大会3日目、日没サスペンデッド時には2位と2打差の単独トップに立っていた中野麟太朗(JGAナショナルチーム・早稲田大)。日本人4人目の優勝が目前に迫っていたが、第3、第4ラウンドと合わせて31ホールを回った最終日に世界アマランク5位(大会中に4位から5位に)のウェニー・ディン(中国)に抜かれ、惜しくも3位に終わった。

安定しなかった第3ラウンド

前日の囲み取材で「5番グリーンで、嫌な距離のパーパットが残ってしまった」と言っていたように、再開後のパットをカップに蹴られ、ボギースタート。続く、距離の長いパー4の6番はフェアウェイから打ったセカンドがグリーン奥のラフに。58度で狙ったサードショットが思ったより手前のファーストカットに落ち、ランが出ず、5番同様に嫌な距離のパーパットが残る。これを外し、ボギー。2打差あったアドバンテージが再開2ホールで消えてしまう。ラウンド後の取材では「この連続ボギーで焦ってしまった」と話す。

画像: 再開した5番でボギーパットを沈める中野

再開した5番でボギーパットを沈める中野

8番(パー4)で中野がバーディを奪い、1打リードするも、9番(パー4)、10番(パー4)をバーディとしたディンに逆転される。続く11番(パー4)、中野もディンもグリーン周りのラフからのサードショットを同じようなミスをするも、パーでしのいだディンに対し、ショートした中野がボギーで2打差に広がる。

気持ちを切り替えたい12番(パー4)で中野にトラブルが襲う。

ティーショットを左ラフに入れた中野。連日の悪天候で深くボールが沈んでしまい、競技委員を呼び、適正な処置を行うも、深いラフからのショットはクラブの入る余地がなく、芝の抵抗で打ち出しが左に。ボールは木に当たり、無情にも11番との間にある林の中に。出すだけとなったサードショットはフェアウェイまで出ず、ラフからの4打目はボギーで押さえたい気持ちから力が入ったか、それとも芝がフェース面とボールに挟まったフライヤーかは定かではないが、ピンそばに着弾し、グリーン奥へ。チップインを狙ったアプローチはもうひと転がり足らずダブルボギーに。このホール、パーとしたディンとは4打差に。

続く、パー3の13番では、中野が意地を見せバーディとし、3打差。14番(パー4)はともにパー、15番(パー4)はともにバーディ、16番(パー4)、17番はともにパーと、差は縮まらない。

第3ラウンドの最終ホールは、池のプレッシャーに勝てればイーグルも狙える18番(パー5)。ティーショットで中野もディンも同じ左バンカーに入れるも、より左のディンは木が邪魔で池の手前にレイアップ。対する中野は2UTで果敢にグリーンを狙い、ピン手前1~2ピンにみごと2オンに成功し、イーグルチャンスにつけるも、ファーストパットは決め切れずバーディ。パーだったディンと2打差で最終ラウンドに向かう。

画像: 18番のセカンド地点。バンカー内で左にあるボールがディン、右にあるのが中野

18番のセカンド地点。バンカー内で左にあるボールがディン、右にあるのが中野

後半、猛追した最終ラウンド

第3ラウンドと組み合わせの変更はなく、ホールアウト後、約40分後の10時39分に1番(パー4)からスタート。2番(パー4)で中野が3パットのボギー、3番(パー5)でディンが2オンに成功し、バーディと出だしの3ホールで4打差に。

画像: 3番、ティーショットで左に曲げるミスをした中野(撮影/小林司)

3番、ティーショットで左に曲げるミスをした中野(撮影/小林司)

4番(パー3)、5番(パー4)をともにパーで迎えた6番で両者の明暗がわかれる。

ティーショットで想定よりも大きく右に打ち出したディン。対してフィニッシュ前に手を離した中野は左のラフに。誰もが右の林にあると思ったディンのボールは林をきれいに抜け、5番と6番の間にあるカートパスを5番側に越えたところまで到達。そこからのグリーンを狙ったセカンドはややオーバーしたものの、寄せワンでパー。左ラフからのセカンドをグリーン左バンカーに入れた中野はバンカーから寄せきれずボギー。5打差に。

