最終日は「英莉花」と「絵理香」の"エリカ対決"
日本海を望む最終18番、原は80センチのウィニングパットを流し込むと、ボールを持った右手を高々と突き上げた。最終組で最後まで激戦を演じた菊地とハグをしてお互いの健闘をたたえ合う。
それからスタンドを埋め尽くした大ギャラリーに向かい、満面の笑みを浮かべながら万歳ポーズ。異次元の強さを見せつけた女王に向かって、再び大きな拍手と声援が降り注いだ。
「本当にうれしい気持ちでいっぱいです。自分を信じて18ホールを回り切るだけだと思っていたので、頑張った。たくさんの方に応援していただいて、自分は幸せだなと思います」
最終日は最終組の2人によるマッチプレーの様相を呈した。
20年大会の覇者で24歳の原と過去13、15年に2位、18年3位、トップ10入り7回を誇り今季1勝を挙げている35歳の菊地ががっぷり四つに組み、一瞬たりとも目が離せない好勝負を繰り広げた。
1番パー5で原が飛距離のアドバンテージを生かし2オン2パットのバーディを奪うも2番でアプローチをミスしてボギー。
3番で菊地が3メートルのバーディパットを決めて、この時点で2人が通算11アンダーで首位に並んだ。
どちらに優勝への流れが傾いてもおかしくない展開だったが、原が力でその流れを奪い取る。
548ヤードの距離がある5番パー5、原は残り234ヤードの第2打を3Wで打ち、ピン左奥5メートルに2オン成功。このイーグルパットを決め、頭ひとつ抜け出した。
なおも攻撃の手を緩めず、7番で6メートルのバーディパットを沈めてリードを広げ、最後は15番で4メートルを決めて菊地を突き放した。
菊地は何度もピンチを乗り切り、随所で難しいパーパットを決めて食い下がったが、原に追いつくことはできなかった。
「この2日間、強い絵理香選手と戦って、自分もいいプレーができたと思います」
と原が言えば、菊地も
「原英莉花ちゃんが本当にすごい、スキのない、いいゴルフをしたので、優勝にふさわしいと思います」
と勝者をたたえた。
ヘルニア手術を乗り越えて、「ニュー英莉花」誕生
コロナ禍で無観客試合だった20年以来、3年ぶりの「女子ゴルファー日本一」。
1回目は勢いで突っ走った結果の優勝だったが、今回は苦しみを乗り越え、いわば「ニュー英莉花」でもぎ取ったタイトルだった。
かねてから悩まされてきた腰痛を治すため、今年の5月にヘルニアの手術を受けた。
その後はツアーを休み、リハビリに専念。今大会は8月上旬にツアーに復帰して8試合目の戴冠だった。
「手術を受けてからは日々の練習が変わりました。どん底を経験して、常に何事も前向きにとらえられるようになりました。寝ているよりも、予選落ちしても戦っている方が格好いいんじゃないかと思い、前向きにプレーしていたのが、1日1日につながったと思います。腰の不安がなくなったのは、復帰して3、4試合目からですけど、復帰戦からワクワクして、自分の武器を持ち歩いているというか、腕を磨けずに試合に臨んでいたもどかしい時期を越えて、納得できる練習をして試合に臨める楽しさを感じています」
今年のボールには「覚悟」の意味を込めて「readiness」という文字を入れているという。
「覚悟という意味で。まさか私が手術を受けるとは思っていなかったので、選手生命は短いのかなと思っているなかで、自分ができる挑戦を前向きに頑張っていく、強い気持ちで戦っていくという気持ちで入れました」
言葉通り、2位に3打差で臨んだ18番もドライバーを振り切り、300ヤード先のフェアウェイをとらえた。
腰痛による低迷を脱して完全復活Vを果たし、次なる目標も加速する。来季の米ツアー参戦を目指し、今月には2次予選会に挑戦する予定だ。
優勝会見で「これで米ツアーに向けて弾みがついたか」と聞かれると、迷わず「そう思います」と声を弾ませた。
腰痛手術というゴルフ人生最大の危機を乗り越えた原が、2つめの国内最高峰のメジャータイトルを引っ提げ、いよいよ世界へ打って出る。
PHOTO/Tadashi Anezaki