今年もラウンドリポーターとして誰よりも近くで国内男子ツアーを見てきた佐藤信人プロ。男子ツアーにとって「今シーズンは大きな転換期だった」って言うけれど……詳しく総括してもらった。

数年後に今シーズンを振り返ったとき、「2024年が転換期だった」というシーズンだったかもしれません。名前を付けるなら「日本人選手の海外進出元年」ですかね。国内男子ツアーの振り返りなのに、いきなり海外の話をするんですが、ちゃんとつながるのでちょっとだけ脱線させてください。

今年は海外ツアーで日本人選手が大いに活躍しました。「海外の日本人と言えば松山英樹。他は……」という時代が数年続いていましたが、昨年フランスオープン(欧州男子)で優勝した久常涼がPGAツアーにフル参戦。最終戦のウインダム選手権で自己最高の3位に入り、2024-25年シーズンのシードを確定させました。

画像: 左が久常涼、右が松山英樹(Photos/Blue Sky Photos)

左が久常涼、右が松山英樹(Photos/Blue Sky Photos)

他にも欧州ツアーでは星野陸也がコマーシャルバンク・カタールマスターズで、中島啓太がヒーローインディアンオープンで優勝。アジアンツアーでは幡地隆寛や平田憲聖も勝っています。さらに米下部ツアーでは大西魁斗もUNCヘルス選手権で優勝し、PGAツアーの出場権を獲得しました。

これまでも海外ツアーに挑戦する日本人はいましたが、これほど多くの選手が同じ時期に国外ツアーで優勝するのは記憶にありません。

いずれの選手も20代中盤からアラサーくらいの世代。そして直近まで国内ツアーにも出場していた、もしくは現在進行形で参戦しています。彼らの活躍を見た同じフィールドで戦っている選手、または同世代の選手に大いに刺激になったことは想像に難くありません。

画像: 男子ツアーを牽引した若手選手たち。左から星野陸也、中島啓太、大西魁斗、幡地隆寛、平田憲聖(PHOTO/Hiroyuki Okazawa,Tadashi Anezaki)

男子ツアーを牽引した若手選手たち。左から星野陸也、中島啓太、大西魁斗、幡地隆寛、平田憲聖(PHOTO/Hiroyuki Okazawa,Tadashi Anezaki)

そしてその世代の中心選手が賞金王を獲得した金谷拓実です。開幕戦の東建ホームメイトカップを制した後、10月のACNチャンピオンシップまで優勝がなく結局年間勝利数はこの2勝にとどまりましたが、参戦した国内ツアー19戦で予選落ちはわずかに1回。

ツアーにフル参戦をしているとシーズン中に数回は不調期があるものですが、そこで予選落ちをせずスコアをまとめられるのが彼の強みです。来年はPGAツアーに参戦。試合数や移動距離が増えて体力、精神面の負担は増えますが、今年のように不調時に踏ん張る安定した成績を期待したいです。

画像: 2024年賞金王の金谷拓実(PHOTO/Hiroyuki Okazawa)

2024年賞金王の金谷拓実(PHOTO/Hiroyuki Okazawa)

対照的なシーズンだったのは賞金ランク2位の平田憲聖。7月のセガサミーカップから9月のパナソニックオープンまでの約2カ月間で4勝(国内3勝)を挙げ夏場に強さをみせました。調子が良いときに勝ち切る力はさすがだと思います。パーを重ねてじっと耐えるのが得意なタイプで、今年になってさらに飛距離も出るようになり、アグレッシブさも出てきました。

来季、コーンフェリーツアーへの参戦を表明していますが、飛距離が圧倒的に有利になるツアーといわれているため、そこを追い求めるのは必然ですが、長所である堅実性を失わないことがとても大切だと思います。

安定感という点で着目したいのが存在感を見せたのがベテランの岩田寛(賞金ランク4位)と石川遼(同7位)の2人です。

44歳の岩田は3試合の棄権があったものの、今年も怪我なく最後まで完走。40歳を超えるくらいになると、例えば私生活や物事の考え方の変化によってゴルフへの影響が出てくるものですが、彼に関してはいい意味で若い頃と変わりません。自分の特性をよく把握できているので、いつでも飄々とプレーができるのだと思います。今年のようにモチベーションさえ維持ができれば、まだまだ長く活躍してくれるのではないかと思っています。

画像: ベテラン勢として2024年も活躍した、左が岩田寛、右が石川遼(PHOTO/Hiroyuki Okazawa,Tadashi Anezaki )

ベテラン勢として2024年も活躍した、左が岩田寛、右が石川遼(PHOTO/Hiroyuki Okazawa,Tadashi Anezaki )

石川遼は年齢的にはまだ33歳ですが、プロとしてのキャリアでいえばもうベテランと言っていいでしょう。今シーズンは2勝、メジャーのツアー選手権では2位、ホストプロのカシオワールドでも4位タイと存在感を見せました。彼のストロングポイントは何といってもショートゲームです。その基礎があるからシーズン中でもドライバーのスウィング改造のような「大工事」を行うことができる。

今シーズンに関しては大きな変更はなく、それが安定した結果につながったのだと思います。じゃあ「スウィング改造なんてしなければいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、その向上心や探求心こそが石川の選手としてのアイデンティティや魅力でもあります。今年に関してもおそらく安定志向になったということではなく、大きな変更はしないという選択の結果、成績が安定したということでしょう。オフシーズンを含め来季はどのように戦うのか注目です。

その他にも、未勝利ですが清水大成(賞金ランク8位)や金子駆大(同14位)といった自力ある選手がランキングの上位に入り込んできました。清水は2度の最終日・最終組を経験しながら勝ち切れませんでした。ただその経験は来シーズン以降に必ずいきてきます。

金子もフル参戦1年目だった昨シーズンでツアーの勝手を知り、「2年目の今シーズンで初優勝を」と思っていたはずです。トップ10の回数は昨シーズンが1回だったのに対し、今シーズンは7回と大きくジャンプアップ。そして海外で活躍する久常とは同い年です。ストイックな性分ですので、自分に足りなかったものを見つけもう1段のレベルアップに期待をしたいと思います。

画像: 未勝利ながらも確実に実力を伸ばした、左・清水大成、右・金子駆大(PHOTO/Hiroyuki Okazawa,Shinji Osawa)

未勝利ながらも確実に実力を伸ばした、左・清水大成、右・金子駆大(PHOTO/Hiroyuki Okazawa,Shinji Osawa)

私の世代は丸山茂樹がPGAツアーで活躍をしましたが、どこかに「彼は特別」という意識がありました。でも、今の選手はこれだけたくさんの同世代が海外で成績を残しているので「オレだっていけるだろう!」という気持ちになっている。来シーズンは賞金ランク1位だった金谷と2位の平田が海外挑戦で抜けるので、「枠」という意味でも実際にチャンスが広がります。

今シーズンは選手のマインド変えたという点で、男子ツアーがより高みを目指していく意味のあるシーズンだったのではないでしょうか。

次は2025年国内男子ツアーの”展望”についてお話ししたいと思います。

国内男子ツアーをプレーバック

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