「ティーショットがダメで、トップの選手と一緒にやっているのに、そうやって自分が簡単に落とすと相手が楽になる。課題のひとつです」

両者、7番(パー3)と8番をパー。9番はティーショットを右のラフに入れたディンとフェアウェイ右サイドに置いた中野。セカンドをディンはショートしグリーン手前の花道、中野はピン奥へ2オン。難しいアプローチが残ったディンが花道からチップインバーディを決め、2パットのパーとした中野との差が6打まで広がり、中野にとって厳しい展開に。

10番をともにバーディとした11番。ディンにトラブルが発生する。

画像: 11番、右の林からナイスアウトするディン

11番、右の林からナイスアウトするディン

ティーショットをする際に、ギャラリーが集まる方向から音が聞こえ、大きく右の林へ。そこからフェアウェイに出すだけのセカンドを経て、3オン2パットのボギー。対する中野はフェアウェイセンターからのセカンドでかなり長いバーディパットを残したが、「今回のキャディさんは、御殿場コースで何度か練習させてもらったなかで付いていただいたことのある方でした。今週、練習ラウンド時に担当してくださることがわかって、本当にラッキーだと思いました。ラインの読みが的確ですし、アドバイスも端的でわかりやすい。彼女でなければこの順位にはいなかったと思います」と中野が話すキャディさんの的確なライン読みでバーディ。一気に4打差に。

画像: ピンを持つのが、中野が「彼女のおかげでこの順位であがれました」と話すキャディさん

ピンを持つのが、中野が「彼女のおかげでこの順位であがれました」と話すキャディさん

同日午前にダブルボギーを叩いた12番。今度はしっかりとティーショットはフェアウェイをとらえ、セカンドでピンハイ1ピンまで持っていき、みごと3連続バーディ。2オン、2パットのディンと3打差に。

13番、14番はともにパー。向かえた15番は303ヤードとワンオンが可能なホール。中野とディンは果敢に狙うも、中野がグリーン右奥のラフ。ディンは砲台グリーンに弾かれグリーン横の左下に。15番は2段グリーンで最終ラウンドのピン位置は下の段。木が邪魔になるディンも難しいが、中野もしっかり転がらないと上の段からの難しいパッティングが残り得る。左下から打ったディンはみごとにグリーンに乗せ、2パットのパー。一方、番手に悩んだ中野は54度を選択。第3ラウンドの6番と違い、しっかりグリーンに落とし、また54度とロフトが立っているクラブを選択したおかげでしっかりランも出てOKの位置まで持ってきてバーディ。2打差にまで詰め寄る。18番がイーグルを狙えるだけに、16番、17番で1打差まで詰め寄れば逆転優勝も、というギャラリーの期待感がひしひしと伝わってくる。

画像: 15番のトラブルもパーであがるディン(撮影/小林司)

15番のトラブルもパーであがるディン(撮影/小林司)

16番はともにパーとしたものの、17番でディンが最高のショットをみせ、バーディを奪い、3打差となり、万事休す。

最終18番、アルバトロスでなければ追いつけないが、2オンが可能なホールだけに不可能ではなく、諦めていない中野はドライバーを振り切り、残り約220ヤード地点の下り傾斜のラフまで持ってくる。ライン出しのように低い球で打ったアイアンショットはピンと同じ面までいったが、無情にも入ることなく、ピン左サイドに。対するディンはレイアップしたサードショットがグリーン奥ギリギリに。2ラウンド目からここまで、3パットが一度もないディンがボギーとなる可能性は限りなく低いが、それでもイーグルパットを沈めてディンにプレッシャーを掛けたい中野だったが、惜しくも入らずバーディで終戦。ディンは危なげなく2パットのパーとし、長い二人のデッドヒートに幕が下りた。

画像: 最終18番のセカンドショット。」スティンガーのような低空弾道で打ち出され、少しホップするような軌道でグリーンをとらえた(撮影/小林司)

