ウィニングパットを沈めた瞬間ラームは両手の拳を握り締め天を仰いだ。声にならない雄叫びを上げ自身のヒーローに勝利を報告した。
「ゴルファーなら誰もが憧れる舞台で優勝したらどんな気分だろうと何度となく想像したけれどセベの2度目のマスターズVから40年、しかも彼の誕生日に勝てたなんて本当に信じられない。これはセベに捧げる勝利。彼があそこ（天）から助けてくれた」
2023年のマスターズを制したジョン・ラーム（写真/2023年のマスターズ 撮影/Blue Sky Photos）
初日から先頭集団につけたラームは最終ラウンド、首位のブルックス・ケプカに2打差の単独2位からスタート。すると4番で早くもケプカの背中を捉え、8番パー5のバーディで2打リードする展開に。最後はケプカと猛追してきたフィル・ミケルソンに4打差をつけ通算12アンダーで逆転優勝を達成した。
すでに勝ちが決まったも同然だった最終18番。サードショットをグリーンに乗せたときパトロンの歓声で至近距離に寄ったことがわかった。その瞬間さまざまな感情が心のなかを駆け巡った。
「トーナメントで優勝して泣く日が来るなんて思ってもいなかった。はじめてうれし泣き、いやその寸前を経験したよ」とランボーの愛称を持つ大男は瞳を潤ませた。
喜ぶ理由は山ほどあった。全米オープンとマスターズ両方に勝ったヨーロッパ勢は彼ひとり。難しいコンディションのなか最終ラウンドはボギーわずか1個に抑え、最後までイライラすることなく戦い抜いたことも「自分を褒めたい」ワケの１つ。
マスターズ2勝の先輩ホセ・マリア・オラサバルは「冷静でクール、落ち着いた戦いぶりだった」とラームのプレーを称賛した。
「はたから見たら冷静だったかもしれないけれど9番でボギーを打ったあと10番、11番、12番はものスゴく緊張した。自分のゴルフに自信を持っていたので落ち着いて見えたのかもしれません。いや、そう見えたなら良かった（笑）」
グランドスラムまであと2つ。セベも達成できなかった偉業に向かって歩を進めるラーム。その彼が年末400億円ともいわれる契約金でLIVゴルフへ移籍した。ファンにとっては一抹の寂しさを覚えずにはいられない出来事だった。
