「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか? その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。

女子プロの飛躍と50グラム台のシャフト進化は密接な関係にある?

GD 将来的にはどうなんですか。技術が追いついてくる可能性は?

長谷部 あると思います。50グラム台が普及しはじめたのは10年前です。その頃の50グラム台ってまだトルクや硬さの問題もあった。それが現在はプロが使えるまでになっています。カスタムシャフトも60グラム、70グラムから今50グラムに対応できているので、40グラム台でも同じようなことができると思います。

GD この背景にはプロゴルファーの存在が重要な気がします。現在の女子プロの活躍は、もしかすると50グラム台のシャフトと密接な関係にあって、50グラム台のシャフトが女子プロを進化させたとも見えるし、50グラム台のシャフトの進化があったから女子プロのゴルフが進化したという、両方からのアプローチがあったような気がします。

長谷部 それは言えると思います。それまではメーカーが作った純正の50グラムのシャフトを使っていたのに対して、カスタムシャフトメーカーが『ツアーAD』とか、『ベンタス』とか、『スピーダー』とか…50グラム台のしっかりしたシャフトを作った結果、 選択肢が広がりパフォーマンスが上がって、距離アップにも繋がっていると思うので、その辺は間違いなく50グラム台のカスタムシャフトとの親和性はあるでしょうね。
それは60グラム台の時もそうでした。伊澤(利光)さんが60グラムを使ったのは衝撃で、あの時60グラムに変更できたのは、トルクが「3.2」とか「3.4」だったこと。80グラムに匹敵するようなハードスペックを出していたんですよね。今の50グラム台のシャフトは、かなりハードで50グラム台とは思わないほどの「ねじれ剛性」を持っているものもたくさんあります。

GD 40グラム台が進化して、「40グラムのほうがいいよね」って声が上がってくれば、40グラム台にも進化が起こる可能性あるということですか。

長谷部 あります。一部のドラコンプロの中に「軽硬(カルカタ)理論」があって、ヘッドバランスをあまり利かせないで、棒みたいな軽いシャフトの長尺クラブを振って飛ばしているプロがいます。非常にフレックスが硬く、低トルクに作られている特別なものですが、強度的に市販が難しいシャフトとのことでした。そういったものが一般化すると、カルカタ理論で飛ばせるようになるのかな、という気がします。

GD 30グラム台に行く可能性は?

長谷部 30グラム台が平気で作れるような技術要素、設計要素がないと、40グラムは余裕で作れないでしょう。40グラム台は低トルク化が必要だし、手元剛性を上げたりとか、先端剛性を上げたり、部分的な剛性のアップを図っても、軽くできるみたいな素材とか、そういうものがどんどん出てこないと、ちょっと難しいかもしれない。「三菱ケミカル」の『バンキッシュ』はその走りかもしれません。

画像: 「三菱ケミカル」の『バンキッシュ』は、30グラム台の「R3」から50グラム台の「TX」まで17スペックをラインナップする。40グラム台も「X」、「TX」がある

「三菱ケミカル」の『バンキッシュ』は、30グラム台の「R3」から50グラム台の「TX」まで17スペックをラインナップする。40グラム台も「X」、「TX」がある

ツアー用のヘッドに対応できる40グラム台のシャフトはできるのか?

GD 新しいシャフトのラインナップは、今まで50グラム台で止まっていたものが、40グラム台が加わって、カスタムの既製品として、こう出てきたので、40グラム台の進化に期待していました。

長谷部 自分も期待していました。ですけど、現時点では50グラムと40グラムの差がちょっと大きいのかな。他メーカーの50グラム台と40グラム台を打ち比べたときも、同じ傾向があって、50グラム台は長尺にしても大丈夫なぐらいしっかりしていても、40グラム台はヘナっとしていてヘッドが付いてこなかったことがあります。ちょっと硬さが足りていないのだと思います。

GD 女子プロが40グラム台を使って活躍するのが通常化してくると、急遽、開発技術が上がって、製品も良くなってくる。それを待つしかないのかもしれませんね。「ゼクシオ」とかシニア用の40グラム台とは違うもの。

長谷部 ヘッドがシニア用じゃなく、ツアー用のヘッドを付けても大丈夫なもの。シニア用のヘッドはシャフトの遅れをヘッドでカバーしている可能性もあります。今のシニアのクラブは軟らかく、しなやかなシャフトでタイミングを取らせるって振り感だと思うので、体力があり元気よくラウンドしていて、でも、もっと飛ばしたいという要求にはちょっと合わないかもしれません。

GD 長谷部さん的には、問題を抱えつつもさらに軽量化は進むと思いますか?

長谷部 ここで止まるとは思えないですね。メーカーは軽量化を進めてくると思います。

GD グリップはそこそこ軽量化が進んでいるので、ヘッドの軽量化とシャフトの軽量化になると思うのですが、課題を解決して50グラム台から40グラム台に移行しはじめるのはいつ頃だと予想しますか?

長谷部 1、2年で出てくるのかな? って言うにはちょっと不安がありましたね。

GD 1、2年では切り替わりははじまらない。

長谷部 それはさっき話したようにカスタムシャフトメーカーがその市場をどう捉えているかによるので、40グラム台のカスタムはまだ市場としては小さいなというマーケットデータが出ると、次の仕事をやるときもおそらく40グラム台はラインナップに加えても、新しいコンセプトでの開発を躊躇してしまい、今までの流れでシニアや女性の上級者に向けたパターンの設計が中心になるのかなと思います。
切り返しが速くて、ヘッドスピード40m/s前後の方が40グラム台を使うには、まだ物足りないはずなので、同じ「S」シャフト表示でも「SX」ぐらいのシャフトの硬さを作ってくれるメーカーが出ないと、カスタム市場の軽量化は進まないでしょうね。

GD 10年ぐらい前に『スピーダー474』の「S」と「X」のプロトタイプを試打させてもらったことがあるんですが、それは硬かったです。でも、強度の問題で市販はされませんでした。10年経っているので強度問題は、ある程度解決したのかな? と思っていました。

長谷部 ヘッドスピード基準で何メートル以上の人は打たないでくださいっていうのがあるとしたらそれが限界ですし、強度の面でまだいい材料、いい設計が見つかってないんじゃないですかね。

GD 最新の『エアスピーダー』には「Xプラス」という硬いスペックがラインナップされています。これはかなり剛性が出ているなと感じたのですが、重量が「40グラムちょうど」なので、いかんせん軽すぎる感じがありました。40グラム台といっても47、48グラムは欲しいところです。

長谷部 40グラム台の『エアスピーダー』をベースに開発したシャフトのドライバーを2013年頃に作ったことがあります。46.75インチでフレックス表示は「S」なんですけど、中身はワンランク硬い「S2」にしました。通常の硬さだと長いので軟らかく感じるため硬さをアップしたんですけど、ヘッドも軽くして、振り感がよかったことがあります。

GD そう考えると、40グラム台へのトライは10年前から始まっているんですね。カスタムシャフトに40グラム台がラインナップに加わったことは一歩前進だとしても、50グラム台のように普及には至っていない。

長谷部 一部のシャフトを除いて、まだ40グラム台は「S」止まりなので、50グラム台のように「X」まで硬いシャフトが作れるようになるまでは、難しいかもしれません。

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取材協力/港南ゴルフセンターGDOゴルフガレージ

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