物腰は柔らかで話し方もソフト、でもこだわりは人一倍
ボクは現役時代、感情が表に出ない選手の一人に数えられていました。しかし、実は短気な性格で、一度怒ってしまうとリズムが狂ってしまうので、意識して感情を抑えてプレーしていたのです。こういうタイプはプロには多いはず。
ところが今回、紹介する安森一貴くんは、いつも物腰の柔らかく、話し方もソフトで温厚なイメージ。アスリートには珍しいタイプです。
ゴルフを始めたのは石川遼選手の活躍がきっかけで、祖父に練習場に連れていってもらったこと。レフティの祖父の真正面に立ち、対面でゴルフを覚えました。フィル・ミケルソンが父の前に立って、レフティになったのとちょうど逆のバージョンです。驚かされるのが、6歳の初ラウンドを97回で回ってきたこと。小4からは練習場のインストラクターに師事し、今でも相談する間柄だそうです。この辺にも彼の人柄が表れている気がします。
高校時代には大阪府高校ゴルフ選手権で3位になったくらいで、それほど目立った成績があるわけではありません。関西学院大学に進むも、将来をプロ一本に絞っていたわけではなく、ゴルフ部で活動しつつも並行して就職活動もやっていたそうです。志望はメディア系で、もしかすると一緒にゴルフ番組に携わっていたかもしれません。
ところが大学3年となった18年、関西アマ、関西学生で6位になると、日本学生で3位に。この頃から現実的な目標としてプロゴルファーが視界に入ってきます。そして19年、ミズノオープンのアマチュア予選を1位で通過すると、プロ一本で行こうと決めたようです。ちなみに予選を2位通過したのが、後にアマチュアで日本オープンを制した蟬川泰果くんでした。
その後、19年にプロ宣言。転機となったのが20年のプロテストで、最終テストで落ちたことでした。普通、ここでは技術や体力、あるいはメンタルを見直し、反省するものですが、安森くんの場合は、クラブを見直し、アイアンだけは三浦技研と契約をしていて、それ以外はフリー契約だそうです。
試合に出られない若手プロには、喉から手が出るほど欲しいメーカー契約ですが、彼は自分に合ったクラブを追い求めます。その結果、アイアンは4番アイアンからPWまでが三浦技研のTC‐101、52度と58度のウェッジがピジョンゴルフ、パターがべノック社。いわゆる地クラブを中心に、旧知のクラフトマンと、自分に合ったクラブを追い求め、作り続けているのです。
そして今年はQT12位の資格でレギュラーツアーに参戦、そしてミズノオープンでは3日目まで首位を走り、最終日の1番、6番の簡単なホールでボギーを叩き、経験のない若手選手で万事休すか、と思われてから粘り、平田憲聖くんに逆転されるも3位で全英オープンの出場権を獲得。修学旅行以来、初の海外旅行という全英オープンでは、あと1打で予選通過という粘りを見せてくれました。
何より「厳しい、難しい」という日本人選手のコメントが並ぶなか、「こんなに海外の試合って楽しいんだ」というコメントは安森くんらしいですね。高校時代は王子と呼ばれ、スタートホールに女子が集まったという逸話があるそう。優しいオーラを放つ一方で、初めての優勝争いでの堂々としたプレーぶりを見ても芯の強さを感じます。この秋もうひと踏ん張りして、初シードをつかみ取ってほしいです。
※週刊ゴルフダイジェスト2023年10月17日号「うの目 たかの目 さとうの目」より