生源寺龍憲
しょうげんじたつのり・1998年山口県出身。10歳でゴルフを始め、岡山作陽高校を経て同志社大学へ。20年プロ入り後、23年ABEMAツアーでプロ初優勝し次戦も制して連勝。歴代最多賞金額で賞金王となる。24年はアジアンツアーのQTも2位通過。世界を舞台に戦う、渋野日向子の同級生であり久常涼の高校の先輩。生源寺という名前は滋賀県にある寺、生源寺(最澄の生誕の地)に由来(実家が寺というわけではない)。
昨年はABEMAツアーが主な舞台となった生源寺。「フル参戦1年目で感じたことや足りないところもたくさんあったので、オフに合宿をして強化したんです」。生源寺は緻密だ。データを分析してプランをしっかり立てる。
「飛距離が出ないことでアドバンテージを取れていないと感じていました。エクセルに全選手の賞金や飛距離、フェアウェイキープ率などのデータを入力し、平均を出したり、相関を出したりもしました。それで賞金と一番相関があったのが飛距離だった。だから絶対、そこは自分のなかでは避けて通れないと。テクニックで伸ばす方法もあると思うけど、スウィング改造ではなくフィジカル改善でアップできる方法を考えた。単純に振る出力が上がれば距離は伸ばせます。何パーセント筋肉量が増えれば、どれくらい飛距離が伸びるかなどを計算しました」。
自分を客観視できるから、取り組むことが明確となる。生源寺の体改造のサポートをするのは、福岡の今林伸司トレーナー。プロテスト合格の翌年からの付き合いで信頼できる“相棒”だ。
「1週間のメニューを毎日こなしている感じです。大学時代もやってはいたんですけど、ウェイトトレーニングはケガのリスクも上がるのでそこまではできなかった。今林さんは理学療法士でもあるので安心して、思い切って踏み込んだんです」。
山口県山陽小野田市出身の生源寺は、サッカーに熱中する少年だった。しかし、父と練習場に行きゴルフが好きになった。
「今振り返るとサッカーもよかったと思うんですけど、ジュニア時代はスタートの差は感じましたし、初めて全国大会に行ったのも高校に入って。今まで経験したことのないレベルや世界観の差を感じた」。
しかし、ゴルフをやめる気はなかった。
「好きだし負けたくないから。だけど勉強もきちんとしたかった。ゴルフだけやっているヤツには絶対に負けたくないと(笑)」
「主観的感覚を言語化するためにデータを使う」
昨年のスタッツからはショートゲームを課題にするが、「ミスショットでボギーを打ったりマネジメントのミスもあった。でもそれも体の疲れからきている部分もあったので、フィジカルが上がれば解決できる部分でもあるのかなと思っています」。
作陽高校では進学コースに、大学は同志社大学商学部に入った。中学時代から大学には絶対に行くと決めていたという。
「ゴルフだけをするというのが好きではなくて、いい大学にも入りたいと思っていたんですね」。プロになろうと思ったのは20歳、大学3回生になる頃。「普通に仕事をしたほうが稼げると思っていたのでプロになる気はまったくなかった。大学に行ったのも自分でビジネスがしたかったからです」。
しかし、元来のチャレンジ精神がゴルフに向いた。「実力も上がったのと、プロゴルファーって時間的、体力的なリミットがあると思ったんです。ビジネスは、今やりたいことをやった後でもできますから」。
生源寺は自身の人生においても常に自分の軸があり、ブレない。
「あまりノープランでいくタイプではないですね。客観的なデータはもちろん、感覚も大事にしながら、主観的な感覚を言語化するためにデータを使っている感じです」
技術面では、スウィングの再現性を高めていくようにしている。課題のショートゲームに関しても合理的なマネジメントも考える。
「極端な話、グリーンを外さなければアプローチは必要ない(笑)。グリーンに乗せていくショットの精度をもっと上げればいいかなと今は考えています。スタッツやトラックマンの数値は、自分のタテ、過去との比較と、ヨコ、他の選手との比較をしながら改善できるとことを考える。試合会場で、上手いなと思う選手を分析して、自分とはどこが違うか考えたりもします。昨年だと、金谷(拓実)くんや中島啓太を参考にしましたね」
これらの結果、昨年はABEMAツアーで2勝し、史上最高額を獲得し賞金王になった。しかしこれもただの結果で通過点にすぎない。
「3勝を目標にしていましたから。でも、(出場した)レギュラーツアーは初めてのコースが多く、それまで3日間の戦いだったのでセッティングも違えば1試合の体力配分も違った。だから今年はそこにフォーカスして、連戦しても大丈夫なように強化をしてきました」
「飛距離と賞金に一番相関があるんです」
「もともとショットは好きでした。真っすぐ打っていく自信もあった。だから飛距離を伸ばすことで、セカンドを短い番手で打てるようになり、グリーンもキャッチしやすくなる。ピンに近い場所にも乗せられるようになったんです」。
このオフは3週間の合宿で、筋持久力などをテーマにラウンドはせずトレーニング中心のメニューをこなした。こうして自分を高めていく。
今年の国内開幕戦の東建ホームメイトカップではいきなり2位に入った。
