メジャー8勝のトム・ワトソンはリンクスが得意で全英オープンを5度制覇している。特に有名なのがジャック・ニクラスと死闘を演じ『Duel in the sun(真昼の決闘)』と称された1977年ターンベリーでの勝利だ。それから32年、59歳になったワトソンが2009年、思い出の地で奇跡を起こす寸前だった。最後はプレーオフでスチュワート・シンクに敗れたものの愛するリンクスで史上最年長チャンピオンの座に近づいた。
人工股関節に置き替える手術から9カ月しかたっていない09年7月、ターンベリーの舞台に戻ってきたワトソンは躍動した。往年のプレーを彷彿とさせるリンクスの達人ぶりを発揮し、初日ノーボギーの65をマークすると、3日目を終え後続を1打リードし単独トップに立っていた。
史上最年長メジャー優勝の可能性が高まった緊張からか最終日は出だしの3ホールで2つボギーを叩いて一時トップから後退した。しかし粘り強いプレーで7番と11番でバーディを奪い返し上位争いに食らいつく。
17番でバーディを奪った時にはニクラスとの『真昼の決闘』を知るギャラリーから大歓声が巻き起こる。最終18番を迎えたときにはクラブハウスリーダーのシンクに1打差をつけ単独トップに立っていた。
ティーショットは完璧だった。フェアウェイど真ん中からのセカンドショットは残り187ヤード。8番アイアンで「意図した通りのショットを打った」はずだった。しかし打球はグリーンを超え奥のラフまで転がった。
「おそらく9番で打つべきだったのでしょう。飛んでいる最中に突風が吹き打球の回転がほどけてしまった。ピンの真上に落ちたのにスピンがかからず奥まで行ってしまいました」
それは71ホール目まで続いたターンベリーの魔法が解けた瞬間だった。
ショートラフからのアプローチは「(パターで)ひどいパットを打ってしまった」と寄せられずボギー。シンクと並び4ホールのプレーオフに突入したのだが「次から次へと悪いショットが続いた。勝つためにやるべきことをやったシンクを褒めるべき。彼の相手にはなれませんでした」と白旗を揚げた。
記者会見の会場に登場したワトソンは記者たちの沈痛な面持ちに「葬式じゃないんですよ(笑)」と粋な挨拶で語り始めた。
「ひょっとするととんでもないことになっていましたよね。でもとんでもないことにはなりませんでした。がっかりしています。心が引き裂かれるようで簡単には受け入れらない。勝てる位置にいたのに最終ホールでチャンスを逃してしまいました」
それでもワトソンはこういった。「今週感じたのは(人々の)大きな温かさと何らかのスピリチュアルなもの。素晴らしい思い出の残るターンベリーで再び素晴らし思い出を作ることができました」
つい最近、15年前の敗戦について改めて感想を聞いた。
悔しいのか、それとも2位に満足しているのか? するとワトソンは即座に「いまでも悔しい」と全英6勝目を逃した心境を打ち明けた。
59歳で全英に勝っていればそれは間違いなく奇跡だった。