日本アマ勝者でもあるレックス倉本プロが、ベン・ホーガンを研究している理論派で女子プロの川﨑春花やトップアマなども相談に訪れるというスウィング研究家の田所一郎氏の元に話を聞きに……。それは、倉本プロが田所氏が動画で解説していた「下回りスウィング」に興味がわいたからだった。
画像: 左手首の背屈と右手首の掌屈がポイントになる「下回りスウィング」とは?

左手首の背屈と右手首の掌屈がポイントになる「下回りスウィング」とは?

「誰もが80台で回れる」"ベン・ホーガン理論"

画像: ベン・ホーガンのスウィング研究をする田所氏(写真左)の「下回りスウィング」動画に興味を持ったレックス倉本プロ

ベン・ホーガンのスウィング研究をする田所氏(写真左)の「下回りスウィング」動画に興味を持ったレックス倉本プロ

倉本 僕が田所さんを知ったのは、今年2月の日本帰国後、あるシニアプロとラウンドをしていたとき。ホーガンのスウィングの研究家だと。面白いと思い、また動画で田所さんの「下回り」の教えを見てさらに興味がわきました。

田所 僕のスウィング研究は、自分がなかなか上達しなかったので、どうしたらすぐに上手くなるかだけを考えたいと始まった。スウィングって日替わりで毎回同じ感覚が出ません。また、上手い選手はニクラスやタイガーなどたくさんいるけれど、究極のスウィングは何かという疑問が出た。それを突き詰めないと死ねないと(笑)。そのときに、ホーガンに出会ったんです。そして著書『ファイブレッスンズ』の冒頭に、リバース・エブリ・ナチュラル・インスティンクトと書いていた。皆がこうだと思ってやっていることはすべて間違っていて、答えはその真逆にあると言う。誰も考えない突拍子もないところに答えがあると仮説を立て、それを解明するのが僕の役割だと感じました。

倉本 ロジカルシンキングが根底にあるんですよね。

田所 また、ホーガンは誰もが80台で回れると書いています。そこまで言い切るには絶対何かがあるはず。僕は帰納法的に考え、究極のスウィングはホーガンだと仮説を立て徹底的に研究することに。世の中で一番読まれているレッスン本は『モダンゴルフ』ですし、世界中の人がホーガンのスウィングは素晴らしいと言うけれど、誰もあのスウィングをしていません。

「フェースの裏で打つ」「フェースはすごく開く」

倉本 プロだったら、ホーガンのスウィングは誰もが憧れて研究する。僕もその1人です。またレッドベターが『モダンゴルフ』を翻訳出版したとき、僕はそれに書いてあるフォローのイメージが理解できなかった。実はボブ・トーランスを何度か取材するなかで「ホーガンの秘密を教えてあげよう」と。彼はホーガンの家に何カ月か居候してスウィングを習ったヨーロッパのホーガン継承者。すごく気にはなったんですけど、そんな重いものは聞けるはずがないと断った。田所さんは、その秘密も理解されているのかなと。

田所 それはどうでしょう(笑)。僕はセオリーを捨てたんですね。たとえば「ボールをフェースで打つ」と100人皆が言っても、真逆を考えると「フェースの裏側で打つ」となります。

倉本 ホーガンは右ひじを体に付けてダウンスウィングしますが、ハーフウェイダウンでフェースが空を向いています。フェースが“どん開き”なのに、しっかり振れて、フィニッシュで収まる。これも疑問でした。田所さんはフェースの「裏で打つ」「すごく開く」と言うここに答えがあるかなと。ここ数年、シャローイングや、フェースをボールに向けながら上げて、手での“カバリング(覆う)”という言葉をよく聞きますが、田所さんの話はそれと逆です。

「下回りスウィングを見つけたんです」(田所)

画像: ベン・ホーガンはPGA勝利数はメジャー9勝を含む64。名プレーヤーであり、著書は多くのゴルファーに読み継がれている。高いフィニッシュも「下回り」の特徴。「特に晩年のスウィングは下回りです」(倉本)

ベン・ホーガンはPGA勝利数はメジャー9勝を含む64。名プレーヤーであり、著書は多くのゴルファーに読み継がれている。高いフィニッシュも「下回り」の特徴。「特に晩年のスウィングは下回りです」(倉本)

田所 はい。そして、下回りスウィングを見つけたんです。スウィングは十人十色という見方ではなく、樹形図になったときに最初の枝分かれを「上回りスウィング」と「下回りスウィング」にしましょうと。そして、ゴルフ界に「下回り」をご提案したい。もちろん、ホーガンは下回りです。欧米の選手も基本、下回り。でも、タイガーやニクラスは上回りで、ほとんどの日本人選手は上回りです。

