インターネット関連企業で大成功を収めたボブ・パーソンズが「これまでにない最高のゴルフクラブを作りたい」という信念で、2014年に誕生したのが「Parsons Xtreme Golf(PXG)」だ。開発コストや時間を気にせず、高いパフォーマンス性を追求したモノ作りで評価されているメーカーで、これまで『GEN』シリーズを展開してきた。しかし、1月24日に発売するモデルから『Black Ops』シリーズと名称が変更。その開発者のクロロフ氏は「今回のモデルのコンセプトは『飛距離を犠牲にしない高い寛容性』です」という。
この「飛距離」と「寛容性」というのは、2024年に発表になったキャロウェイ、テーラーメイド、ピンの理念と一緒だ。しかし、話を聞いてみると、他メーカーとは「飛距離」という部分でアプローチ方法が異なっていた。
端的にいえば、キャロウェイはフェース構造で芯をズレても初速を落とさない、テーラーメイドとピンはトータル慣性モーメントを最大化することで打点がブレても方向性がバラつかず、結果として飛距離が落ちないという考え方だ。
一方、PXGは「重心位置を深く、低くすることで、打ち出し角が高くなり、その恩恵でロフト角を立てることができる。その結果、ボール初速と低スピン化が可能になり飛距離が担保される」という。
「セオリーとして、高い寛容性を求めるには重心をヘッド後方に持ってくる必要があり、ボール初速を速くするためには浅重心にしなければなりません。この2つの相反する関係をバランスよく考えなければなりません」とクロロフ氏。
「そもそも、飛距離には“ボール初速”、“打ち出し角”、“スピン量”が密接に関係してきます。今回のシリーズではどのように飛距離アップするかと考えたときに“ボール初速”よりも“打ち出し角”に重点を置いて開発しました。前述のように、高い寛容性を確保するには重心をヘッド後方に持っていく必要があるのですが、この重心位置により、高い打ち出し角が確保されるのです。この理由は、重心がヘッド後方にあることで、ダウンスウィングからインパクトにかけて、ヘッドが後方に垂れやすくなり、インパクト時のロフト角が増えることが挙げられます。また、出来るだけ低重心にるすことで、フェース面上の重心位置(スイートスポット)を低くでき、そのスイートスポットよりも上に当たるとインパクトの衝撃でフェースが上を向くのです。この2つの理由から打ち出し角が高くなり、また低重心化でスピン量も抑えられるので、さらに飛距離アップが見込めるのです」という。
この重心位置にできた理由をクロロフ氏は「カーボンファイバーの使い方とPXG独自のウェイトポートによる」と説明する。
「PXGでは、カーボンファイバーの面積をいかに大きくできるかを追求しています。その面積が大きければ大きいほど余剰重量が生まれるためです。ちなみに、チタンやカーボンよりも適した素材を日夜探していますが、素材選びだけでなく、それをどこにどれだけ使えるのか。そして、それによってパフォーマンスがどのくらい上がるのかが重要です。いくら革新的な素材を使用しても、パフォーマンスが上がらなければ意味がないのです。
また、競合メーカーとの差別化としては、ウェイトポートの位置とウェイトの種類が挙げられます。他社によく見られる“スライドシステム”は実は効率が悪いと弊社は考えます。もちろん、微調整が可能なことはわかりますが、スライドウェイトの“道”に重量をさかなければならず、そこに重量を持っていかれるデメリットのほうが大きいのです。また、3つあるウェイトポートは各ポジションが適正距離で離れており、ウェイトの種類をたくさん用意しているので、どんなプレーヤーにもしっかり対応できます。ちなみに、低重心設計にするためにフェースすぐ後ろにウェイトポートを置いたこともあったのですが、打音が悪くなってしまい、辞めました。もちろんリブを設置することで打音は良くできるのですが、そのリブを付けたせいでその部分のウェイトが重くなり、パフォーマンスが低下したというデメリットがありました。考え方としては、トランポリンの真ん中のように柔らかいところは振動が大きいのですが、そこに硬いポートを置くことで振動が遮られ、音が悪くなるイメージです。それなら、いまの3カ所のままのほうがいいという判断なのです」とクロロフ氏。
少し話がそれてしまうが、打音の話が出たので、素朴な疑問を投げかけてみた。それは打音の“良し悪し”とは何なのかということだ。これに対して、クロロフ氏は微笑みながら「実際、打音は個人的な主観が大きいと思いますが……、調査をすると大きく大別することはできました。ゆっくりスウィングするプレーヤー(基本的にはアベレージゴルファー)は大きな音を、上級者やツアープレーヤーは小さい音を好むのです。ただ、共通して言えるのは、どちらも反響が短いほうを“良い”と感じる傾向はあります。反響が短いというのは余韻が長くないという意味です。とはいえ、打音に対しては流行り廃りがあって、かつて『いいな』と思っても10年後には響きすぎていると思うこともあるのです。また、いろいろな機能を搭載しようとすると、打音がどうなるのかを検証するのですが、最近ではコンピュータシミュレーションを使用しているので、打音の検証は高速化できていて、昔は1日かかっていたことも一瞬でできる時代になったのは喜ばしいです」とのことだ。
そうなると、さらなる疑問が。AIやコンピュータを使うことで、開発周期が早くなるのではないかということだ。一般的なアマチュアゴルファーは新製品だからと言っておいそれと購入することはできず、開発周期の早まりは、良くないのでは、と質問すると、「PXGについては、新製品の発表時期を決めていません。自分たちの納得できる、いままでと大きく違うものができたときだけ発売するという創業者の理念があります。ですので、1年で発売することもあれば、数年間、新製品を出さないこともあるのです。ちなみに、コンピュータを使うことで、理論的には高速回転させて開発期間を短くすることは可能です。ヘッド形状によるパフォーマンスの違いなどは、本当にすぐにできます。物理的なモノを造るまでは早くできるようになったんですが、プロトタイプを造り始めると、また違ってきます。理論値と現実が必ずしも一致するとは限らないのです。ちなみに、この『Black Ops』シリーズは『GEN6』シリーズの発表前から開発はスタートしています。開発コンセプトは並行して走っているので、具体的に『Black Ops』の開発スタートはいつかと言われると答えられないのです」とのこと。
前回の『GEN6』シリーズと今回の『BlackOps』シリーズの違いを聞くと、「使用した素材でいえば、フェース面に独自のチタン合金素材を採用しました。従来と比べ、強度が増し、弾性もあるので、初速を上げることが可能になりました。また、スタンダードモデル『Black Ops ドライバー』に8度のロフト角をラインナップしました。それは打ち出し角が高くできたので、ロフトを立てて使いたいプレーヤーが増えると判断したからです。打ち出し角の高さは多くのゴルファーにとってプラスに働く、PXG史上最高に打ち出し角が高いモデルになりました。ちなみに、ドライバー、フェアウェイウッド、ハイブリッドのコンセプトはすべて同じですが、クラブによって必要な要素は少し変わってきます。たとえば、地面から打つクラブのソールにカーボンファイバーは不要、といった感じに」という。
インタビュー前に『Black Ops』シリーズを試打したが、自分のクラブではロフト角10.5度でも球が上がらず悩んでいた筆者でも、『Black Ops ドライバー』の9度を打つと、自分のクラブをはるかに上回る高打ち出しを実現し、かなり驚いた。その話をクロロフ氏にすると「製品の性能をわかってもらえてとても嬉しいです」と笑顔。もし、近くのショップや工房で『Black Ops』の試打クラブを見かけたら、一度手にしてみてはいかがだろうか。