1960年代から2000年代初頭まで、50年の長きに渡って躍動した杉原輝雄。小柄な体、ツアーでは最も飛ばない飛距離で、当時トーナメントの舞台としては最長の距離を誇る試合で勝ったこともある。2打目をいちばん先に打つのだが、そのフェアウェイウッドが他の選手のアイアンより正確だった。ジャンボ尾崎が唯一舌を巻いた選手で、「マムシの杉原」、「フェアウェイの運び屋」、「グリーンの魔術師」「ゴルフ界の首領(ドン)」と数々の異名をとったのも頷ける話だ。「小が大を喰う」杉原ゴルフ、その勝負哲学を、当時の「週刊ゴルフダイジェスト」トーナメント記者が聞いた、試合の折々に杉原が発した肉声を公開したい。現代にも通用する名箴言があると思う。
画像: 1978年関西プロ 優勝カップを持った表彰式での一枚

1978年関西プロ 優勝カップを持った表彰式での一枚

アイアンは打ちこむのが基本

ーー「アイアンいうんは、その機能からして上から打ちこまな、ボールは上がらんで。ウッドとは違うんや」

ゴルフのクラブいうんは、ウッドとアイアンその機能の違いで打ち方も違ってくるから厄介なんやね。

ドライバーはティーアップしてるんで、アッパーブローに打たなあかんし、フェアウェイウッドはどっちかいうと、払い打ちになるんです。

そしてアイアン。練習では5番アイアンを中心にするとよろしやろな、思います。真ん中のクラブをマスターすると、それが基準になるんで、番手が少のうなっても、多うなっても習得するのにムダができません。

さて、アイアンでの練習でいちばん気をつけることは何やろうか ? アイアンの機能というか、形状からして、“打ち込む”のが基本になっているんです。それを具現化するのがアドレスの体勢です。まず体重配分が大事です。ドライバーで右足7分、左足3分とするならアイアンは右足5.5分、左足4.5分といったとこでしょう。上から打ちこむ体勢をつくるためです。そしてクラブはややハンドファーストの形になります。アドレスした時、グリップの位置は左脚もものあたりになる、いうことです。当然ボールの位置いうんは右足寄りになります。これをグリップエンドがヘソを指すくらいに構えると、打ちこむでなしに、払い打ちの形になるんで要注意です。

あとヘッドフェースは目標に向ける時に間違いをされる方が多いんで、これも注意が必要やろ。というのも、目標に対してリーディングエッジを合わせる人が多いんです。それやと、ちょっとフェースを開いた形になってスライスが出やすい。正解はフェースのミゾを目標に合わせること。

「瀕死の猫が必死に生きようとする姿見てたら、ガンごときに負けてたまるかという気になりましたわ」

プロ生活50年の間にはさまざまの人と出会い、応援してくれる人も大勢いました。下積みの時に出会えた人とは今でもおつき合いさせてもらっています。用具用品メーカーも相手がノーと言わん限り、自分から契約を切ったことはありません。縁を大事にしたいからです。

この猫、ボクにとっては守護神ならぬ、守護猫でした。縁があったのでしょう。それ以来、我が家では町じゅうの野良猫、全部来いいうことで、朝、庭で餌をやるのがボクの日課になりました。

あれは前立腺ガンを告知されて間もない頃でした。近所で車に轢かれて息の絶え絶えになっている猫がいたんです。それで家に連れてきて、救急車呼んだら、ダメ、もたんと宣告されました。

それでもあきらめきれずに、近くの動物病院に連れていったら、何とか助かったんです。しかし、腹を押してやらんと、自分でうんこもできんし、後ろ脚を轢かれたために動く時には前足で引きずって歩くことしかできません。それでも少しでも前へ歩こうと一生懸命生きてる。この生命力を目の当たりにすると、猫でさえ、こんなに懸命に生きてるやないか、ガンなんかに負けてたまるかと思ったんです。

これは後で聞いて知ったのですが、ちょうどその頃、PSAマーカー値が上がって医者から嫁さんには強く手術をすすめられていたんですよ。しかし、その猫をみていて、手術は断じてすまい、抗男性ホルモンを投与しながら現役を続けようと思ったわけです。

もし猫がいなかったら、手術を受けていたかも分りません。そしたら、今頃現役は続けていられなかったでしょうね。

文/古川正則(ゴルフダイジェスト特別編集委員)

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