選手、ギャラリー、皆が生んだ名勝負
茨木CC西コースで開催された第88回日本オープンは、ゴルフトーナメントの醍醐味を十分に感じさせてくれた大会でした。それを象徴したのが、ホールアウト後の石川遼プロの涙ではないでしょうか。もちろん、悔しさはあったでしょう。しかしその涙には、遼くん自身もコメントしていたように、応援してくれたギャラリーへの感謝と、大会への敬意が含まれていたんだと思います。
スタートホールでの全選手の解説を終え(『とことん1番ホール』ゴルフネットワーク)、バック9で付いたのは遼くんと幡地隆寛組。これまで日本オープンで遼くんは2位が2回。このタイトルに懸ける思いはヒシヒシと感じられました。
また幡地プロとはANAオープンで一緒に食事をしたこともあり、"飛ばし屋"のポテンシャルの高いゴルフを、間近で見たかったからです。
今大会は初日から4197人のギャラリーを集め、選手たちもやりがいがあったに違いありません。改めてトーナメントはギャラリーの醸す雰囲気によって作られるのだと、感じました。遼くんは、ホールを重ねるごとに集中力が高まり、目つきが変わっていくのがロープの外からもわかったほどです。
優勝した岩﨑亜久竜プロが17番、パターを握ったアプローチでアドレスを一度解いたシーンがありました。隣の16番で遼くんがセカンドショットをピンそば2mにつけ、バーディパットを決め、ギャラリーの大歓声が轟(とどろ)いたんです。この時点で一打差。勝負はまだもつれそうだという感じになりました。
「遼さんとのプレーオフは、アウェイになる気がしたから避けたかった」。優勝後のインタビューで、岩﨑プロは言っています。ジャンボ尾崎さんやタイガー、それに遼くんに共通するのは大ギャラリーを引き連れられること。そうした選手が後続から迫ってくる恐怖は、味わった者にしかわかりません。
加えて最終ホールは、2オンを狙えるパー5。まだ前の2組がプレーしており、岩﨑プロは4〜5分待たされます。そしてティーショットは右に大きく曲げるミスショット。ボクは18番のティーイングエリアから岩﨑プロのセカンド地点に向かいました。ライは見えなかったものの、レイアップだろうと予想。帰りの新幹線でNHKの見逃し配信で確認すると、ラウンドレポーターの(田中)秀道もそう予想していました。
しかし、岩﨑プロは4番アイアンでスライスをかけ、池の上から回して2オンを狙います。はたから見ればギャンブルショットに思えますが、岩﨑プロも湯本開史キャディも何の迷いもなく、〝行く〟ことで一致していた。この一年、欧州ツアーでも一緒に転戦していた2人の高い集中力と信頼感のようなものを感じ取れる一打だった気がします。
遼くんの追い上げ、岩﨑プロの逃げ切りという最後まで目が離せない"名勝負"となった日本オープン。終盤戦もギャラリーの皆さんと盛り上がる試合が続くことを期待します。
※週刊ゴルフダイジェスト2023年11月7日号「うの目 たかの目 さとうの目」より