仕方は変わった。前は何百球も打って数に満足してたんやけど、どんどん1球に集中することの大切さがわかってきたんです。弾道計測器のトップトレーサーってあるでしょ。青木さんのアカデミーのレンジにもあるし、ほかの練習場でも増えてきてますけど、あれで弾道や飛距離、ボールスピードなどのデータを1球打つごとにチェックするようになったら、めちゃめちゃ一打に集中できるようになった。コースでのイメージも湧くし。ラグビーの現役時代から“練習のための練習”になったらアカンと思っていたけど、ゴルフではまさしくそうなってしまっていたんです。
GD スタッフのいないところで、そういうふうに仕上げていたとは。
大畑 何事も準備が大事。仕事だって同じでしょ。
GD ギクッ。
大畑 以前は練習場では打ち放題がお得かなって思ってたけど、最近は違いますよー。もう、1球に対する意識の高さが以前とは段違いですから。
「強く握ることを意識しすぎていたら、逆にクラブがすっぽ抜ける」(大畑)
GD トップトレーサーが大畑大介の意識を変えた! なんだかCMが来そう(笑)。そのほか「これで変わった」みたいなことはありましたか?
大畑 対上原の直前に谷繁(元信)さんと対決したでしょ。あれはデカかったですね。でも、谷繁さんといい勝負できたから……とかじゃないですよ。自分自身がまだ仕上がっていない段階でしたけど、それまでのような“散らかった感じ”はしなかったから、この方向性でいいんだなという確認になったというか。
GD あと、谷繁戦、大雨でしたよね。そしたら、奇しくも上原戦の初日が同じような天気でした。いいシミュレーションになったのでは?
大畑 それはありましたね。でも、谷繁さんとの対決で一番強く思ったのが、雨の日ゴルフは“すべる”ってこと。
GD クラブが飛んでいった名シーン! あれは、なかなかおいしかった(笑)。
大畑 スタッフ側にとってはでしょ(笑)。強く握ることを意識しすぎていたら、逆にクラブがすっぽ抜けるって……。さすがに動揺してしまって、直後に引っかけをしてしまい、その後もフラッシュバックするくらいでした。ゴルフがいかにメンタルのスポーツかっていうのがわかりました。
「うまーく脱力できるようになったら自然とドローボールに……」(大畑)
GD ギネス記録を持つラガーマンを震えさせるスポーツ。それがゴルフなんですよね。上原さんとの3戦目のときのメンタルはどうでした? 平常心で臨めていましたか? こちらから見ると“いつもの大畑さん”でしたが。
大畑 結果が良かろうが悪かろうが、これが最後だぞとは思っていました。ここで出せるものはすべて出したい、そんな気持ちでしたね。だから、企画上は「対上原」なんやけど、実のところ心境は「対自分」やったんです。上原の状態が良くても悪くても関係なくて、自分の力がどれだけ出せるか。オレの場合、重要なのはティーショットです。これを何とかワクに収める。そうすれば何とかなるんです。それを肝に銘じていたから、オレ、最後の上原戦、OB出してないでしょ。
GD あと、フェードヒッターだったはずが、最後の上原戦では大畑さん、ドローボール打ってましたよね。アレ、何だったんですか?
大畑 実は谷繁戦のときからちょっとそんな感じになってたのよ。気付かなかった? スライスを直しつつ、うまーく脱力できるようになったら自然とドローボールが出るようになっていた。
GD アレにはびっくりしました。
大畑 それが、上原戦の後は打てなくなってるから安心して(笑)。
GD え、戻ったんですか?
大畑 今はストレートボールみたいな感じ。でも、だからといって焦らない。その日、出たボールなりに何とかするっていうのが青木さん流やから。あと、できないことはしない。これは谷繁戦で再認識できたことでした。ほら、谷繁さんとちょっといい勝負したでしょ。で、谷繁さんの「いけるんじゃない?」みたいなささやきにも乗せられて、ありもしない引き出しを開けようとして自滅したじゃない?
「自分のできることをやる。できないことはしない。ラグビーではわかってた」(大畑)
GD あ、ラウンドで無理やり引き出しを開けようとするパターン、谷繁戦以外にもありましたね。1回目、2回目の上原戦、当時小6の大槻呼幸ちゃん戦、小倉ひまわりプロ戦……。
大畑 オレが負けた人たちの名前をすべて挙げるのやめてください(笑)。
GD 名シーン・珍シーンが走馬灯のように……。
大畑 自分のできることをやる。できないことはしない。気付かせてくれたのは青木コーチと対戦相手ですね。
GD すごい成長ぶり。
大畑 ラグビーではそれがわかっていたんやけど、ゴルフになって見えなくなっていた。
GD そうなんですね。
大畑 ラグビーでは、もちろん試合後に映像を見返すんやけど、自分のいいプレーは特に気にしていなかった。何をしたらアカンのか、それを気にしていました。そのアカンところを削っていけばいいんですから。こういう状況のときに自分がこうしていて、ミスにつながった。なら次からは同じことをしないようにすればいいんです。試合後は、自分の悪かった部分を抽出する。この作業を大事にしていました。いいプレーの残像は残さんようにしてましたね。残すのは悪いプレーのほう。
GD 良かったプレーに酔うタイプかと思っていました(笑)。
大畑 それが違うんですよ(笑)。悪い部分にこそ向き合うんです。ただ、試合の直前はいいプレーを見返して、いいイメージを植え付ける、みたいなことはありましたけどね。
「自分の弱点を見つけたらラッキー。その分成長できるチャンス」(大畑)
GD でも、自分の弱点やミスに向き合うってツラい作業ですよね。
大畑 確かにそうなんやけど、幸いオレの場合は、今回、雑誌やテレビの企画としてやらせてもらったので、後日、それが面や映像に出てくる。それはもう向き合わざるを得ない(笑)。最初にも言いましたけど、みんなに「負けてたね」って言われ続けるんですよ。知り合いからは「ヘタ」ってスマホにメッセージ入るんですよ。
GD ああ、それは嫌だな(笑)。
大畑 ラグビーでもゴルフでも“いいプレー”があったとして、それ以上のことはなかなかできない。でも“悪いプレー”は削ることができる。それで自分のプラスになるんですよ。だから、自分の弱点を見つけたらラッキーですよ。その分成長できるチャンスなんですから。オレは弱点を「マイナス」と考えずに「ゼロ」と考えるんですよ。すると、あとはもうプラスだらけ。伸びしろだらけ。それってすごくないですか? オレの場合はゴルフでしたけどね、新たな「ゼロ」が見つかるのって素晴らしいこと。だから、これまで負けてきた対戦でも、ただのひとつも無駄なことはなかったんですよ。ほんと、上原には感謝しかない。具体的にイメージできるという点でも、とにかく最高の目標でした。
GD 「でした」(笑)。
大畑 今の悩みは上原に勝ったことによるバーンアウトですよ。練習場のカード、かなりチャージしているのに最近減らへんもん。やっぱり上達のためには目標って大事なんですよ。それも、自分がイメージできる目標がいい。となると、次なるターゲットとして想定しやすいのは元1年1組の建山義紀かな。彼は今、北海道日本ハムファイターズの投手コーチなんでね。次は北海道かあ。来オフくらいがいいんちゃう?
PHOTO/TadashiAnezaki、ARAKISHIN、Hiryuki Okazawa、Hiroaki Arihara
※週刊ゴルフダイジェスト2023年9月19日号「待ってろ、ウエハラ ついに完結」より