「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレーヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈者でインストラクターでもある大庭可南太が、スウィング中の「骨格」の動きについて紹介する。

みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究家で、ゴルフインストラクターの大庭可南太です。さて先週行われました日本女子オープンゴルフ選手権では、シーズン序盤のヘルニアの手術から復調してきた原英莉花選手が復活優勝を遂げました。

画像: 画像A 原英莉花の代名詞とも言える、両腕のしっかりと伸びた大きなフォロー。両腕が伸びているということは、体の中心から外れていないということでもある(写真/岡沢裕行)

画像A 原英莉花の代名詞とも言える、両腕のしっかりと伸びた大きなフォロー。両腕が伸びているということは、体の中心から外れていないということでもある(写真/岡沢裕行)

予選ラウンドからしっかりとライブ中継されるこの大会で、首位を守り通しての優勝ということで、まさに「華のある」勝ち方だったと思うのですが、私がいまさら言うまでもなく、この選手は本当に「骨格」がカッコいいというか、スウィングも含めてスタイリッシュなわけです。そこで今回はスウィング中の「骨格」の動きについてです。

そもそも骨のある動物が「動く」とはどういうことか

タコのような軟体生物ならいざ知らず、人間を含めた骨格を持つ動物は、筋肉で「骨格」を動かして生きています。しかしこの骨格には実は「動くべき(可動性)骨格」と「静的であるべき(安定性)骨格」の二つが交互に配置されているというのです。

例えば私たちがイスに腰掛けて正面を向いているとします。その状態から顔を左に向けてみるとします。肩こりなどでガチガチにこわばっていない限りこれは可能だと思うのですが、実はこの動作は、頸椎の頭蓋骨とつながっている一番上の部分が可動し、その下の頸椎が安定性を保っていることで達成されています。つまりすべての骨が少しずつ動いているのではなく、「可動性」のある部分と、「安定性」を確保した部分の、動く量の差によって「首を左に向ける」という動作が可能になっているというわけです。

そしてこの「可動性」と「安定性」を全身の骨格で見ていくと、以下のように交互に並んでいる構造になっているというのです。

画像: 画像B 人体の骨格における、「可動性」が必要な部位と、「安定性」が必要な部位。それぞれが交互に配置されることで、骨格のある動物は「動く」ことができる。(Titlist Performance Instituteより抜粋)

画像B 人体の骨格における、「可動性」が必要な部位と、「安定性」が必要な部位。それぞれが交互に配置されることで、骨格のある動物は「動く」ことができる。(Titlist Performance Instituteより抜粋)

とはいえほとんどの人間はそんなこと意識して生活をしておりませんので、ここでは「よく動いていい骨と、あんまり動かないでいてほしい骨があるんだな」くらいに思ってください。

骨格から得られるパワー

問題はこの状況でどのように運動能力を高めるかなのですが、例えば弓矢を想像してみましょう。弓の弦と矢を一緒に後方に引くとき、当たり前ですがそれらは後方に可動しています。しかし弓を持っている手は、動かないでじっとしているほうが弓がたわんでエネルギーが蓄積されることになります。

逆に両手をいっしょに後方に動かして弓を引いて、いっしょに前方に動かして矢を放つ動作というのは、動いたわりにエネルギーを蓄積できない動作になります。

理想的には弓を持っている手が動かず(安定性)、弓を引く動作(筋力)によって、弦が引っ張られて弓の両端がたわむ(可動性)ことでエネルギーが蓄積されます。

そしてこれをやや単純化してゴルフスウィングに置き換えると、以下の写真のようなイメージになるわけです(画像C参照)。

画像: 画像C 両ひざと頭部に安定性(抵抗)を持たせることでバックスウィングのエネルギーが蓄積される。このとき顔の向きが変わっていないので、写真Aと同じく第一頸椎の可動性は確保されていることがわかる(“Kinetic Golf” Nick Bradley著より抜粋)

