解説はこの人!
クラブ設計家 松尾好員
往年の名手S・バレステロス、青木功、加瀬秀樹らのクラブ設計を担当。近年のクラブを知る“現代の知匠”。ジャイロスポーツ主宰。
「週刊ゴルフダイジェスト」で「ヘッドデータはウソつかない!」を連載中
「ギア効果」はどうやって発生する?
クラブ設計家、松尾好員氏に聞いた。ギア効果とは、どういうものなのか?
「ヘッドが回転することでボールに逆回転を生じさせるものです。2つの歯車(ギア)がかみ合った状態をイメージしてください。右のギアが右回転すると左のギアは左回転します。この逆回転がボールに加わるわけです。ただし、ヘッドが回転するには条件があります。スイートスポット(SS)から打点がズレないとヘッドは動きません。打点がズレることでヘッドが当たり負ける。その結果、ヘッドが動く=回転するわけです。ですから、真芯でインパクトした場合、ギア効果は発生しません」
ギア効果には条件がある
「打点がスイートスポット(SS)からズレないと発生しません」
打点がスイートスポットからズレないとギア効果は発生しないが、SSは面積を持たない1点なので少なからずギア効果は生まれるのだ。この打点がズレるほど、ヘッドがより回転するため、ギア効果も大きくなる。
ギア効果を生むには、まずヘッドが回転する必要があるのだ。そのうえでギア効果は、大きく2種類に分けられるという。
「ギア効果はヘッド慣性モーメントと同様、左右、上下が複雑に絡み合う360度的な効果なのですが、一般的にはヨコのギア効果(フェース面の左右)、タテのギア効果(フェース面の上下)で考えるとわかりやすいです。
まずはヨコのギア効果から。SS(芯)に対してトウ側に当たるとボールにフック回転がかかり、ヒール側に当たるとスライス回転がかかります。ヘッドの回転に対して逆方向の回転がボールに働くことになります。一方、タテのギア効果は、バックスピンに影響するものです。SSより上めで当たるとスピンを減らす働き、下めで当たるとスピンを増やす働きが生じます。これがヨコとタテのギア効果になります」
ギア効果は2つ:上下より左右の方が大きく働きます
ヨコのギア効果
芯よりトウ側に当たるとヘッドは右回転する。するとボールには左回転が加わる。つまりフック回転がかかる。逆にヒール側に当たれば、スライス回転がかかる。ヘッドの回転がボールに逆回転を生じさせるのだ。
タテのギア効果
芯より上に当たるとヘッドはロフトが寝る方向に回転し、スピンを減らす回転が加わる。一方、下に当たるとヘッドはロフトが立つ方向に回転し、スピンを増やす回転が加わる。打点の関係でタテよりヨコのほうがギア効果は大きい。
打点のズレによって起きるギア効果は、どこに当たるかでその効果も大きく変わる。ということはミスヒットが多いアマチュアには恩恵があるのだろうか?
「ギア効果はSSから打点がズレるほど、大きく働きます。これはヘッドの重心が深くなるほど、打点と重心が離れ、ヘッドが回転する力が強くなるからです。
次にミスヒットについてですが、ヨコのギア効果で考えれば、トウ側に当たればフックし、ヒール側に当たればスライスしますから、弾道的に真ん中へボールを戻してくれる効果はあります。ですので、ミスの度合いを抑えてくれる可能性はあります。ただ、アマチュアに多い、単にフェースが開いてスライスしたり、かぶってフックするような弾道もありますが、ヘッドが当たり負けして回転しない限り、ギア効果は生まれないので逆回転も加わりません」
ギア効果の真実
ギア効果はフェース面にある丸み(左右方向のバルジ、上下方向のロール)によって発生する。そう思っているアマチュアは多いはず。だが、これは間違い。ギア効果の真実を教えてもらおう。
「ギアは歯車ですから、お互い(フェースとボール)が丸くないと成立しない、そう思っているアマチュアは多いです。ですが、フェースが平らだとしてもギア効果は働きます。ギア効果はヘッドが回転することで生まれるものです。ですからフェース面の丸みは関係ありません。フェース面が平らでもヘッドが回転すれば、歯車のようにかみ合うのでボールに逆回転を加えられるのです」
ギア効果の真実①:フェースが平らでもヘッドが回転すればギア効果は発生する
右図のようにフェース面が平らでもヘッドが回転すれば、ギア効果は発生する。一方が平らでも歯車のようにかみ合えば、ギア効果が生まれるのだ。だが、このままだとボールは大きく曲がるだけだという……。
ギア効果は歯車で考えるとわかりやすい。右の歯車が右回転すれば、左の歯車は左回転する。逆回転がかかる、これがギア効果だ。
ギア効果の真実②:アイアンでも重心が深ければギア効果が働く
フェースが平らなアイアンにもギア効果は発生するのか?