最終18番のセカンドショット。」スティンガーのような低空弾道で打ち出され、少しホップするような軌道でグリーンをとらえた(撮影/小林司)

「優勝したウェニー選手との技術的な差はそれほど感じてはいませんが、世界アマランク4位に位置するということは、大きな大会に勝ってきているということ。その経験の差が出てしまったのかもしれません」とは中野の言葉だが、2日目から中野とディンの全ストロークを見てきた筆者も同じように感じる。ディンの3パットを一度も見ていないどころか、2日目以降のボギーは最終ラウンドでアンラッキーな11番のみ。それがなければもう1打は伸びていたのは確実だ。とはいえ、「たられば」を言っても仕方ないが、何度も中野のパッティングがカップに蹴られているのも見ているだけに、それが決まっていればディンと同じスコアが出ていたのも事実だ。

画像: 中野のボール位置は写真右下にあるティーペグの位置。飛距離はまったく変わらない二人(撮影/小林司)

中野のボール位置は写真右下にあるティーペグの位置。飛距離はまったく変わらない二人(撮影/小林司)

最後に「最終ラウンドの10番あたりから顔つきが変わったように見え、それ以降3連続バーディを含む猛攻になった。何かスイッチみたいなものはあったのか?」と聞くと、「顔つきが変わって見えたのは、たぶん気持ちが入ったからだと思います。ウェニー選手の9番のチップインで『あれが入るのか!?』って。そこでより一層負けたくない気持ちが強くなり、『まだまだここから。やってやる!』となったので。追い込まれないとダメなタイプなので、そこは課題ですね」とのこと。

画像: 最終ラウンドの後半、顔つきが変わり、眼光が鋭くなっている(撮影/小林司)

最終ラウンドの後半、顔つきが変わり、眼光が鋭くなっている(撮影/小林司)

たしかに追い込まれなければ実力が発揮できないというのでは困るが、感情をボールに乗せたプレーはギャラリーを魅了する。また、優勝したディンは中野のことを、「落ち着いてプレーできる良い選手だと思います。プレー中に苛立つこともありますが、彼は自分をコントロールするのが上手いと思います」と評価している。また、応援に駆け付けていた早稲田大学ゴルフ部の斉野恵康監督は「中野のターニングポイントとなる大会だったと思います。ポテンシャルは贔屓目なしに優勝したディン選手とそん色ない。ディン選手のようにトラブルになっても冷静に対処して、残念なボギーやダボをなくしていくことが次へのステップだと思います。情熱を持ってプレーすることで観客を魅了し、冷静さを保って不必要なボギー、ダボをなくしてスコアをまとめる全ホールバーディを狙えるポテンシャルを彼は持っていると思っていますし、それに向かって指導していきたいですね」と話す。

今回はアマチュアの試合にも関わらず、最終ラウンドでは中野に付いて回るギャラリーが多くいて、お手製の中野の名前入りのタオルマフラーを持参する人も。この試合でのマスターズ出場は叶わなかったが、今後の日本ゴルフ界を盛り上げてくれる選手というのは間違いなく、今後の活躍に期待したい。

まずは、今週10日~13日の日程で、東京ゴルフ倶楽部で開催される日本オープンに出場するので、お近くの方は足を運ばれて、トッププロと一緒に期待のアマチュアを観戦するのはいかがだろうか?

日本人選手10人の最終成績

3位/10アンダー/中野麟太朗(ナショナルチーム・早稲田大)
4位/9アンダー/丸尾怜央(日章学園高)
5位T/7アンダー/隅内雅人(日本大)
7位/5アンダー/小林翔音(日本大)
8位T/4アンダー/福住修(専修大)
19位T/1オーバー/本大志(ナショナルチーム・アリゾナ大)
24位T/2オーバー/松井琳空海(四国学院大学香川西高)
30位T/4オーバー/古瀬幸一郎(東北福祉大)
43位/9オーバー/佐藤快斗(ナショナルチーム・東北福祉大)
56位T/17オーバー/豊島豊

優勝者は中国のウェニー・ディン!

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