自分の体重やパワーをボールに伝える、飛ばしの3条件
体格も筋力も勝る男性アマチュアが女子プロより飛ばない。この矛盾はどうして起きるのだろう。
「それは矛盾ではなく、"パワーポイント"を知らないだけなんです。パワーポイントとは私が作った造語ですが、20年以上前から提言している概念です。このパワーポイントには3つの要素があり、これさえクリアできれば、誰でも簡単に飛ばせるようになります」
そう語るのは岸部桃子プロのコーチであり、スウィング理論に詳しい横田英治プロだ。
3つの要素は後述するとして、このパワーポイントについて横田プロは、
「野球やテニス、卓球など、自分に向かってくるボールにはエネルギーがあり、それを跳ね返すこと(反発力)でパフォーマンスが上げられます。ですが、ゴルフは静止したボールを打つので、ボールにエネルギーがありません。となると自分の体重やパワーをいかにボールに伝えるかが、飛ばすための条件になります。それが私が定義するパワーポイントです」
このパワーポイントのヒントが女子プロのインパクトに隠されているという。
19歳で今季3勝を挙げた櫻井心那や女子ツアーを牽引する岩井姉妹のスウィングを見ると
「3人のスウィングで注目してほしいのは右ひじ、頭の位置、背骨の傾きです。3人のインパクトは完璧にパワーポイントが整っています。これが飛ぶインパクトです。ここに飛ばしの3条件が隠されています。逆に言えばアマチュアが飛ばない、すべての理由でもあるのです」
大切なのはインパクトに向かって左足に体重が移動すること
自分のパワーをボールに伝えるにはコツがある。その3条件を次頁で詳しく教えてもらおう。
横田プロが語るパワーポイント=飛ばしの3条件とは、どういうものなのか?
横田プロが指摘するひとつ目が「左体重」だ。
「まずはボールに対して自分の体重を乗せます。シャフトを通してヘッドを地面にめり込ませるくらい、押し込んでみてください(折れないよう注意)。そうすると左足体重になり、シャフトが左に傾いたハンドファーストの形になるはずです」
右体重ではシャフトは傾かず、ヘッドは前にスッポ抜けるだけだ。逆に左足に乗り過ぎる、体が突っ込んだ状態だとヘッドは地面に刺さって抜けなくなる。
「大切なのはインパクトに向かって左足に体重が移動することです。重心はほぼセンターで、わずかに左に動くようなイメージです。決して右には動きません」
ひじが体に近いと腕力と脚力、両方使える
次の要素が右ひじだ。ひじはパワーを出すうえで重要な部位。
「床にある重いモノを持ち上げるときを考えてください。ひじが体から遠いと腕力しか使えませんが、体に近いと腕力と脚力、両方が使えます。つまり全身の重さやパワーが使えるということです」
プロの右ひじは例外なく、体の近くにある。
だから飛ぶのだ。
頭が右に残る、いわゆるビハインド・ザ・ボール
3つ目の要素が頭の位置だ。頭が右に残る、いわゆるビハインド・ザ・ボールが理想となる。
「注意してほしいのが、ただ頭を右に傾ければいい、というわけではありません。注目すべきは頭からつながった背骨の傾きなんです。背骨が右に傾くとボールに対して胸が閉じた状態になります。この胸の向きが重要です。胸が閉じていれば、クラブはインサイドから下ろせます。ボールがつかまり、強く押せるのです。腰の開き具合に対して胸が閉じている、このインパクトの形が力の伝わるパワーポイントになります。
パワーポイントはこの3つしかありませんが、ひとつできると不思議とほかの2つもできることがあります。この3つは連動しているのです。自分がつかみやすいものから始めるといいでしょう」
セットアップで3つの条件を整える
横田プロは飛ばすための3つの条件が整えば、飛距離は間違いなく伸びると言う。では、どうすれば、3つの要素は身につくのか?
「アドレスをひと工夫するだけでそのきっかけがつかめます。つまりセットアップで3つの条件を整えることが可能なんです」
スウィングは一度始動してしまえば、一瞬の動きだ。
右ひじ、左体重、頭右といった3つのパワーポイントを意識するのは、なかなか難しいだろう。それなら打つ前の構え方で3つの要素へと導けるようにすればいい、という。
「3つのパワーポイントは"右"が強調されがちですが、実は右でコントロールするわけではないのです。大切なのは"左"なんです。左手であり、左腕(左ひじ、左わき)であり、左足にあります。その発想が持てるかどうかが、飛ばしの3条件につながる近道になります」
セットアップはすべて"左"で行う
横田プロが教えてくれたセットアップはすべて"左"で行う。まずは左手でクラブを握るのだ。
「アマチュアの多くは右手でクラブを握っています。もちろんクラブは両手で持っていますから、厳密には“右手が強い”になります。それとは反対にプロは左手でクラブを握っています。左手がメインで握っているということです。実際に左手1本、右手1本でドライバーを持てばわかりますが、左手に持つとハンドファーストになりますが、右手で持つとハンドレイトになります。この時点で自分のパワーをボールに伝えられるかどうかがわかるはずです。
そこから左腕を左胸の上に乗せます。こうすると右ひじと同様、左ひじが体に近づきます。そして右手を右ひじが体につくように握ります。これで両わきの締まった飛ばせるグリップが完成です」
このグリップが飛ばしの3条件へと導くステップとなる。
アドレスを確認しよう。
「ターゲットに対し、ややクローズスタンスで構えます。そうすると左足に体重移動しやすくなります。これは体の構造上の特性でもありますが、人間は前に出した足に体重移動するものなのです。ですからクローズに構えると左足が少し前に出た状態が作れます。それを利用することで左体重になりやすくするわけです」
左手リードでハンドファーストになり、右手が力まないから右ひじも離れない。
クローズに構えれば左足に乗れるのだ。
最後に、インパクトが強くなる簡単ドリルを。
飛ばしの練習はインパクトバッグが最適と横田プロ。
「テークバックはひざの高さでいいです。当てる動作をゆっくり2回行い、最後にスピードを出して叩きます。これを繰り返せば、飛ばすコツがつかめますよ」
飛ばしの3条件を意識して、女子プロのようにもっと飛ばそう!
TEXT/Kenji Oba
PHOTO/Tadashi Anezaki、Hiroaki Arihara、Shinji Osawa、Hiroyuki Okazawa
THANKS/クラブハウス
※週刊ゴルフダイジェスト9月26日号「飛ばしの条件は『左体重』『右ひじ近く』『頭右』」より