「コンピューターでシミュレーションした結果、アイアンでもギア効果が働くことがわかりました。ただし、重心の深さが関わってきます。」
「重心深度が5㎜以上になるとじわじわとギア効果が働きます。5㎜というのは少しボテッとしたUTに近いアイアンになります」
では、フェース面にある丸み、バルジ&ロールの役割とは?
「ギア効果はヒッコリーの時代からありました。当然、フェース面を平らにしたヘッドも作られたはずです。ですが、バルジやロールのないヘッドは、ギア効果の影響で大きく曲がりすぎてしまうのです。トウ側に当たれば大フック、ヒール側なら大スライス。これではゴルフになりません。そこでフェースに丸みをもたせたのです。つまりフェース面の丸みは、ギア効果を減少させるものなのです」
フェース面の丸みでギア効果を抑制? どういうことなのかもう少し詳しく説明してもらおう。
「フェース面の角度的要素が関係するからです。フェース左右方向の湾曲「バルジ」で説明します。トウ側に当たるとギア効果でフック回転がかかりますが、同時にトウ側は丸みの影響でややオープンフェースになります。するとフェース面の角度的要素でスライス回転がかかり、その結果、フック回転を減少させます。これがバルジの役割。これはヒール側でも同じですが、ギア効果より影響は小さいため、トウ側ならフックするとなるのです」
ギア効果の真実③:バルジ&ロールはギア効果を抑えるためのもの
「バルジによりトウ側はスライス回転、ヒール側はフック回転が加わり、ギア効果を減少させます。一方、ロールは上ならスピンが増え、下ならスピンが減る方向に回転が加わりますが、バルジほど影響は大きくないです」
ギア効果の真実④:ギア効果は今も昔も変わっていない
「ヘッド慣性モーメントが小さい(ヘッドが動く)ほど、重心が深いほど、ギア効果は大きくなりますが、この2つは相反するもの。ですので、昔も今もヘッドのギア効果でいえば、ほとんど変わっていないのです」
フェース面の角度的要素というのは、フェースが開いたらスライスし、かぶればフックするというもので、これはギア効果ではない。フェースが開いてトウヒットした場合は角度的要素のほうが強く、ギア効果が抑えられてしまい、フックしない現象が起きる。
「ギア効果にはフェース面の角度的要素が大きく影響する。これは覚えておいてほしいですね」
豆知識①:FWやUTはドライバーよりボールを曲げやすい
「小ぶりなドライバー、ヘッド左右慣性モーメントが小さいヘッドは、ヘッドが動きやすいのでギア効果も発生しやすいです。ということはFWや UTは、インテンショナルにボールを曲げやすいといえるでしょう」
豆知識②:パーシモンの丸みが強いのはギア効果を抑えるため
「パーシモンと今のヘッドを比べると、パーシモンのほうがフェース面に少し丸みがありました。これは慣性モーメントが小さく、ヘッドが回転しやすいパーシモンのギア効果を抑えるためだったのでしょう」
豆知識③:大慣性モーメントのヘッドが曲がりづらいのはギア効果の影響!?
大慣性モーメントのヘッドはヘッドが動きづらいため、ギア効果は小さいが、重心は深いのでギア効果を増やす要素も。よって効果は相殺される。ボールが曲がりづらいと感じるのはギア効果の影響ではないのだ。
PHOTO/Osamu Hoshikawa、Getty Images
※週刊ゴルフダイジェスト2024年6月18日号「今さら聞けないクラブの話“ギア効果”のメカニズム」より