アディダスゴルフの社長は「『TOUR360』は“Pinnacle”(頂点)のシューズ」と息巻く
ハワイ・マウイ島のカパルア、そしてリッツカールトンで行われた、新『TOUR360』のデビューイベント。北米をはじめ欧州、アジアなど全世界のアディダスゴルフスタッフ、および各国メディアが参加するという大規模なもので、今のアディダスゴルフの勢いをそのまま映し出したかのようだ。
アディダスゴルフのジェフ・ラインハート社長は、新しい『TOUR360』のパフォーマンスに絶大な自信をのぞかせる。
「今回のTOUR360は、まさにアディダスゴルフの“Pinnacle”(頂点)の一足。我々の持てるテクノロジーを集約し、ツアーパフォーマンスのゴルフシューズに求められる性能を限界値まで引き上げました。ツアーで求められる安定性やホールド感だけではなく、快適性も最大限追求。この相反するものを高次元で融合し、プレミアム感のあるデザインに仕上げたのが、新TOUR360なのです」(ラインハート氏)
ではその“Pinnacle”なシューズを構成するテクノロジーとはどんなものなのだろうか。フットウェアのスペシャリスト、アディダスゴルフの森悠馬さんが解説してくれた。
「現在、アディダスゴルフには3つのモデルがあります。『コードカオス』、『ZG』、そして今回新しくなった『TOUR360』です。コードカオスは固定観念を壊す斬新なデザインと究極の“快適性”を求めたスパイクレス。ZGは振れば振るほどグリップするアスレチックな“安定感”に優れるスパイクシューズ。そしてTOUR360はコードカオスの快適性とZGの安定感、その両方を兼ね備えるシューズです」
従来はコードカオス派、ZG派と好みが分かれていたかもしれないが、TOUR360は、その両方の愛用者が満足できるパフォーマンスを発揮するという。
真ん中部分に空間が! このブリッジ構造が大きな役割を果たす
今回の新『TOUR360』には盛りだくさんのテクノロジーが秘められているというが、その中でも鍵となるのが「トルションブリッジ」という新機構だ。
「横から見ると、中足部に空間を作るようにソールが橋のようになっています。これがトルションブリッジです。これにはいくつかの役割がありますが、ひとつは悪いライでのグリップ力の向上。シューズというのは地面の異物に突き上げられると弱点になる箇所があります。それが中足部です。ここが突き上げられるとそれに伴って前足部もしくはかかと部分が浮き、グリップ力が急激に落ちます。例えば林の中で木の根っこが足にかかってしまう状況などがそれ。そのような悪ライでも、この柔軟なブリッジが異物の高さを吸収し、つま先もかかとも浮かずに足裏全体でグリップできる。ライに左右されずにしっかり踏み込める仕組みです。
グリップ力の向上に加え、快適性にも一役買っています。地面から中足部を離すことで、衝撃吸収の役割も果たしますし、足のアーチ(土踏まず)部分を持ち上げてくれるので、長時間歩いても疲れにくい。またトルション(Torsion:ねじれ)の言葉通り、ねじれの動きにも強い。一石三鳥も四鳥も役割を果たすパーツです」
グリップ力と快適性、どちらも一切妥協しない新ソール
もう1つ、TOUR360の高性能を物語るのが「アウトソール」だ。
「ソールにはZGよりも1つ多い7つのクリート(スパイク)をスウィング時に最も力のかかる外周部に設けています。しかし、歩行時の快適性、そしてZG以上のグリップ力を持たせるために、“フレックスグルーブ”という溝を設置しました。文字通り、この溝は柔軟性を高めるために非常に薄い作りです。その溝の中に台形のラグ(突起)を付けることにより、曲がってほしい部分はしっかり曲がりつつ、台形のラグでグリップし、さらにクリートの突き上げ感を軽減。また溝とラグの間にポケットが生まれ、そこで芝を抱え込むので、安定性も一段とアップします。“スパイク並みにグリップします”、という巷のスパイクレスには無数のトゲトゲがついているものもありますが、尖っていると確かに地面を噛むものの、地面から離れる際に無意識のうちに抜く力を必要とし、重く感じます。尖っているがゆえに摩耗の早さも免れません。今回のTOUR360のアウトソールは、グリップ力、疲労軽減、耐摩耗性など、いくつものメリットを備えています」
