1996年のウェッジプロジェクト発足から28年。タイトリスト マスタークラフトマンのボブ・ボーケイがトッププレーヤーと共に確立してきたのが、ソールの“グラインドオプション”である。日本語で端的に表すならば「ソール形状の選択肢」ということだ。今回は、ボーケイウェッジがゴルフ界に広めたといっても過言ではない、スコアリングに必要不可欠なグラインドとバウンス効果の話をしてみよう。

「バウンスはヨットの帆のようなものである」(ボブ・ボーケイ)

ボブ・ボーケイはウェッジクラブのことを“スコアリングクラブ”と呼んでいるが、それはウェッジがバンカーや深いラフ、ベアグランドなど通常ではないライコンディションからアプローチを寄せ切るために、アイアンとは異なる工夫を凝らしたエキストラクラブだからである。

アイアンとは異なるというところが、まさにポイント。単にロフト角の大きいアイアン番手ではないのだ。

「ウェッジのソールにつけられたバウンスは車のエンジンのようでもあり、ヨットの帆のようなものであります。ソールにバウンス効果を持たせることで、厳しいライコンディションにおいてもクラブヘッドの減速を防ぐことができ、正しい軌道へと導いていくことができるのです」(ボーケイ)

バウンスは“抵抗”と訳されるためか、バウンス角が大きいクラブほど抵抗が大きく、インパクトで跳ねたり、芝の抵抗を受けて減速してしまうといったマイナスのイメージを抱くゴルファーも多いが、実際は逆だ。ウェッジのソールにバウンス(角・効果)を持たせることで、クラブヘッドは地中深くに潜っていかず、振り抜きたい方向へとスムーズに抜けてくれる。つまり、インパクトスピードを落とさないためにバウンスは付けられているのである。

画像: 厳しいライコンディションから打つ機会の多いウェッジ。そんなときにバウンス効果によって、クラブの減速を防ぎ、正しいヘッド軌道をキープできる(撮影/三木崇徳)

厳しいライコンディションから打つ機会の多いウェッジ。そんなときにバウンス効果によって、クラブの減速を防ぎ、正しいヘッド軌道をキープできる(撮影/三木崇徳)

「アプローチ巧者ほどバウンスを増やしてプレーしている」(ボブ・ボーケイ)

ボーケイウェッジのグラインドオプションが一般モデルに採用されたのは、2014年デビューの『SM5』が最初だが、そもそもツアーでは15年以上の歳月をかけてプレースタイルやプレー環境に応じたグラインドバリエーションについて試行錯誤が繰り返されていた。その発端は、ボブ・ボーケイと旧知の間柄であるPGAツアープレーヤー、トム・パニースJr.のひと言だったという。

画像: リピータブルで美しいスウィングと称されたトム・パーニスjr.。彼の要望から、プレーヤーに合わせてソールを削る“グラインド”の発想が生まれた(Getty Images)

リピータブルで美しいスウィングと称されたトム・パーニスjr.。彼の要望から、プレーヤーに合わせてソールを削る“グラインド”の発想が生まれた(Getty Images)

「ボーケイ・デザインウェッジの最初のラインアップに「260.04」というワイドソールのロブウェッジがありました。トムはこのモデルのソールを少し削って抵抗を弱めて欲しいと言ったのです。それがプレーヤーのプレースタイルに合わせてソールを削るツアーバングラインドの原点になったのです」(ボーケイ)

ソールを削ってバウンス効果を抑えると聞くと、やはり強すぎるバウンス効果は要らないのではないか? と思いがちだが、実はこれも大きな誤解。なぜなら、アプローチテクニックに長けたプレーヤーほど、バンカーや深いラフから脱出する時には“フェースを大きく開いて”アドレスをする。このフェースを開くことが、そのままバウンス効果を増やすということになっているからである。

画像: ローバウンスのTグラインドでも、フェースを開くことで大きくバウンスが出てくる(撮影/小林司)

ローバウンスのTグラインドでも、フェースを開くことで大きくバウンスが出てくる(撮影/小林司)

「初期の260.04や現在のKグラインドなどのワイドソールモデルでは、バウンス角が小さくてもソール全体の面積が大きいために強いバウンス効果が期待できます。しかし、トムや多くのトッププレーヤーのようにフェースを開いて、自らバウンス効果を増やすことができる場合は、元々バウンス効果が強いワイドソールでは抵抗が大きくなり過ぎてしまうのです」(ボーケイ)

