大会前話題を独占したのは昨年のマスターズ以来のツアー競技復帰となったタイガーだった。しかし体調を崩し2日目に棄権し最終日に着るはずだった“サンデーレッド”の赤シャツのお披露目はお預け。その代わり勝負服イエローのポロシャツ(サンデーイエロー!)を身につけた松山が主役に躍り出た。
バーディショーはスタート直後に始まる。1番で絶妙なアプローチを寄せバーディ発進すると、2番のチップインを含め3連続バーディ。各選手が苦しんだバック9で10番から再び3連続バーディを奪うとトップ集団に加わった15番パー4では、本人も納得のスーパーショットが飛び出した。
「残り184ヤードで風はアゲンスト。6番アイアンのカットボールは打った瞬間(手応えがあったので)行ってくれぇーと思った」
グリーン右サイドを捉えた打球はスルスルとピン方向に転がり30センチにピタリ。続く16番パー3でもピンそば20センチにつけ連続タップインバーディ。コースレコードには1打及ばなかったが9バーディ、ノーボギーの62で後続に3打差をつける圧勝だった。
「ティーショットはあまり良くなかったですけどパッティングに助けられました。ショートゲームだけで優勝できたのははじめて」とショットメーカーの高い松山。これまでの8勝はショットで稼いできたが今回は「4日間パッティングのミスがなく、入らなかったとしても自信を持って打てた」と新境地を開拓した。「このショットでも勝てるんだ」という言葉に実感がこもる。
首の痛みに苦しんだここ2年。「去年までは痛みがいつ出るのか? と不安を抱えながらプレーしてきたけれど、今年になってストレスフリーに。今週も気になるところがなくて良かったです」。故障を乗り越えビッグタイトルを掴んだことで自信も取り戻した。
大会前の世界ランクは55位。昨年のプレーヤーズ選手権でトップ5に入って以来ランキングは下がる一方。前週DPワールドツアーで優勝した星野陸也や久常涼が背後に迫りエースの座が脅かされかねない状況だったがこの優勝でV字回復が見込まれる。
奇しくも3年前(21年)マスターズで優勝したときと同じように2位(タイ)にウィル・ザラトリスが入った。
「この勝利を自信に変えてマスターズでも頑張りたい」。松山が手にしたのは優勝賞金400万ドル(約6億円)以上に価値のある“自信”という財産だった。