さまざまな距離を打ち分けるだけでなく、バンカーやベアグラウンドなどあらゆる状況からピンに寄せることが課せられるウェッジ。それだけにその状態には、他のどのクラブより気を配る必要がある。ボーケイに学ぶウェッジの本当、シリーズ最終話は“ウェッジの溝”について考察してみよう。

ボーケイ・ウェッジの登場でガラリと変わった交換のサイクル

画像: 2024年シーズン、強さに一段と磨きがかかっているスコッティ・シェフラー。巧みなアプローチはボーケイ・ウェッジが支えている(写真/Blue Sky Photos)

2024年シーズン、強さに一段と磨きがかかっているスコッティ・シェフラー。巧みなアプローチはボーケイ・ウェッジが支えている(写真/Blue Sky Photos)

世界ランキングNo.1プレーヤー、スコッティ・シェフラーの圧勝が記憶に新しい、2024メジャー初戦の『マスターズ』。彼の強さの一端はショートゲームの安定感に表れていた。Stroke Gained: Around the greenでカテゴリートップとなり、グリーン周りの安定感だけでフィールドを7打以上もリードしたのだ。彼が手にしていたウェッジは、過去のツアー優勝時と同じ、ボーケイ・デザインSM8 50.12F、56.14F、SM9 Wedge Works 60Tだった。

画像: シェフラーがバッグインする3本のボーケイ・ウェッジ。50度、56度はフルバウンスのF、60度は大きくグラインドされたTを使う(写真/Blue Sky Photos)

シェフラーがバッグインする3本のボーケイ・ウェッジ。50度、56度はフルバウンスのF、60度は大きくグラインドされたTを使う(写真/Blue Sky Photos)

現在、ボーケイウェッジは『SM10』が最新作なので、シェフラーは少し古い世代のボーケイウェッジを愛用していることになる。契約外であるし、よほど気に入っていて手放せない状態になっていることは容易に想像がつく。しかし、ウェッジはパターとは違う。バンカーで使用するだけでソールもグルーブ(溝)も摩耗していってしまう。毎週、練習ラウンドも含めれば5ラウンド以上をこなすツアープレーヤーがいくら気に入っているからと言って、同じウェッジを何シーズンにもわたって使うことはできないだろう。ウェッジのパフォーマンス、とくにスピン性能はスコアマネジメントにおいて最も重要だからだ。

画像: フェースに特殊な熱処理加工が施され、耐摩耗性に優れているボーケイSM10。それでもバンカーをはじめ様々なシチュエーションで使われ続ければ、次第にスピンパフォーマンスへの影響が出ることは防げない(写真/有原裕晶)

フェースに特殊な熱処理加工が施され、耐摩耗性に優れているボーケイSM10。それでもバンカーをはじめ様々なシチュエーションで使われ続ければ、次第にスピンパフォーマンスへの影響が出ることは防げない(写真/有原裕晶)

「我々の研究では、真新しいウェッジで3メートル以内に止まっていたアプローチも、75ラウンドすれば5メートル転がり、125ラウンドでは7メートルオーバーするようになってしまうことがわかっています。ボーケイ・ウェッジには特殊な熱処理加工を施し、グルーブの目減りが抑えられるように工夫をしていますが、やはり使用頻度が高いほど早くスピンパフォーマンスに影響が出てしまうのです。このため、ツアープレーヤーたちは常に同じウェッジコンビネーションで戦っているように見えますが、数試合に一度はまったく同じロフト、ソールの新しいヘッドに交換しています。だからこそ常にイメージ通りのスピンコントロールでアプローチを成功させることができるのです」(タイトリスト ボーケイウェッジPGAツアー担当/アーロン・ディル氏)