倉本 現役時代、言われたことと逆のことをしたらすごくよい球が出て成績も出たことがある。継続できなかったのは、多くの情報と擦り込みが邪魔して、一般的な理論のほうを忠実にやろうとしたから。結果的にたいしたプロゴルファーにならなかった。今、下回りを自分で試して、究明したいと考えています。

田所 今のクラブは慣性モーメントが大きくてストレートに動くようになっていますから、真っすぐに当たる。問題はそれを本人が「主観的」に操作しているのか、あるいは本人はまったく別のことをしているのに慣性モーメントが働いて勝手にクラブがそう動くのか。今の時代、すぐに動画などを見られるので、体やクラブの動きをトレースして練習してしまう。でも、まず言いたいことは、僕の「下回り」は、あくまで主観の話です。

倉本 すごく腑に落ちました。やってみると極端だけど見た目はそうではない。それでいいと。では、上回りと下回りはどう違いますか。

「下回り」はアウトサイドイン

画像: 「下回り」はフェースを必ず開いて、アウトサイドイン軌道

「下回り」はフェースを必ず開いて、アウトサイドイン軌道

田所 いくつかの要素がありますが、1つはクラブの回転方向。下回りは、フェースを必ず開いて使う。上回りは、クラブを閉じながらボールをつかまえる方向に使う。

倉本 フェースを開いて使うと、右に飛んでいきそう。カットショット、ロブショットの感じです。

田所 よくわかります。ここで2つ目の要素。上回りはクラブをインサイドイン、インサイドアウトに使えと言いますが、下回りは必ずアウトサイドインです。これでフェースを開いても球がつかまるようになる。

倉本 やってみると、確かにボールがつかまります。しかし、今までの僕にはまったくない動きです。

田所 また、ゴルフクラブを主観的にどう見るか。上回りは、パターの延長で体の前のベルトの下で操作することをフルスウィングととらえ、振り子運動を使っている。下回りは、体に対して、上下、前後、左右、この3事象で考えます。するとトップではクラブは背中側にいて、ダウンでは高い位置から下に、そして前にくる。さらにダウンでは右側にあるものがフォローでは左側にいき、また背中側に消えていく。これが3次元で融合されています。

下回りスウィングはヘッドスピードも出る

倉本 クラブの構造とも密接な関係があるんですよね。

田所 はい。グリップよりヘッドが下にあると、ヘッドが“超わがまま”でコントロールできません。でもグリップよりヘッドが上にあるときに操作すると“超従順”。下回りでは手元よりヘッドが高い状態で動きを決めるからヘッドの動きに再現性が高くなる。上回りでは手元より下のヘッドを徹底的に練習してコントロールしようとするから効率が悪い。

また、クラブは本来、バックフェース側に倒れるほうが“気持ちいい”。そういうふうにデザインされている。それを無視して無理やり使おうとするから、練習が必要になります。ビジネスゾーンでは、フェースがボールに向くようにクラブがデザインされていますから操作してはいけない。しかし、90%以上のゴルファーが頑張って向ける練習をしている。ムリな動きにもなるからケガにもつながります。

倉本 ヘッドスピードや飛距離は下回りのほうが有利ですか?

田所 下回りはヘッドスピードも出ます。欧米の選手は打つタイミングが早く見えますよね。上回りは振り子だから最下点を運動エネルギーの最大として考え、遠心力でヘッドスピードを上げるイメージが強い。飛んだ瞬間が最速であとは減速します。でも、ずっと落下し続ける動きこそ速度アップには大切。

下回りだとクラブが体の周りを360度回りますし、ハーフウェイダウンあたりがインパクトのイメージですから(クラブが体から離れないうちにボールに触る)、質量、体圧が乗っていき、速度が上がるんです。

下回りの一番の肝は左手の”カップ”(手首の背屈=手の甲側に折れること)

画像: 「下回り」のインパクトは左手が甲側に折れて、右手は掌屈している

「下回り」のインパクトは左手が甲側に折れて、右手は掌屈している

倉本 僕は、下回りの一番の肝は左手の“カップ”だと思うんです。

田所 はい。左手首の背屈をカップと言います。これこそホーガンの秘密ではないかと。

倉本 本当ですか! カップとは、手の甲側に折れることですよね。

田所 トップで作ったカップを切り返しからフォローまで解かないイメージでスウィングします。これを振り子動作でやると絶対に振り遅れます。下回りでその動きを主観的にやるんですね。欧米の選手はドライバーでもダウンブローで打ちますよね。

