選手もギャラリーもヒートアップ!
9月最終週に、イタリアのマルコ・シモーネG&CCで開催された第44回ライダーカップ。欧州大陸での開催は97年のスペイン、18年のフランスに続く3回目で、もちろんイタリアでは初めてでした。
出場選手の誰にスポットを当てるか選ぶのが難しいくらい今回も熱く、面白い大会であったと同時に、あの盛り上がりに羨ましい気持ちになりました。ライダーカップの熱狂は、日本のファンにはなかなか伝わりにくいものですが、「ジョン・ラームはライダーカップから生まれた」と聞けば、その影響力の大きさが理解できるかもしれません。
97年のスペイン大会は、欧州での初開催でした。当時のラームは3歳になろうかというとき。両親は、ライダーカップが初めて見たゴルフの試合だったのです。これをきっかけにラームはゴルフを始め、後のマスターズチャンピオンの第一歩が踏み出されました。今回の大会も「10年、20年先にはイタリアからラームのような選手が出るのでは?」そんな予感すら感じさせる熱狂のなかで幕を閉じました。
優勝した欧州チームでいえば、前回大会で不甲斐ない成績で涙を流したローリー・マキロイが、5マッチすべてに出場し、4勝1敗で4ポイントを稼いでリベンジ。1番多くポイントを稼いだ選手になりました。そのマキロイは今回もしっかり話題を提供してくれました。
パトリック・カントレーのキャディのジョー・ラカバとの小競り合いがそれ。事の発端は2日目の最終マッチ、17番で米チームが追い付きオールスクエアで迎えた最終ホールで、約12mのバーディパットを沈めたカントレーが雄叫びを上げると、ラカバ、グリーン周りにいたチームメイトが喜びを表すため帽子を振って観客にアピール。引き分けに持ち込むパットを残していたマキロイは、ラカバがなかなかやめないので、「どいてくれ」と言ったようです。
この帽子を振るという行為には伏線があって、出場選手中ただひとりカントレーだけは帽子をかぶっていません。真偽の程は定かではありませんが、賞金の出ないライダーカップへの抗議とも言われ、欧州ファンはカントレーに対し、直訳すると「自分の銀行口座のために帽子を脱げ」という歌を作って合唱していました。ちなみにラカバはタイガー・ウッズの元キャディ。バーディパットを外したマキロイの怒りは収まらず、場外戦は駐車場でも。そこでチームメイトのシェーン・ローリーがマキロイを車に押し込む様子も話題になりました。
カントレーは物静かで、眉毛ひとつ動かさない冷徹な"必殺仕置人"タイプ。ボクの好きな選手です。そのカントレーが雄叫びを上げるのもライダーカップならでは。賞金が出ないにもかかわらず、その名誉と誇りを懸けて戦うのもライダーカップなのです。それは観客も同じで、だからこそ激しいやじもブーイングも飛び出します。選手もギャラリーもそれだけ熱くなれる本大会、正直、羨ましいなと感じてしまいますよね。
また開催コースのマルコ・シモーネG&CCのセッティングについて。コース決定は15年で、改造は18年から20年にかけて行われました。この頃は、大観客を入れて見やすいコースにすること、マッチプレー向きのエキサイティングなコースに仕上げることが目的。その後アメリカチームは150Yくらいからのゲームが非常に優れているというデータを基に、その距離をなるべく打たせないようなセッティングにしたと言われています。
※週刊ゴルフダイジェスト2023年10月31日号「うの目 たかの目 さとうの目」より