日本ツアー参戦13年目で、通算3勝のブラッド・ケネディ。来年はシニアツアーに参戦できる50歳になるベテランだが、今季も日本オープン3位タイなどトップ10入りは3回で賞金ランク25位と見事に賞金シードを獲得している。そんなケネディのコーチであるマイケル・ジョーンズ氏(文中はMJ)にオーストラリアと日本のゴルフ環境やレッスンの違いを聞いた。【前編】
プロを目指す若いプレーヤーの練習時間はおおむね2時間
GD マイケルさんはオーストラリアの国技ともいえるラグビーもやっていたそうですが、ゴルフを選んだそうですね。
MJ そうです。ゴルフはラグビーみたいに痛くないし、自分のことだけ考えればいいので楽。それでオーストラリアのプロテストを受けたんです。
GD オーストラリアでプロになるのは難しいんでしょ?
MJ テストは1次と2次があって、最終的にトップ30位までが合格。スコアはアンダーじゃないと厳しいかな。昨年は4日間でトップが8アンダーでした。毎年国内のいろんなコースでやりますが、どこも風が強いので、風に慣れていない若い選手はパニックになります。でも、今はレベルが上がって、世界中どこでもプロテストやQTは難しくなっていると思います。
GD ツアープロじゃなくティーチングプロになったのはなぜですか?
MJ プロになってプロアマ戦に出るようになったのですが、どうしてもお客さんのことばかり考えて自分のゴルフができなかったんです。これじゃダメだと思って教えるほうに回った。30歳になるちょっと前ですね。
GD 普段はどんなふうに活動しているのですか?
MJ レッスンは平日と土曜の朝でドライビングレンジとラウンドレッスンが主体です。トラックマンやフライトスコープを使ったスウィングレッスンとフィジカルのレッスンもやっています。プロを目指す若い人が多いですが、コースメンバーのエンジョイゴルファーも多いですよ。
GD オーストラリアと日本では教え方に違いがありますか?
MJ 当然ながらエンジョイゴルファーとプロを目指す人では全然違います。エンジョイゴルファーはスウィングを見るのも大事ですが、何よりラウンドレッスンが大事。実戦で遭遇するいろいろな状況に、どう対応するかを覚えると上達が早くなります。なので、私の拠点であるサンクチュアリーコーブではラウンドレッスンが大人気。外国からもたくさんゴルファーが来ていて、オーストラリア人は30%くらいです。
プロを目指す若い人の練習については、おおむね2時間と決めています。ここは日本と大きく違うところで1000発ボールを打つことはありません。2時間のうち30分はパット練習で、たとえば1mと15mというようにショートパットとロングパットがメイン。次の30分はアプローチの練習で、30m、20m、10mを各10分ずつ。そして最後にショットの練習をします。こうすると練習で毎回全てのメニューをこなせますから。
トッププレーヤーの多くは会社単位で戦っているようなもの
GD 実戦にはどう反映されるのでしょう?
MJ 技術はもちろんですが、スケジューリングができるようになります。ラウンド前に1000発は打てないけど2時間ならできる。2時間やらないとしても、ラウンド前に必要なメニューをバランスよく練習する習慣が身につきますし、その必要性もわかるでしょう。ショットばかり練習して一発目にOBを打ったら自信をなくすだけですからね。
GD なるほど。
MJ もちろん、みんながみんな1日2時間ではないけれど、たとえば1週間に30時間の練習メニューが終わったらそれでOKで、あとはリラックスするべき。「もうちょっと、もうちょっと」とやっていたら頭が痛くなるばかりですから、納得するまでやらなくてもいい。メンタルをいい状態に保つためにもリラックスする時間、ファミリータイムや友達といる時間が必要なんです。
GD マイケルさんはメンタルトレーニングもやるんですか?
MJ 私の仕事はプレーヤーのゴルフをトータルで見ることです。
GD というと?
MJ ツアーで戦うことはビジネスです。一人のプロに対してトレーナー、メンタルコーチ、スウィングコーチ、マネジメントを含めたコースレッスンやパッティングコーチ、クラブフィッターも必要です。いまはしっかり役割分担されていて、すべてを一人の先生が教えるなどあり得ない。それぞれインフォメーションが違うから専門職が不可欠なんです。プロの場合、試合で成績が出ないのはスウィングだけの問題じゃなく何か足りないものがあるからで、それを見つけることが私の役目。私にできることなら私が修正しますが、できないことはエキスパートに頼んで手を打ってもらいます。
GD トッププレーヤーは、もはや個人ではなくチームでやっているということですか?
MJ その通りです。PGAツアーのトッププレーヤーの多くは会社単位で戦っているようなもの。チームミーティングがあって、それぞれの分野のスペシャリストが「メンタルはどう?」、「食べ物はどう?」、「クラブはどう?」などと選手に聞いて的確な対策を用意します。プレーヤーはボスでコーチは社員ですが、コーチがプレーヤーに遠慮することはありません。遠慮して成績が出なければすぐクビになりますからね。そういう意味でもまさにビジネスなんですよ。
【後編は12月16日11時30分公開予定】
マイケル・ジョーンズ
1968年生まれ。オーストラリア・ニューサウスウェルズ州出身。13歳からゴルフを始め17歳でハンディ1に。同年にはホームステイで来日、その後4年間を岡山県で過ごした。プロ転向は92年。2014年のミズノオープンではコーチをしていたブラッド・ケネディのキャディとして日本ツアーの初優勝に貢献、全英オープン出場も叶えた。現在はクィーンズランド州のサンクチュアリーコーブでクリニックを主宰する。
TEXT&PHOTO/Kazuya Kishi
THANKS/Cool Clubs