手ごたえを聞くと、「僕にとっては開幕戦という感じではなかった。年明けからすでに試合に出ていたのでスムーズに入れました。アジアンツアーのタフさに慣れていたので。でも、今年の目標の1つが早めにシード権を獲得してアジアに行くことだったので、そこはクリアできたかな」
生源寺は年明け早々のアジアンツアーのファイナルQTで2位に入った。これもプラン通りだ。
「一昨年も受けようと思っていたんですけど、体的にも金銭的にも準備ができていなくて。でも昨年は、絶対に受けると決めていました。それを頭のなかに置きながらシーズンを戦っていた。世界でプレーしたかったし、より高いステージ、レベルで、自分のゴルフがどこまで通用するんだろうと」。
実際アジアでは、グリーンの違いなどでパターのウェイトを替えて調整することや、アジャストする能力が必要だと感じたという。プランから外れたときでも冷静に考え、対処できるようになった。
「新しい環境では、最初はやり方がわからないので自分の持っている引き出しをパーッと開けていくんですけど、今年アジアンツアーに参戦して、引き出しがない状況に遭遇することがあった。でもそこは考えてやるしかないのかなって。本当にゴルファーとして成長できている部分なんだと思います」。
生源寺の根底には、強いメンタルがあるようにも思える。
「僕は負けたくない、それだけです。競い合ったら相手をぶっ倒してやろうという感じは常にあるんです」。
クラブ選びも同じだ。兵庫県市川町の藤本技工製のウェッジとアイアンを使用している。こだわりは強くヘッドを軽くすることでスピードを上げスピン量を増やしている。昔からクラブが好きだった。
「僕、そもそも標準のクラブが使えなくて。背も低いですし、自分に合わせたいところが最初からあって、自分の使いやすいクラブを追い求めた。道具を上手く使った人が勝つスポーツだと思っているので。そこはゴルフをやめるまでそのときのベストを求めます」。
しかしウッド系はグリーンを狙うクラブではないので、自分の思ったように飛ぶ、数値がよいものを選ぶという。
「ヘッド形状は大きくてつかまりやすいクラブが好き。ハンドアクションが少なくて済む。今のクラブの性能を生かしたい」。
こだわりと合理性のバランスが絶妙なのである。
「もちろんまだまだ磨いていかなければいけないこともあります。ショートゲームはずっと課題ですし、飛距離ももっとほしい」。
自分を高い位置に置き、そこに自分を引き上げる。決してビッグマウスに聞こえないのが、生源寺の実力なのだろう。
「道具を上手く使った人が勝つ」
クラブは思ったことを全部表現してもらえる、試させてもらえるという。アイアンの情報は自分でも管理していて海外では自分でロフトとライ角はチェック。「今年は5~7番アイアンがフェースだけメッキのものに変わりました、中身は変わっていませんが」。
アジアンツアーではキャディと今林トレーナーと行動する。今はまだトラブルになったら対応できないという英語も、近いうちに自分のものにしていそうだ。
「食べ物は平気です。日本とは食文化が違うのである程度予測できる。青汁やプロテインを持って行きますし、普通にイタリアンなどを食べて栄養補給はできます」。
座右の銘は「成長は止めたくないということです」と自分の言葉で語る生源寺。4月中旬のサウジオープンでは17位に入った。しかもホールインワンのおまけつきだ。
「今年は年間30試合はこなして日亜どちらもシードを取りたい。アジアンツアーは新しいことが多くてすごく刺激的で楽しいです。僕、新しい環境が好きなんです。慣れてくるとつまらなくなる」。
5月は日本ツアーで4連戦を戦う。「日本の試合に興味がなくなってきたかもしれない」と冗談ともつかない言葉を発して笑うが、ここにもプランと目標がある。
「国内では複数回優勝したいし、ミズノオープンも狙いたい。海外メジャーにも行って勝ちたいんです。ヨーロッパへの挑戦の道もできるので賞金王も狙いたい。ZOZOにもすごく出たいし、チャンスがあればコーンフェリーツアーにも行きたい。LIVも楽しそうだと思いますし。いろいろなルートがあるので選択肢も多いです」。
“欲張り”はモチベーションにもつながる。
「僕のヒートアップ具合も見てください」
実家にはあまり帰らないという生源寺。「落ち着きすぎて成長が止まっちゃう気がして嫌なんです。僕、特に優勝争いをしていると結構プレーに気持ちが出ると思います。そのヒートアップ具合を見てほしい。ガッツポーズは意識していませんが、見てくれていたら僕の溢れる気持ちがわかると思います」。
「もともと海外志向というより、面白そうとか楽しそうとかいう感情がすごくある。難しい状況のほうが燃えるんです(笑)」。
最後にプロゴルファーになってよかったと思うか聞くと即答で、「よかったですね。僕がビジネスをしたいと考えていたのも、世界で商売できたらいいな、いろいろなところに行ってみたい、いろいろな価値観に触れたいということもあった。その面ではプロゴルファーで世界に行けているのは、いいなあと思っています」。
将来はビジネスマンに?
「そうですね。ゴルフだけで終わりたくないなって(笑)」。
積み重ねた世界の経験の先に、大きな世界が広がっていく。
※週刊ゴルフダイジェスト5月21日号「この男、一体何ものだ? 生源寺龍憲」より
PHOTO/Hiroaki Arihara , Tadashi Anezaki