画像C 両ひざと頭部に安定性(抵抗)を持たせることでバックスウィングのエネルギーが蓄積される。このとき顔の向きが変わっていないので、写真Aと同じく第一頸椎の可動性は確保されていることがわかる(“Kinetic Golf” Nick Bradley著より抜粋)

ここでは、「バックスウィングで両ひざと頭部が後方に流れるな」ということを言っているのですが、頭部と膝が「安定性」を保ち、その間にある部位が「可動性」を持つことでバックスウィングのエネルギーが確保されることになります。

しばしば「バックスウィングでしっかり右足に乗って」と考えがちですが、例えば右ひざが後方を向いてしまうような動作では逆にエネルギーをロスすることになります。ここに至るまではかなりの議論があり、2〜30年前まではかなり派手に後方にスウェイするバックスウィングを行う選手もいましたが、最近ではあまり見かけなくなりました。

画像: 画像D 左肩が顔の後方に移動するほど体幹を捻転しているが、右ひざは後方に流れることなくエネルギーを受け止めている(写真/姉崎正)

画像D 左肩が顔の後方に移動するほど体幹を捻転しているが、右ひざは後方に流れることなくエネルギーを受け止めている(写真/姉崎正)

写真Dの原選手のトップを見ても、しっかり左肩が真後ろを向くほど体幹を捻転しても、右ヒザの位置は後方に流れずにしっかりとエネルギーを受け止めているように見えます。

ダウンスウィングにおけるエネルギーの開放

さてバックスウィングにおいて「ひざや頭が後方に流れるのはよくない」というのは、かなり共通認識になりつつあるのですが、ここからダウンスウィングに向けて各部位がどのように動かしていくかは、選手個々によってかなりの違いがあります。

例えば原選手のように右脚を股関節から内側に旋回させながら、右ひざを左ひざに近づけていくタイプもいれば、その場で両脚をジャンプさせるように使う選手、またダウンスウィングに向けて骨盤を前方にスライドさせていく選手もいます。

画像: 画像E ダウンスウィングからインパクトにおける脚やひざの使い方の違い。イメージする弾道によっても左脚の伸ばし方(蹴り方)は変化する(写真左から原英莉花 写真/姉崎正、ジョン・ラーム 写真/KJR、トミー・フリートウッド 写真/姉崎正)

画像E ダウンスウィングからインパクトにおける脚やひざの使い方の違い。イメージする弾道によっても左脚の伸ばし方(蹴り方)は変化する(写真左から原英莉花 写真/姉崎正、ジョン・ラーム 写真/KJR、トミー・フリートウッド 写真/姉崎正)

ザ・ゴルフィングマシーン的には「ヒップターン」と「ヒップアクション」という二つのコンポーネントをどう組み合わせるかというバリエーションになりますが、これらのタイプを分ける大きな要因としては、インパクトに向けて左脚をどの方向に伸ばして行くかということが挙げられると思います。

原選手のように骨盤をあまりスライドさせず、左脚をやや後方に蹴り上げるタイプは、一般論としてはアップライトな高弾道のスウィングをイメージしているように思えます。

またジョン・ラームのようにほぼ垂直方向に脚を使う選手は、インパクトに向けてヘッドをしっかり下ろしてスピードを意識、またトミー・フリートウッドはしっかりと骨盤のスライドを使うことで、左サイドに壁を作ってミート重視のスウィングをしているようにも見受けられます。

どのフォームにも長所・短所があると思いますし、プレーをしている環境にも左右されるとは思いますが、結局のところゴルフはインパクトで決まりますので、まず自分のインパクトのイメージをしっかり持ち、それを達成するための最もやりやすい方法を探して行くことが必要です。

しかしそのようにスウィングの質を高めていく過程では、当然ながら個々の選手の体格、筋力、柔軟性が大きく影響します。冒頭の原選手の両腕が伸びた大きなフォローは確かにカッコいいのですが、おそらく一般のアマチュア(特に男性)は、あの姿勢を静止状態で作ることもおそらく困難でしょう。そうした資質を見極めや上で、実現可能性を考えながら指導をしていくことも、今後レッスンの現場ではまずます重要になるでしょう。

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