市販の”筒棒”で時松隆光はスランプ解消!?
「何か振るモノはないかとホームセンターで探していたら、この筒の棒を店の隅で偶然見つけたんです。ビニール管ですけどいいことがたくさん起きてびっくりです」
この閃きこそ、多くのジュニアたちの上達の原動力となってきた。
篠塚氏は、ゴルフは止まっているボールを打つというシンプルな運動なのに、クラブの構造自体が固定観念を生んでいるという。
「クラブには、小さなグリップがあってヘッドが横に出ている。だから難しい。グリップで持ち、ヘッドを振る。そしてヘッドでボールを打つ。するとどうしても手で打つことになる。当たり前の動きが再現性のなさを生み、ダフリやトップに悩まされるんです。そしてときどき当たることを喜びにするしかなくなる。ヘッドばかり見て気にしたり、ヘッドを振ってはいけない。クラブ全体を振ればいい。ただクラブでは理解しずらいので、この筒棒を使うんです。これはグリップもヘッドもないから簡単。そもそも打てませんから」
ヘッドで打つことは「欲」だと篠塚氏。欲を取り去ればゴルフはやさしくなる。
「棒を持ち、棒全体を振る。グリップもシャフトもヘッドも関係なく、公平に振れる。そして軽い。皆、いいスウィングになりますよ」
桜美式の代名詞「テンフィンガー」を象徴するプロといえば時松隆光。
安定感が1つの持ち味の時松だが、今夏、4戦連続予選落ちを喫した。
篠塚氏は、アドバイスとともに、この棒を渡したのだという。
「飛ばしたい! などの思いでいろいろ取り入れすぎて複雑になっていました。考え方もスウィングもシンプルに戻そうと」
感覚が戻ってきたのか、シンハンドンヘオープンからは予選落ちなく上位に顔を出すことも。
太くて軽い1mの水道管が素振りに最適!?
さてこの筒棒。ただの水道管と侮るなかれ。そこにはスウィングの真髄が詰まっている。
「長さは市販のままの1m。7Ⅰ(7番アイアン)~6Ⅰの長さなのがいい。また、太いから握りしめられない。力が入らず柔らかく振れる感じがわかります。そして空洞だから軽いのがいいし、“風”を抜くことで得るものがある。白塗りにしたのはシャフトを振っている感覚がイメージとして残るから。また言葉が浮き出るから頭に入ります」
その言葉こそ「悟瑠歩真棒」。
「己を悟ること。そして清めて突き進むところに真のスウィングがあらわれます」
「皆、クラブだと無理やり振る。だから切り返しやインパクトの寸前で何かをして崩れるんです。でもこの筒棒だと何もできないから、同じ動きができます。この筒棒で体に覚え込ませ、その感覚のまま実際にクラブを振ってみると、アレッとスムーズに。ずっと家で振っている人もいますよ」
水道管=“悟瑠歩真棒”で、切り返しが上手くなる
篠塚氏がスウィングの大敵だという“ねじり”を防ぐため、悟瑠歩真棒は真価を発揮する。
「細いグリップは、手でねじるようにできています。『引いて、引く』動きをするだけで、これも変わる。そのためにも、この筒棒を振ってほしいんです」
両肩を中心に、右を引いて左を引いて動く。これが一番シンプルで上達も早いという。
「ねじりがゴルフを難しくします。それをなくすために、バックスウィングでは右肩を引いて、ダウンから左肩を引く。回転がパッとくる感じは“押し”の動きではできない。右肩を引けば軽くサッと上げられトップも小さくなります。皆さん、『打たないといけないのに、引くなんて!』と、できないような気がするでしょう。でも慣れたらなんてことないんです。事件は切り返しで起こるんです。でもトップの位置などを気にするとまた難しくなるでしょう」
自然に“いいトップ”に決まるのだ。日本人は「引き」の民族だと篠塚氏。
「相撲も柔道も、綱引きやコマ回しも、鍬(くわ)も『引き』の動きで行いますよね。『引く』のほうが『押す』より力が出ますし、スムーズで体に負担をかけず再現性が高い。パワーや運動神経を使わなくても、老若男女、誰でもラクに力を発揮できます」
足指や足裏で振れるのがわかる
「筒」であることを利用して“ねじれ”をチェックしてみよう。
「筒棒に風を抜け、というんです。ねじれていたら抜けない。トップからダウン、インパクトまでの動きで、グリップ側から風が抜けるイメージが大事なんです」
また、『打つ』ではなく『はじく』もポイント。
「シャフトはしなるから、そのまま使えば『はじく』のに、自分でねじるからしなりが生かされずに『打つ』になってしまう。ヘッドを振り回さないとダメだと思うと『打つ』になる。練習場で見ていても皆振り回しています。『はじく』という言葉がわかっただけで、軽くなった感じがするでしょう」
もう1つ。筒棒を振ることで体感できるものに足の使い方がある。
「足指と足裏だけを使う感じ。地面から力を得られる。大きい筒棒を手に持つことで、体全体が連携する。ひざや腰は使わなくていい。足指、足の裏だけで振れるのがわかるはずです」
筒棒なら部屋のなかでも上手くなれる!
今年、日本ジュニアに5名を送り込んだ桜美式。
「60台で回り始めるジュニアが出てきて驚きました。まだ試合に出ていない小学校低学年~中1、2の子たちがものすごく上達しています。今後また、いろいろな大会でどんどん活躍するでしょう」
桜美ジュニアたちは、新しいことにトライすることに誇りを持っているという。それは大人たちも同じだ。
篠塚氏は100切りゴルファーを増やしたいという。
「今、100を切れない人が7割とも言います。逆に7割は100を切れるようにしたい。するとゴルフが楽しくなって続けられると思うんです。コロナ禍で増えたゴルファーを逃がしたくない。筒棒なら部屋のなかでも上手くなれますし、簡単な練習道具であれば、家族でも取り組めます。会話も増え、子どもたちが自然のなかに出ることにもなる。ゴルフを一気に国民のスポーツにしたいんです」
「悟瑠歩真棒」には、大きな思いも詰まっているのだ。
PHOTO/Norimoto Asada
※週刊ゴルフダイジェスト2023年10月24日号「『悟瑠歩真棒』でシンプルスウィング」より