昨年、週刊ゴルフダイジェスト誌上で、ラグビー界のレジェンド大畑大介と女子プロの多くを指導する青木翔の連載「待ってろ、ウエハラ(上原浩治)」にゲスト出演した元プロ野球選手の谷繁元信。野球IQばかりでなく、ゴルフIQの高さを示した谷繁と青木コーチとの対談を紹介する。
画像: 女子プロらを指導する青木翔コーチ(左)と元プロ野球選手の谷繁元信さん(右)

女子プロらを指導する青木翔コーチ(左)と元プロ野球選手の谷繁元信さん(右)

5万人のスタジアムより神奈川アマのほうが震えた!?

昨年、大畑とのゴルフ対決を終えた谷繁は「大畑さんは勝てる。上原には勝てるよ」と、サラリと断言した。元名捕手は、その時、何を見てそう言ったのですか。

谷繁 いや、技術とかじゃないんですよ。大畑さんのゴルフへの向き合い方、姿勢でわかったんです。上原は完全なエンジョイゴルファーだって知っているから。エンジョイはエンジョイでもちろんいいんだけど、試合や対戦に臨む者とは熱意が別物。

青木 確かにあのときの大畑さんの熱意たるやすごかった。勝利後にバーンアウトしたくらいですから。ちょっと早い(笑)。でも、それぐらい真剣だったんです。

谷繁 僕は45歳で選手を引退し、46歳でユニフォームを脱いで、試合の緊張感からは解放されました。ものすごく気楽になったんですね。でも、性分なのかな、恋しくなるんですよ、あのヒリヒリが。それで、身近だったゴルフで競技に挑戦してみようと思ったんです。今でも初めて競技に出たときのことは忘れられません。神奈川アマだったんですけど、1番ティーで手が震えたんですよ。

青木 もっと大きな舞台にいくらでも立たれているのに? 5万人の前でプレーしてきた谷繁さんが震える?

谷繁 それが野球とは全然違うんです。後の組の人たち、10人ほどのギャラリーを背に、手が震えているのを悟られないようにするのに必死でした(笑)。最初の数試合はずっとそんな感じだったかな。でもね、それが楽しくて仕方がない自分がいた(笑)。

青木 やっぱり谷繁さんは"こっち側の人"なんですよ。

谷繁 震えながらも「来た来た、この感じ」って。野球でも晩年は手に汗をかくことはなかったですから。40代後半でまたヒリヒリの世界に戻れたのはゴルフのおかげ。

「朝9時から午後3時まで練習場なんてときもあったかな(笑)」(谷繁)

20年以上前の野球の試合のことも、聞けば昨日のことのようにディテールまで話す谷繁。1年前のゴルフロケの内容も朝飯前。「あのパー5で、僕が大畑さんに言ったじゃん」と1年前のささやきの内容も完全記憶。果たしてこれはキャッチャー気質なのか?

青木 ちなみに野球で一番緊張したのはいつでしたか?

谷繁 98年にベイスターズが甲子園で優勝を決めた試合ですね。同点で9回2アウトランナー2塁。で、僕に打席が回ってきた。ここで1点取って裏を佐々木(主浩)さんが抑えれば優勝が決まるというシチュエーション。打席に入っても、緊張でバットが出ないんです。結局、デッドボールで歩かされて、内心「この場から逃げられた」とホッとしながら、でもそんなそぶりはまったく見せずに一塁に歩いて、次のバッターの進藤(達哉)さんに檄を飛ばしました(笑)。野球で一番緊張したのはあの時かな。

青木 聞いているだけでこっちも緊張してきました。それにしても細かく覚えていらっしゃるものですね。

谷繁 それは、ベイスターズでバッテリーコーチだった大矢明彦さんの教えもあるかな。「1試合の配球をスコアブックを見ずに言えるようになりなさい」と言われたんです。最初は「無理だ」と思っていたのが、優勝したこの頃には、何も見ずに120~135が言えるようになっていました。訓練ですね。するとリードにバリエーションが出て、投手と打者に応じて「打者の弱点を突く」「投手の長所を引き出す」を、その日の状況を見ながら併用できるようになっていきました。応用力がついてきたんです。ゴルフではまだ、その応用力という次元までは行きついていない気がします。

青木 それに気付いている時点で実はすごい……。練習もかなりされてきたでしょう?

谷繁 朝9時から午後3時まで練習場なんてときもあったかな(笑)。

青木 そう、谷繁さんレベルのアスリートが「練習をした」って言うと、それはわれわれの想像を絶する量と質なんです。

「日本ミッドの予選で"75"のスコアを3日間並べられるはず」(青木)

谷繁 トップアスリートで練習をしていない人なんていないです。していないふりをすることはあるけど、間違いなくしています。

青木 ということは、やっぱりあの人も練習はしているんでしょうね。

谷繁 あの人って、前田智徳のことでしょ(笑)。僕がまだ出場したことのない日本ミッドアマで8位という経歴を持つね。

青木 一方で谷繁さんはまだ日本ミッドに出られていない。でも、谷繁さんのゴルフを見ていて思うんですよ。「出られる」って。予選で「75」のスコアを3日間並べられるはず。それだけの実力はある。前田さんとの差の原因は何だと思いますか?

谷繁 練習だと思う。僕もやっているけど、前田はもっとやっているんでしょう。ただ、僕のゴルフは基本的に我流。野球だって先輩の技は見て盗むという時代でしたから、ゴルフも同じような感じでやってきました。もし、ゴルフを最初から習っていたらどうなったかなと思うことはあります。今は前田が完全に格上。まずは同じ土俵に立ちたいですね。

青木 そんな人のためのコーチが僕です。11月の日本ミッドに向け、まずは今夏の関東ミッド。最高のヒリヒリを味わってほしいです。できると思っているから言います。頑張りましょう。

なお、週刊ゴルフダイジェスト誌上で新連載「競技ゴルファー タニシゲwith青木翔」が3月12日号(2月27日発売)号よりスタートします!

PHOTO/Hiroaki Arihara
THANKS/六甲国際GC

※週刊ゴルフダイジェスト2024年2月27日&3月5日合併号「谷繁元信 目指す日本ミッドアマ対談」より

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