「去年の忘れものを取りに来られてよかった」(桑木)
涙の初優勝だった。
桑木は最終18番で50センチのウィニングパットを沈めると、パターを持った左手と右手を突き上げて、2度万歳。最初は満面に笑みをたたえた。ギャラリーから大きな拍手を浴び、周りから祝福の言葉をかけてもらうと、次第に感極まって両手で顔をおおって涙を流した。
コースとギャラリーに一礼し、グリーンサイドで待っていた同期の岩井明愛・千怜姉妹、続けて初優勝を争った仲良しの佐久間朱莉と抱擁すると、もうこらえ切れず、顔をくしゃくしゃにして泣いた。
雨の中で赤いブレザーに身を包んだ優勝スピーチで、思いの丈を言葉にした。
「今、頭の中が真っ白ですが、まずは去年の忘れ物を取りに来たということで、取りに来られて本当によかったです」
ちょうど1年前の今大会最終日は、喜びの涙ではなく、悔し涙を流していた。通算10アンダーでトップに並んだ櫻井心那とプレーオフになり、惜しくも初優勝を逃した。気丈に拍手と抱擁で勝者を讃えるフェアな姿はSNSなどで話題になったが、初優勝への思いは一層強くなった。そのとき失った優勝という「忘れ物」をこの日、自分の力で取り戻した。
「すごい去年悔しかったので、今年は優勝したいと思っていました。でも、あまり意気込みすぎてもあれだなと思っていたけど、初日にいいプレーができたので、全力で前を向いて頑張るだけだと思いました」
「最後は動揺なく寄せられました」(桑木)
過去に優勝経験があるかのような、安定したゴルフを披露した。第1日に7アンダー65でロケットスタートを決め、降雨によるコースコンディション不良で2日目が中止になったものの、第2ラウンドも71でまとめ、首位の堀に1打差2位で最終日に臨んだ。
この日は5番で右奥から9メートルのバーディパットを決めて良い流れを引き寄せると、9番では左奥から13メートルを沈めて堀に並んだ。そして、12番でも6メートルを入れて単独首位に浮上。15番でバーディを奪った堀に並ばれたが、16番で第2打を1.5メートルに乗せて突き放した。
最後の最後まで集中を切らさなかった。1打リードで迎えた最終18番は第2打をグリーン左のラフに外したが、落ち着いてアプローチを打ち、ピンそばに寄せた。
「最後は練習のときに左へ外しても寄せられると思っていたので、動揺なく寄せられました。今日はガツガツいかなくても、安全にいって、パターで決めればいいかくらいの気持ちでプレーしました」
今年からコーチ、トレーナーをつけ、本格的にゴルフに向き合い、初優勝を引き寄せた。コーチはプロゴルファーで当サイトの特派記者の中村修。トレーナーは前に稲見萌寧を指導した小楠和寿氏。
「ネガティブになりやすいので、ネガティブな感情を言ったりしちゃうんですけど、去年まで1人で抱え込んでいたのを、周りがいてくれることによって1人じゃないと思えましたし、背中を押してくれたので力になりました」