アスリートのプレー中の「静視」のことを「クワイエット・アイ」というのだが、実はこれを上手く使うことでゴルフの「スコアアップ」が見込めるかもしれないことが研究でわかってきた。海外ではアーチェリーやダーツ、そしてゴルフのパッティングのようにターゲットを狙うパフォーマンスのときに重要なメソッドが「クワイエット・アイ」だと言われている。USLPGAのA級インストラクターのヒロコ・ベンダーホーフプロが「クワイエット・アイ」の効果を解説する。
画像: 「クワイエット・アイ」(静視)は、ターゲットを狙う競技で、目標物の1点を見つめることで集中力が増すとともに雑念を払拭しプレッシャーを和らげるとされるメソッド。パッティングも1点を見続けることでパフォーマンスが上がるという

「クワイエット・アイ」(静視)は、ターゲットを狙う競技で、目標物の1点を見つめることで集中力が増すとともに雑念を払拭しプレッシャーを和らげるとされるメソッド。パッティングも1点を見続けることでパフォーマンスが上がるという

パッティングで「何処を見ているか」「どれくらいの時間見ているか」

「クワイエット・アイは『静視』と訳され、心を落ち着かせしっかり見るということなのですが、これがゴルフ界において大きなインパクトとなったのは、2012年にカナダと英国の共同研究者の以下の発表でした」(ヒロコ)

発表された内容は、09年に①プロゴルファー、②HC1から14のアマ、③HC1から36のアマ、④ゴルフ未経験者の各々10名、計40名で行われた実験結果で、内容は2~3mのパットのときに被験者は「何処を見ているか」「どれくらいの時間見ているか」をアイトラッキング(視線計測器)で計測し、同時にMRIでそのときの脳波を計測。

画像: 「多くのプロはボールの背面(右側)の『コンタクトする点』を見つめます。そしてストロークが始まって、打ち終わった後も『ボールのあったところを見ていた』というのがプロの視線です」(ヒロコ)

「多くのプロはボールの背面(右側)の『コンタクトする点』を見つめます。そしてストロークが始まって、打ち終わった後も『ボールのあったところを見ていた』というのがプロの視線です」(ヒロコ)

これによってゴルファーの「視線」とパフォーマンスとの、ある関係性がわかったのだという。

「まず『何処を見ているか』ですが、ボールの後方からカップを確認し、アドレスに入る、ここから視線計測が始まります。この段階でプロの場合は、先に後方から確認したときに決めておいたカップの『ココから入れていこうという1点』だけを見つめて構えに入ります。そして視線をカップからボールに移してきてボールを見ます。このときに、多くのプロはボールの背面(右側)の『コンタクトする点』を見つめます。そしてストロークが始まって、打ち終わった後も『ボールのあったところを見ていた』、というのがプロの視線です。一方、アベレージクラスのアマチュアは、カップもボールも全体的に疎まばらに見て、あそこから入れていこうという明確なイメージを持っていないことがわかりました」 

プロはカップもボールも「1点を見ている」

プロはカップもボールも「1点を見ている」。これがクワイエット・アイの最重要ポイントだ。

「脳科学者とリサーチャーの説明によると、見たものを脳に伝え、それをインプットするプロセスには少なくとも0.1秒は必要です。プロの場合は、カップのココから入れていこうという1点を『しっかり』と0.1秒以上見ていたので、脳にはカップの情報がインプットされました。そして視線をボールに移しボールの後方の1点を『しっかり』と見ます。そうすると、頭の中のターゲットの情報と視線を戻してきたボールとの関係が脳内で結ばれ、フェースアライメントがきっちりできるんです」 

アマチュアは、カップもボールも漠然と見ているので、脳内でカップとボールを結ぶラインが浮かんでいないということなのだ。

「ツアープロとアマチュアとでは、ボールを見つめている時間(構えてから打ち終わった後まで)がプロは2.5秒~3秒、アベレージクラスの人は1秒~1.5秒と差が出た結果もあります」