ボーケイの多彩なグラインドによって、ウェッジを“使い込む”時代は終わった

タイトリストのマスタークラフトマン、ボブ・ボーケイ氏がプレーヤーのアプローチスタイルに合わせたソールのグラインドオプションを確立する前のプロツアーでは、名器と呼ばれるクラシックモデルのウェッジを何年にもわたって使い続けているプレーヤーがほとんどだった。その理由は使い込むごとにソールが摩耗していき、長く使うことでプレースタイルに馴染んだ自分だけのウェッジに育っていったからである。当然、使い込めばフェースのグルーブは摩耗していくが、当時のプレーヤーはそれよりも思い通りにワークしてくれるソール形状を優先していたのである。

画像: 左からF、S、Kグラインド。ソールの削りが少ないフルバウンス系の3モデル(写真/小林司)

左からF、S、Kグラインド。ソールの削りが少ないフルバウンス系の3モデル(写真/小林司)

画像: 左からD、M、Tグラインド。削りが大きい三日月形ソールの3モデル(写真/小林司)

左からD、M、Tグラインド。削りが大きい三日月形ソールの3モデル(写真/小林司)

ボーケイ氏がゴルフ界にもたらした最大の功績は、ウェッジを長く使ってソールを自分専用に馴染ませる、という名プレーヤーたちの努力を不要にしたことにあるだろう。グラインドシステムが確立されたことで、現在のプレーヤーは新品の状態で長年使い込んだかのような最適なソールパターンを手にすることができるのだ。

ツアーにおいて“ウェッジを使い込む”は、もはや死語と言える。人によっては試合毎、長くても3カ月に一度は新品ウェッジに交換し、常にフレッシュなグルーブでチャンスメイクしているのである。

ウェッジの替え時を知ってスコアアップを目指そう!

我々アマチュアの場合は、さすがに数カ月に一度新品ウェッジに交換することはできないが、それでもいつかは替え時はやってくる。今回はその見極めポイントについて紹介しておこう。

「まず、グリーン周りのアプローチで“いつもよりボールの打ち出しが高い”と感じるようになったら、グルーブの消耗が激しくなっているサインです。溝のエッジでしっかりとボールをホールドできなくなり、バックスピンが低下することで打ち出し角が高くなってしまうのです。もちろん使用頻度によりますが、だいたい75ラウンドがスコアメイクに有効なウェッジパフォーマンスが発揮される目安になると思います」(アーロン・ディル氏)

画像: 溝がフレッシュな状態であれば、溝のエッジがボールに食いつくので、写真のように打ち出しが低くなる。自分のイメージよりも高く打ち出されるようであれば、ウェッジの交換時期だ(写真/小林司)

溝がフレッシュな状態であれば、溝のエッジがボールに食いつくので、写真のように打ち出しが低くなる。自分のイメージよりも高く打ち出されるようであれば、ウェッジの交換時期だ(写真/小林司)

月2回のラウンド頻度として3年で72ラウンド。ボーケイ・ウェッジの新作が登場するサイクル(2年)に合わせて交換するイメージを持っておけば問題ないだろう。

ただ目安となる75ラウンドというのも、あくまでラウンドのみで使用した場合。ウェッジで練習をするプレーヤーであれば、その分も加味して買い替え時期を検討する必要があるのだ。

ディル氏が説くアプローチでの打ち出し角度の変化だが、それをチェックポイントとするためには忘れてはいけない鉄則がある。それはラウンドで使用するゴルフボールの銘柄を固定することだ。ショートアプローチでの弾道高さは溝の摩耗の前に、ボールの性能に大きく左右される。変化に気づくためには、“いつも”を知ることが必要。ドライバーも大事だが、ベストスコア更新を目指すならボールとウェッジの選択に徹底的にこだわりたいものである。

画像: 安定したスピン量を得るためには、使用ボールを固定することが絶対条件。弾道の高さ、スピン量などが自分のイメージに合うかをしっかりと見極めよう(写真/小林司)

安定したスピン量を得るためには、使用ボールを固定することが絶対条件。弾道の高さ、スピン量などが自分のイメージに合うかをしっかりと見極めよう(写真/小林司)

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