まだまだ『TOUR360』のポイントはいくつもあるので、以下箇条書きでご紹介。
【ミッドソール】
前方は「ライトストライク」を搭載
前作よりも10グラム軽量化。力をかけるとすぐに反発する素材で、蹴りの強いダウンスウィング時に威力を発揮。
後方は「ジェットブースト」を搭載
歩行時はソフトなクッションの感触だが、スウィングの圧がヒールにグッとかかった際には、つぶれすぎずにしっかり圧を支える素材。ブーストの粒を細かくしたことで2つの性能を兼ね備える。
【アッパー】
レース(ひも)は天然皮革を採用
最高のサステナブル基準に基づいたしなやかな高級天然皮革。染色過程において、透明な害のない水質に戻すなど、環境保全を徹底している。
ボアは合成皮革を採用
コードカオスにも採用されている“直足ボアラップ”をボアモデルに踏襲。パネルが3つに分かれ、緩い箇所から優先的に締まる構造。また前面のファスナーを締めると、フィット感が高まることに加え、水の侵入を防ぐ効果もある。
【ヒールライン】
当たりのやさしさと高い通気性
前作からヒールの高さと角度を調整。スエード素材を使用し、足への当たりもやさしく改善された。また高通気性のメッシュを用いることでムレや靴ずれを防ぐ。
コリンもアバーグも渋野も、新『TOUR360』のパフォーマンスの高さに舌を巻く
最後に『TOUR360』のデビューイベントに参加した、ツアープレーヤーの使用感をお届け。まずは、コリン・モリカワ。彼は今季開幕戦からすでに実戦投入している。
「新しいシューズは、毎年開幕戦の舞台、カパルア(プランテーションコース)で最終テストをします。なぜなら年間を通じて最も傾斜の強いコースだから。これまでZGを履いていましたが、それよりも安定性が高く、グリップ力が上がり、地面反力も使いやすい。歩行に関しても、疲労が少ないし痛みもまったく出なかった。もう替えない理由はないですよね。
僕はシューズの“見た目”も非常に大事にしています。特にアドレスした時の足元の景色。ここで構えにくさを感じずに、スクエアを取りやすいことが重要です。個人的にはレース(ひも)タイプが好み。今回ボアも試しましたが、実は安定性に関してはボアのほうが高いと感じています。ただ、これまでの目のなじみもあるし、レースでもまったく問題がないのでボアにスイッチするまでの理由がなかったですね」
PGAツアーの新星、ルドヴィッグ・アバーグは現在TOUR360をテスト中だ。
「僕はもともと“スパイクレス派”で、今履いているZGが僕にとっての初めてのスパイクでした。シューズ選びで最重要視していることは“歩きやすさ”。ツアーを1年間戦うなかで、僕らはものすごい距離を歩きます。そこで疲れてしまっては、スウィングにも大きな影響が出てしまう。その点、今のZGには満足していますが、新しいTOUR360はそれよりも歩きやすいと感じているし、グリップ力も高い。それにデザインですよね。小さい頃、憧れの選手が履いていたTOUR360のアイコニックなデザインは履いてみたいと思わせる。もう少しテストして実戦投入したら、TOUR360が僕にとっての2足目のスパイクシューズになります」
そしてアメリカで奮闘する渋野日向子も、早速TOUR360へスイッチしている。
「シューズは、見た目、履き心地、安定性、どれも大事ですが、メインはスウィング時の安定性ですね。ただ安定性が高くても疲れやすいシューズはゴルフに影響するので、快適性も譲れません。今回のTOUR360は、快適性に加え、ZGの安定性もプラスされて、すべてが詰め込まれたシューズという印象です。見た目にもかっこいいし、(レディースの)淡い色使いもウェアと合わせやすくて超お気に入り。私はボアを履きますが、今回はレースの柔らかなホールド感もいいな、と。でもボアも履いてるうちに足になじんでくるので、そこはやっぱりボアを履きつぶしていきます(笑)」
ゴルフに最適なシューズを知り尽くすツアープロたちを魅了する、新しい『TOUR360』。スパイク派、スパイクレス派といったことにこだわらずに足を通してみると、新たなゴルフシューズの可能性に触れることができそうだ。
撮影/相田克己