というヒロコプロに、この違いが出た理由を説明してもらおう。

ボールを見始めてから打ち終わるまで、ボールを静視する

「プロの場合、平均すると、アドレスに入ってからボールを静視している時間が、テークバックの前に1秒、ストロークの間に1秒、ボールコンタクトの後0.5秒で、合計2.5秒というデータがあります。これに対してアマチュアはボールを見ている時間は1秒~1.5秒と短くなっています。その一因として、アマチュアは打った後にすぐにターゲット方向を見てしまいますが、これは始めからターゲットのイメージが作られていないから起こるのです」 

もしプロのようにカップのイメージが脳内にあれば、打った後もボールのあった位置を0.5秒ほど見続けることもできるはずで、それによってフォローもしっかり出せて、いわゆるヘッドアップのようなミスの原因に繋がる動きも出ないだろうというわけだ。 

このボールを見始めてから打ち終わるまで、ボールを静視するという「クワイエット・アイ」の効果のほどを検証するために、2011年にUSPGAのツアープロ22名を2組に分けて、クワイエット・アイのトレーニングをした組としなかった組でどのような差が生じたかを実験した。

トレーニングをしたらすべてのゴルファーのパフォーマンスが上がった!?

「まず、競技形式で行う10ラウンドのデータを採ったところ、トレーニングを受けたグループは1ラウンドのパット数が1.9パット少なくなったということで、これはUSPGAツアーのパッティングのランキングが139位から49位にアップするのに相当する効果があったということ。一方のトレーニングを受けないグループの順位は変わりませんでした」 

この実験後に、トレーニングを受けたグループではボールを見始めてから打ち終わるまでの「クワイエット・アイ」に掛ける時間が0.8秒多くなっていたというから、プロもクワイエット・アイの効果を感じていたということだ。

「2011年に行われた研究では、ゴルフの初心者に40時間『クワイエット・アイ』の練習をしたグループとしなかったグループで差を見たところ、練習したグループは脳内の視覚を感知する部分のニューロンのシナプスに結合が見られ、空間認知力の向上が見られました。脳内の『ペネフィル』という視覚運動と神経経路との大きな繋がりがストロークにどのように活用されるのかといろいろ実験を重ねていくうちに、プレッシャーがかかった場面でも効果的ということもわかり、すべてのゴルファーのパットのパフォーマンスが上がったということが、わかったんです。さらにパッティング中の不安などの感情のスイッチをオンにする部分へのアクティビティも減少したことが認められました」

「クワイエット・アイ」を活用したルーティン

最後に、「クワイエット・アイ」を活用したルーティンを、キーワードとともに教えてもらった。

「まず『ビジョン』です。ターゲットを見るときに、何となくカップではなく、自分が決めたココから入れるということをシャープにイメージを持つ。ボールを見る場合はボールの後方をしっかりと静視するということです。次に『アテンション』。目標に向かって打とうという意識がボール後方と目標にしっかり向けられているから、ボールをストローク中に見続けることができるわけです。最後は『フォーカス』。テークバックでヘッドを目で追わず、カップとボール、それぞれ1点に最後まで集中できれば、フォローをしっかり出せるのです。これがクワイエット・アイを活用したルーティンです」 

まずは、1~2mくらいの距離から「クワイエット・アイ」を採り入れてみよう。

画像: ルーティン①(左)とルーティン②

ルーティン①(左)とルーティン②

◆ルーティン①ボール後方から目標を定める

アドレスに入る前にボール後方で、カップのどこからボールを入れたいか明確にビジョンを決め、その1点を見ながらアドレスに入る。

◆ルーティン②アドレスに入りターゲットを見る

アドレスに入った後は自分が後方から決めた目標を見て、「あそこに向かって打つ!」とターゲットを1点に絞る。

画像: ルーティン③(左)とルーティン④

ルーティン③(左)とルーティン④

◆ルーティン③ボールの後方と目標を固視する

ボールの後方の点とカップの目標をそれぞれ見て意識を向ける。3回以上カップを見てしまうと情報過多になるので見ないようにする。

◆ルーティン④打った後もボールのあった場所を見続ける

ボール背後の1点を注視し、ストローク。打った後もボールの位置を見続けることでフォローがしっかり出せヘッドアップが防げる。

TEXT/Masaaki Furuya PHOTO/Akira Kato THANKS/イトーゴルフガーデン

※週刊ゴルフダイジェスト2023年11月21日号「クワイエット・アイがスコアアップのカギだ!」より

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