画像: 左手首を背屈するトップ。「左手だけ”カップ“するのはダメ。右手は親指の付け根にえくぼができるくらい掌屈。親指は絞らない」(田所)

左手首を背屈するトップ。「左手だけ”カップ“するのはダメ。右手は親指の付け根にえくぼができるくらい掌屈。親指は絞らない」(田所)

倉本 でも日本では、グリップエンドがビジネスゾーンに入っているべきという教えが根強いです。

田所 絶対的なことは、手元が、トップでは右肩にあり、インパクトでは左肩にあること。手元はむしろ移動しないといけないからこそ、右肩の高い位置からカットに入る動きが正しいのです。振り子だと手元がずっと体の中心にある。

またダウンでは、回転ではなく、落下に向かって出力しないといけない。すると手をまったくひねりませんし、落下なので重いクラブも使えます。また、アウトサイドから入れると、クラブが動くゾーンが長いから絶対優位。「デプス(奥行)」と言います。左に振ることができて効率も圧倒的にいい。

「下回り」はインパクトで「右手が下」

画像: 欧米選手のなかで、マックス・ホーマは「下回りスウィング」のお手本のひとり

欧米選手のなかで、マックス・ホーマは「下回りスウィング」のお手本のひとり

倉本 欧米選手がハーフウェイダウンからブンと振っている感じは、フィジカルの強さかと思ってそう表現していました。でも、振り子でアッパーになって減速するより効率がいいんですね。

田所 はい。クラブを落とせばいいので、年を取っても体にやさしいんですよ。

倉本 アメリカのゴルフを振り返ると、80~90年代は柔らかく振っていた時代もある。でも10年前にジョニー・ミラーが「近年の若手はフィニッシュにかけて体の左に振り抜いている」と。僕の時代は、手は体の前に来て左手をターゲットに向かって振っていました。

画像: 下回りではスウィング中、右手が下に。「"猫ちゃん"と呼ぶ。フィニッシュではシャフトが右手親指の第一関節に乗っている感じ」(田所)

下回りではスウィング中、右手が下に。「"猫ちゃん"と呼ぶ。フィニッシュではシャフトが右手親指の第一関節に乗っている感じ」(田所)

田所 まさに上回りですね。

倉本 もう1つ、ホーガンの「右手が下にある」という言葉がわからなくて。

田所 下回りでクラブを落とすと右手が下になります。上回り、下回りとは「クラブ使い」のこと。ホーガンはずっとしゃくっている感じ。だから本人は「右手は下」と言う。上回りである振り子スウィングは、振り遅れを利用しています。だから少しでもタイミングが合わないと右にいったり左にいったり。圧倒的に神経を使います。

「下回り」は五木ひろしの『横浜たそがれ』のイメージ

倉本 なるほど。下半身の動きはどうしたらいいのですか?

田所 振り子では地面反力で伸び上がりながら打ちます。グリップを上げる動作で加速しようとする。でも欧米選手は沈んで圧をかけている。縮んで打つんですよ。でも、まずは下半身の動きまであまり考えないほうがいい。それより最初にお話しした「バックフェースで打つ」感覚。ダウンからずっとバックフェースに風を当てるイメージです(上回りではフェースに風を当てる感じになる)。これをやると、自然に下半身も動くんです。

倉本 フェースを返すのもダメ?

田所 高い位置で出力し、高い位置で打っていくイメージですから。

倉本 (五木)“ひろし”ですね。

田所 そうです。『横浜たそがれ』を歌うときの動きです。

倉本 初心者も、いくつになっても下回りに変えられますか。

田所 もちろんです。下回りのイメージドリルがあるので、ぜひ試してください。

下回りのイメージドリル

画像: ◆掌屈してボール投げ:”カップ”のイメージをつかむ

◆掌屈してボール投げ:”カップ”のイメージをつかむ

◆掌屈してボール投げ:”カップ”のイメージをつかむ

”カップ“のイメージをボール投げでつかもう。

右手は「猫手」のように最初から掌屈しておきそのまま投げる。

腕を振ってリストを使うと振り遅れる。リストが腕を動かすイメージだ、

画像: ◆ティーバッティング:「下回り」の感覚がつかめる

◆ティーバッティング:「下回り」の感覚がつかめる

◆ティーバッティング:「下回り」の感覚がつかめる

「フェースの裏で打つ」感覚がわかるティーバッティングドリル。

バッドのようなものを短く持ち、グリップエンドでボールを打つように見せかけて空振りし、そのままインパクトするイメージ。

体も自然に回る。

PHOTO/Yasuo Masuda

※週刊ゴルフダイジェスト2023年11月21日号「下回りスウィングってなんだ!」より

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