「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか?その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。

「D0が振りやすい」はどこからきたのか?

GD 今日はクラブの「バランス」について伺いたいんですけど、バランスと言うと、昔から「バランスアップ」という鉛があったように、重りを加える、バランスを上げるしかなかった。

それが今はスクリュー型のウェイトが別売されるようになって増減ができるようになりました。重くする、軽くする、バランスって一体何なのかを改めて考えると、色々とわからないことが出てきます。

長谷部 まずUSモデルがバランスが重いというのは、なんとなく一般的に知られているところですけど、それはウッドだけじゃなくてアイアンにも言えます。ウェッジもD5、D6と非常に重たい。

以前、ウェッジの時に話した「日本人にD5、D6は重い」話をしたことがありますが、それは歴然とするパワーの違いで、「振り感とか振りやすさが違うので気をつけましょう」ということだったんですけど、いつの日からか、私がゴルフ業界に入った時からすでにそうだったんですけど、D0(Dゼロ)というのが振りやすさの基準として言われるようになっていて、当時のバランス計は12インチと、14インチの2つの種類があり、その後14インチに統一されて、日本用品協会が主導して基準機まで作り上げました。

なので、14インチのD0というのが業界では 1つの目安になってきました。ただ、この時のドライバーで言えばスチールシャフトの43インチが主流ではあったので、そこから長尺化し、素材もカーボンになり、軽量グリップまで出ました。いろんなことがクラブのスペックの中で変わったり、機能の考え方が変わってくる中で、果たしてそのままD0でいいんだろうかというのは常に疑問視されていましたね。

GD バランスは言い方変えると「スウィングウェイト」という言われ方もして、振った時に感じる重さととらえている人が多いと思うんですけど、それで合っていますか?

長谷部 それで合っています。これは国内メーカーにいた時の話ですけど、2003年の頃、新しくアマチュア向けのクラブを開発している際に、振りやすさってなんだろう? ということを研究開発してくれたチームがあって、その時に当時46~48グラムのグリップが主流だったところに40グラムの軽量グリップを入れ、ヘッドはそのままの重量にシャフトのバランスポイントを見直した組み合わせがありました。

クラブとしてのバランスがD5、D6に上がっても実は振りやすいという実験結果を導き出してくれたんです。すごく面白いチャレンジだったんですけど、いかんせん D0が振りやすいと一般的に言われている中で、クラブ総重量を軽くしたからといって D6バランスが振りやすいわけがないと販売店も含め、営業サイドも加わった中でいろんな議論をしましたが、却下されてしまったスペックだったんですよ。そういった意味では、なかなか”D0神話”を覆すことが難しい業界ではあったのは間違いないですね。

GD D0はある意味ゴルファーの中で神話化されていている数値ですけども、「D0が振りやすい」という明確な根拠は存在するんですか?

長谷部 存在しないと思います。根拠という意味で言うと、長さによってヘッド重量も12インチと14インチでは違っていたということもわかっています。それはなぜかというと、支点が違うので長いものは軽いヘッドでも重く出るし、短いものは軽く出ていました。

GD 14インチというのは固定されたグリップエンド(作用点)から支点までが14インチで、支点から先の長さが長くなればなるほど、軽くても重みを感じるってことですか?

長谷部 12インチ、14インチの違いに関わらずD0がいいっていうことではなくて、たまたまその当時基準値を作った時に、一般的に振りやすいのがD0だった、測ってみたらD0だったという後付けだと理解しておいたほうがいいと思います。

GD 時代的に言えば、ドライバーのシャフトはスチールで、長さは43インチですよね。

長谷部 そうですね。基準値が決められたのはその当時です。

GD 重さ的に言うと、まだ360グラム時代の話。

長谷部 それがシャフト素材が変わって一気に50グラムぐらい軽くなっていった時に、カーボンシャフトで言うと、スチールシャフトよりもバランスポイントが手元に行きやすいとか、全体的に総重量が変わってくる、ヘッド重量も変えなきゃいけない。

支点からの重量の関係性を考えるとヘッド重量はパーシモンより重くなっていますよね。

GD D0の出し方が違うんですね。

長谷部 ヘッド、シャフト、長さの違いからD0でも同じ感じとは言えないし、今は振りやすいという感じも変わってきていて、USモデルが日本に入ってきた当初は「D5、D6は重くて振れない」と言われていたのが、最近はなんとなく振れるように変わってきているため、D0神話の崩壊も近いのかな? と思います。

GD 現在のカーボンシャフトだと、ヘッド重量は195グラムぐらい?

長谷部 はい、45.5インチ前後でそれぐらいかと。

GD 元々USモデルがD5、D6あったものが、クラブの軽量化によってD0方向に傾いている?

長谷部 USモデル自体はそんなに変わってないと思いますが、D0を出すのに必要な重量は変わってきます。シャフトの軽量化が進めばヘッド重量は重くなっています。

GD そうなんですね。ヘッドが大きくなっても肉厚が薄くなっているからヘッド重量は軽くなっているイメージがありました。ヘッドの重さが、衝突エネルギーに影響する、しない、という話がありますが、実際のところ重いほうがインパクトのパワーは生むんじゃないですか?

長谷部 そこは物理的な計算上では絶対に重いほうが得です。

GD それと反発がありますよね。ここに反発を加味するとどうなるんですか?

長谷部 反発も単純に測るときはヘッドを固定しておいて小さいハンマーで叩くんですけど、その逆現象がインパクトなので、それも影響あると思います。重いほうがボールへのエネルギーは高くなります。

GD 今よりも飛ばしたいと思うんであれば、ウェイトを加えてバランスを上げて、ヘッドパワーを上げたほうが距離は伸びる?

長谷部 そうですね。でも、振り切れるかどうかは別問題です。振り切れることが大前提ですが。

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