トム・パニースJr.のフィードバックを受けて、260.04ウェッジのトレーリングエッジ(ソールの後方)をトウ・ヒールに大きく削ったソール形状が“Tグラインド”と呼ばれる、いわゆる三日月型ソールの原点。

画像: SM9から新たに加わった「Tグラインド」。最新モデル『SM10』では58度と60度にラインナップされている(撮影/有原裕晶)

SM9から新たに加わった「Tグラインド」。最新モデル『SM10』では58度と60度にラインナップされている(撮影/有原裕晶)

これを皮切りにツアー現場ではさらにフェースを開いて使いやすいLグラインドやキャンバー(適度な丸み)が強く狭めソールのEグラインドなどのプロトタイプが生まれ、さらにツアーソールデザインの基本形となるMグラインドなど現在のラインアップが確立されていった。

画像: アーニー・エルスもかつてボーケイウェッジで戦っていた。手にしているのはプロトタイプのEグラインド(Getty Images)

アーニー・エルスもかつてボーケイウェッジで戦っていた。手にしているのはプロトタイプのEグラインド(Getty Images)

フェースを開く=バウンス効果を増やすという意味であることがわかったと思うが、ここではその開く・開かないを基準に、最新のボーケイ・デザイン「SM10」のグラインドオプションを振り分けてみよう。

フェースを開かない派に最適なバウンス効果を! F・S・K

画像: 削りの少ないフルソールグループの【F・S・K】グラインド(撮影/小林司)

削りの少ないフルソールグループの【F・S・K】グラインド(撮影/小林司)

ソールのセンター、トウ、ヒール全面で高いバウンス効果を発揮するのがボーケイウェッジのフルソールグループである。バウンス角が大きくソール全面でバウンス効果を発揮するFグラインドを基本に、Fよりもバウンス角が小さく、フェースを開くことでバウンス効果を調整できるSグラインド。ワイドソールでバウンス効果高く、バンカーショットなどで大活躍するKグラインドがある。

フェースを開いてバウンス効果を調整しやすい! D・M・T

画像: 大きく面取りされた三日月型グループの【D・M・T】グラインド(撮影/小林司)

大きく面取りされた三日月型グループの【D・M・T】グラインド(撮影/小林司)

Tグラインドから始まったボーケイウェッジの三日月型ソールグループ。ソール前側から中央部をキャンバーにすることでフルショット時でも程よいバウンス効果を発揮するMグラインドを基本に、キャンバーをさらに大きく、フルショットやバンカーからも高いバウンス効果を発揮するDグラインド。そして、現在も多くのツアープレーヤーに支持され、SM10ではついにスタートからラインアップに加わった、Tグラインドが展開されている。

「グラインドを選ぶことで常に最大のバックスピンを得ることができる」(ボブ・ボーケイ)

ボブ・ボーケイはウェッジとアイアンの最大の違いは、スピンコントロール性能だと言っている。ソールのグラインドオプションを充実させているのも、ヘッドの軌道を適正に導くことで、ボールとフェースとの正しいコンタクトが実現できるからである。

「ボーケイウェッジにはバックスピンを最大化させる平滑なフェースとロフトごとに幅や深さを変えたシャープなスコアライン(溝)が採用されています。プレーヤーが自分のスタイルに適したグラインドを選択することで、こうした最新のフェーステクノロジーによる最大のスピン性能とコントロール性能を手にすることができるのです」(ボーケイ)

ツアーではアイアンのピッチングウェッジ(PW)ではなく、ボーケイウェッジの46〜48度をPWとしてセットするプレーヤーが増えているが、これも「彼らにとってPWが完全にピンポイントでカップを狙うクラブであることの表れだ」とボーケイは言う。

画像: マックス・ホーマもPWをアイアンタイプではなく、ボーケイデザインSM10に差し替えて戦っている(ソールの刻印はホーマオリジナルのもの)(撮影/Blue Sky Photos)

マックス・ホーマもPWをアイアンタイプではなく、ボーケイデザインSM10に差し替えて戦っている(ソールの刻印はホーマオリジナルのもの)(撮影/Blue Sky Photos)

2度刻みのロフトコンビネーションだけでなく、プレースタイルに沿ったグラインドオプションを揃えることで、あらゆるライコンディションから理想のDROP & STOP(正しく飛ばしてピタリと止める)を叶えるボーケイ・デザインSM10ウェッジ。どれが人気か? ではなく、どのロフト、どのグラインドが自分のプレーにとって最適なのか? どのモデルならスコアアップに近づけるのか? ボーケイウェッジ専用アプリや、タイトリストが行うツアーレベルのフィッティングを利用して、じっくりと“正しく”選んでいただきたい。

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