PGAツアーのフェデックスカップフォール第6戦バターフィールド・バミューダ選手権でカミロ・ビジェガスが9年ぶりに優勝を飾った。グリーンギリギリまで身を低くしラインを読む姿がスパイダーマンと称され一躍人気者となった彼も41歳。スパインダーマンポーズを封印した男の復活の理由とは?

短いウィニングパットを沈めると右手の拳を小さく握り、曇天の空を仰いで感無量の表情を浮かべたビジェガス。視線の先には戦況を空から見守ってくれた笑顔のミアちゃんがいた。

3年前の夏、22カ月の幼い命を閉じた愛娘。不調を訴える彼女を病院に連れて行き、「歯が生えるときムズがることがある」といわれ様子を見たのだが、検査の結果脳腫瘍が判明。必死の治療も叶わず2歳のなる前に還らぬ人となった。「初恋の人」マリアさんと結ばれたビジェガスにとって時が止まった瞬間だった。

画像: PGAツアー「バターフィールド・バミューダ選手権」で9年振りの勝利を挙げたカミロ・ビジェガス(写真/Getty Images)

PGAツアー「バターフィールド・バミューダ選手権」で9年振りの勝利を挙げたカミロ・ビジェガス(写真/Getty Images)

身を切るような痛みを乗り越え、つかんだ久々の勝利。14年のウィンダム選手権でツアー通算4勝目を挙げてから勝てず、それどころか故障で満身創痍。シードを落とし、ここ数年はコーンフェリーツアー(下部ツアー)が主戦場だった。

しかしビジェガスはチャンスを逃さなかった。前週のワールドワイド・テクノロジー選手権に主催者推薦で出場すると、終始上位争いを演じて優勝こそ逃したものの2位タイ。そして今週も好調を維持し2打差の勝利を手繰り寄せた。

昨年夏、ウィンダム選手権でテレビの解説席に座ったことで周囲は「引退が近づいている」という印象を持った。だがその直後だった。アルゼンチン出身のホセ・カンプラに師事したビジェガスは大きく変わった。

「ホセは僕に対してすごく正直だった。(修正には)1年はかかるだろう、と。えー、そんなに、と思う間もなく、君にとってゴルフが、過去数年よりも少し簡単になることを目指そうじゃないかといわれた」

左に引っ掛けるミスを減らすためニュートラルな飛びを目指して、スウィング改造に着手したのだが、それ以上に信頼できるコーチが現れたことで、ビジェガスは忍耐力を手に入れた。

「長い間、競技ゴルフに身を置いて、世界のトップと対峙していると誰もが恐怖を感じるもの。でもそれを恐怖ではなく、違った角度から怖さを楽しむ感覚をつかもうとした」

画像: ビジェガスのグリーンギリギリまで身を低くしパットのラインを読む“スパイダーマンポーズ”が当時話題となった(写真は2011年のソニーオープンinハワイ 撮影/岡沢裕行)

ビジェガスのグリーンギリギリまで身を低くしパットのラインを読む“スパイダーマンポーズ”が当時話題となった(写真は2011年のソニーオープンinハワイ 撮影/岡沢裕行)

その成果が前週、バミューダで表れた。のしかかるプレッシャーと恐怖を楽しみに変えたのだ。「ここ数週間は本当に良いプレーができた」と達成感をにじませたビジェガスの表情は穏やかだった。ちなみに夫婦には昨年、長男マテオ君が誕生している。

ところでスパイダーマンは卒業したが、いまどき見かけなくなったポロシャツの襟を立てるスタイルは健在。最終日トレードマークの上下白で登場した彼の襟はしっかり立っていた。

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