いいパットを決めると、多くの選手が初日から大きなガッツポーズ。おそらくこの光景こそが、通常のトーナメントとは違う、いやメジャー大会とも違う、オリンピックなのでしょう。4年に一度、すべての選手が国を代表して戦う誇りと喜び、そして真剣さが、たくさん見られたガッツポーズに現れていた気がします。
そうしたなかで金メダルに輝いたのが、ニュージーランドのリディア・コー選手。リオ五輪の銀、東京五輪の銅に続く3個目のメダルが、念願の金になりました。彼女は大会中、米国の体操選手の「自分の結末は自分で決める」という言葉を胸に刻んで戦っていたそうです。リオで銀、東京で銅と2つのメダルを獲得した彼女が決めた結末が、これまで恋焦がれた金メダルであったとしたら、これほど感動的なドラマもありません。
今シーズンはコーチをかえ、開幕戦に優勝して臨んだパリ五輪でした。リディアというと12年、15歳でLPGAツアーにアマチュア優勝して以降、15年には史上最年少での世界ランキング1位、エビアンでのメジャー優勝、前述のオリンピックの成績など、輝かしい記録ばかりが注目されます。しかし、一時は世界ランク50位台まで落ち、若いながら苦しい時期も味わいました。今回の表彰台での涙には、単に念願の金メダルを獲得した喜びだけではなく、これまでのいろいろな思いが含まれていたのだと思います。
さて、メダルが目の前に見えていただけに、一番悔しい思いをしているのが山下美夢有選手かもしれません。それは、日本で応援していたファンの皆さんも同じでしょう。ただ、私は山下さんのショットの正確性、オリンピックでも普段通りのリズムでゴルフができるメンタル、さらには綿密で鋭いコースマネジメントと、世界に通用する高いゴルフ力を広く世界のゴルフ界に印象づけたと思っています。笹生優花選手の全米女子オープン2連覇、古江彩佳選手のエビアン優勝などに隠れてしまった印象こそありますが、今年の全米女子プロ選手権2位の記録は、それらに匹敵する快挙だと私は思っています。何よりこのオリンピックで、山下選手のゴルフが、そして日本のゴルフが、世界に通用する、いや世界をリードしているとアピールできたのではないでしょうか。「難しいコンディションになればなるほど戦い応えがある!」という発言には頼もしさを感じます。大会では4日間を通じ、難しいバック9でバーディを積み重ねたのも山下選手でした。惜しむらくは最終日の16番・パー3、池につかまったティーイングショットですが、しかし果敢にピンを攻めたことこそが山下選手のゴルフだと私は思います。
悔しい思いは笹生選手も同じでしょう。しかし、繰り返しますが、ともに世界に通用する、世界をリードする日本のゴルフの牽引者です。そんな思いで、今大会の悔しさを今後の自分のゴルフだけでなく、日本のゴルフにも生かしてほしいと思っています。
オリンピックを通じて、改めてゴルフの特徴や、その面白さを再発見した気がします。まず、ゴルフとほかの競技との圧倒的な違いは、その競技時間が長いということです。競技時間が長いことで、選手の心の揺れや動きが、またときにはこれまでのゴルフ人生、それを支えてくれた人々の姿を垣間見ることができる。これもまたゴルフの魅力なのではないでしょうか。
そんななかで、どうしてもお話ししておきたい選手がいます。それはコロンビア代表のマリアホ・ユリべ選手です。この大会を引退試合と決めていた34歳のママさん選手は、「4位以下では意味がない」とメダルを目指し、果敢に攻め続けました。メダルにこそ届きませんでしたが、最終日の最終ホール、ゴルフ人生の最終ホールをイーグルで決めるなんて、こんなにカッコいい人生があるでしょうか?
思わず私も「将来、全米シニア女子オープンに挑戦してみようか」と真剣に思ったものです。もっとも一人では心細いので、(上田)桃子を誘うつもりですが……。今回のオリンピックの解説は、私にとってもゴルフ人生で貴重な体験になりました。