昨年のその日キャディ歴50年のベテラン、ルケナスさんは第2ラウンドの中盤10番ホールから小高い丘のてっぺんにある11番に向かって坂を登っている最中、濡れた芝生に倒れ込み意識を失った。
「私は4分間完全に死んでいた」
重度の心臓発作だった。
丘を登りはじめたときすでに意識は遠のいており自分が倒れた瞬間のことを覚えていない。だが周囲の行動は素早かった。アクシデントを受け同地に赴いていた保安局の巡査部長が、救急隊員が到着するまで心肺蘇生術を続け救急隊が到着するとすぐに病院へ搬送された。
病院のベッドで意識を取り戻したルケナスさんは医師から「30分は仮死状態。4分間は完全に心臓が停止していた」と告げられた。
米国心臓協会の統計によると病院以外の場所で心停止に陥った人の生存率は10パーセント未満。その彼が生き返ったのはまさに奇跡。数日後には多枝冠動脈疾患の診断を受けバイパス手術を受けた。
現在体調は回復したが昨年退職したモントレー・ペニンシュラCCのキャディマスター職には復帰せず週に2、3回コースで友人のキャディをする日常を過ごしている。
今年の大会(AT&T)ではトーナメントディレクターが会見し「悲劇になりかねなかったが、彼が生還したのは素晴らしい結末です。適切な人材が適切なタイミングでそこにいたことが大きかった」と述べている。
応急処置をした巡査部長、会場に待機していた医療チームなどルケナスさんは助けてくれた人々に感謝するとともに「手術が終わるまでどれほど多くの友人に助けてもらったことか。手を差し伸べてくれる人たちを(倒れる前は)見失っていた」と涙し「一度死んでそれを思い出すことができた」と声を上ずらせた。
その経験から彼は地元のファーストティ支部(ジュニア育成施設)にAED(自動体外式除細動器)を寄付することを決意、実行した。
じつはゴルフというスポーツは心臓に負担がかかるといわれている。ラウンド中の突然死は国内で年間150人から200人近いというデータもある。もし友人が倒れた場合、いかに素早く適切な処置をおこなうかが生死を分ける。
「私は幸運だった。でも日頃から何ができるかを少しでも考えておくことが大事。そして友人のありがたさを忘れないで欲しい」
ちなみにルケナスさんがバッグを担いで印象的だった人物はジョージ・W・ブッシュ元大統領とバラク・オバマ元大統領、そしてバスケットボールのステファン・カリーだという。
ポロシャツの裾をスボンから出しカジュアルな出で立ちで現れたブッシュ氏は18ホールを「(わずか)2時間で回ってきたのを覚えている」。生涯最高の思い出はオバマ氏とカリーが一緒に回ったときのこと。「本当に楽しかった」とルケナスさんは懐かしそうに振り返った。