「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレーヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈者でインストラクターでもある大庭可南太が、前回に引き続きTPI(Titleist Performance Institute)の取り組みについて紹介する。

みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究家で、ゴルフインストラクターの大庭可南太です。さて今回も、先日参加してきましたTPI(Titleist Performance Institute)のセミナーの内容から、ゴルフと人間の「視覚」についての研究内容について紹介をしたいと思います。

ゴルフが難しい理由

ゴルフが難しい理由の一つに、目標に向かってボールを打ち出すスポーツであるのに、実際に打つときはその目標方向ではなく地面(ボール方向)を向いていなければならない点が挙げられます。ボウリングで隣のレーンを向きながら投げるとしたら、さぞ難しいだろうと思いますが、ゴルフはこういうことをデフォルトで要求してくるスポーツです。

このためゴルフでは、ボールを「後方から見た」目標までのイメージと、いざアドレスをしてやや「上方から見た」目標へのイメージが、できる限り合致しているほうが有利になります。そしてこれがフルショットから、より繊細なパットやアプローチになるともっと複雑になってきます。具体的には

・傾斜とボールの曲がりの判断
・ボールスピード(強さ)の制御
・狙ったところに打ち出す技術

の三つの能力が求められることになりますが、これらすべてに重要な影響を与えているのが「視覚」です。

利き目と利き腕

人間には利き腕と同様、「利き目」が有るということは多くの方がご存知でしょう。例えばレーザー距離計を右目で覗いているのであれば、その方の利き目は右目です。しかしこの利き目と、その反対側の目の関係性が、ゴルフにおいてかなり重要な影響を与えている可能性が高いのです。

画像: 図A 左右の手で三角形を作ることで利き目を判断できるが、問題は利き目と反対側の目で見たときに、どの程度の乖離が発生しているかである

図A 左右の手で三角形を作ることで利き目を判断できるが、問題は利き目と反対側の目で見たときに、どの程度の乖離が発生しているかである

利き目と反対側の目で見ると、利き目で見たときと映像がズレます。つまり人間は二個のカメラで物体を捉えて、その映像の差で物体までの距離感を把握するとともに、脳内でその二つの映像が一つに見えるように「補正」をしています。この「脳補正」のクセによって、実際よりも遠くに見える、あるいは近くに見えると言った距離感のクセが出てしまうのです。

さらに、利き目が右の場合にはボールを後方から見ている感覚が強くなり、左の場合には真上から見ている感覚が強くなります。実は利き腕が右手の場合、左目が利き目の方がゴルフでは有利なのではないかと言われています。この利き腕と利き目が逆のケースを「クロスドミナンス」と言いますが、タイガー・ウッズや、ジャック・ニクラスといった名プレーヤーにはクロスドミナンスが多いと言われています。しかしこれは全体の20%に過ぎず、また残念ながら利き腕や利き目を大人になってから変えるのは難しいようです。

ボールに線を入れる人、入れない人

こうした脳のクセや、利き目が実際に影響を及ぼす代表的な例が、「後方から見てボールの線を目標に合わせたのに、いざアドレスすると全然目標に向いているように見えない」という問題です。

画像: ボールに線を引いて打ち出し方向に合わせる

ボールに線を引いて打ち出し方向に合わせる

これは性格の問題でもありますが、「多少違和感を感じるけど、後ろから見て合わせたものを信頼して、その通りに真っ直ぐ打つ」と思い切れるタイプは良いのですが、そうでないと何度もボールをプレースしなおす、あるいは違和感がひっかけや押し出し、パンチが入るといったストロークの実行に悪影響を与えるという場合もあります。

画像: 図B 後方から見て真っ直ぐに合わせても、いざアドレスの体勢になるとそれが目標を向いていると思えない場合、ボールに線を入れるのは考えたほうが良い場合もある

図B 後方から見て真っ直ぐに合わせても、いざアドレスの体勢になるとそれが目標を向いていると思えない場合、ボールに線を入れるのは考えたほうが良い場合もある

PGAの選手でもこうしたタイプの選手はボールに線を入れていません。違和感を感じたままストロークするよりは、練習によって磨いた感性でパッティングしたほうがいいという判断です。またこうした選手はサイトラインが目立つデザインのパターも嫌う傾向があるようです。

このようにゴルフは、目で見たものと脳の補正、ボールの動きのイメージ、そして手を動かすという運動のすべてがバランス良く機能したときに、違和感なく結果も良いということになるのですが、先天的な要素もあってなかなかそう簡単にはいかないわけです。

真っ直ぐ立てなくてもかまわない

このような問題を認識した上で、実際にPGAの選手がどのように対応しているのでしょうか。一般的に「教科書」的なパッティングでは、ボールを左目の真下に置いて、パターのサイトラインが真っ直ぐ目標方向を向いたままストロークするなどとして、ミラーを置いて練習したりするわけです。これで違和感を感じない(あるいは感じなくなるまで練習する)タイプはこれでいいわけです。

しかしそれがどうにもうまく行かないのであれば、ボールに対する立ち方を変えても良いじゃないかというわけです。

画像: 図C 教科書通りにアドレスしても「真っ直ぐ」に感じられないのであれば、ボールの位置やスタンスを変えてみて違和感のない構えを探してみることも重要だ

図C 教科書通りにアドレスしても「真っ直ぐ」に感じられないのであれば、ボールの位置やスタンスを変えてみて違和感のない構えを探してみることも重要だ

例えば、ボールを左足寄り、あるいは右足寄りに置いてみる。また自分に近く、あるいは遠くに置いてみる。スタンスをややオープンに、あるいはクローズにしてみるといった調整です。

実はTPIの統計では、パッティングのスタッツ上位の選手で、ボールを教科書的に左目の真下に置いている選手は少数派で、やや自分から遠目に置いている選手が多いということです。そしてTPIの申し子であるジョン・ラームは試行錯誤の上、ボールは近くに置くけれど、左右の足をやや目標方向に傾ける(図C)というスタイルに落ち着いたのだとか。

ひたすら反復練習で違和感を克服するというのが日本人的にありがちな発想ですが、ことパッティングに関しては「少しくらい人と違ったやり方だとしても、このやり方が一番入るんだ」くらいに考えた方が良いのかも知れません。

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