ツアー解説でおなじみの佐藤信人プロ。今回は、24年のPGAツアーのフォールシリーズ第7戦のバミューダ選手権で優勝した、プエルトリコの36歳、ラファエル・カンポスについて語ってもらった。
画像: 「オーソドックスで綺麗なスウィング。飛距離もよく出る。コーンフェリーで勝ったバハマも今回優勝したバミューダ諸島も強い風が吹き荒れたが、プエルトリコ育ちだけあって風の中でのボールコントロールはさすがです」と佐藤プロ(PHOTO/Getty Images)

「オーソドックスで綺麗なスウィング。飛距離もよく出る。コーンフェリーで勝ったバハマも今回優勝したバミューダ諸島も強い風が吹き荒れたが、プエルトリコ育ちだけあって風の中でのボールコントロールはさすがです」と佐藤プロ(PHOTO/Getty Images)

プエルトリコ出身選手の優勝は、昨年8月に亡くなったチチ・ロドリゲス以来、2人目の快挙でした。カンポスは東京、パリと2大会連続で五輪にも出場しており、国の期待を一身に集める選手と言えますが、自分自身への期待はそんなに大きなものではないようで、優勝を決めたときの小さなガッツポーズは、「優勝なんて信じられない。本当に喜んでいいの」と戸惑っているかのようでした。

23年のコーンフェリーツアーでシードギリギリの30位となり24年にPGAツアーに昇格。25試合に出場するも、予選通過はわずかに8試合。パリ五輪を挟んで8月のウィンダムまで9試合連続予選落ち。フェデックスランク148位でフォールシリーズに入り、初戦のプロコア選手権では予選通過を果たしますが、その後4試合連続で予選落ち、残るは2試合という状況で、自身もまさかの優勝を果たしたのです。

コーンフェリー30位で昇格した選手がシードを獲得するのは極めて難しく、まして優勝となると夢のまた夢。仲間からシャンパンをかけられ始めてようやく喜んでいいんだという雰囲気になったように見えました。残り2試合となった時点で、かなりの確率でQスクールに進み、25年のコーンフェリー行きも濃厚だった彼に一体何が起きたのか。

ここに隠されたドラマがあるのが、PGAツアーの面白いところです。

バミューダ選手権が行われる週の月曜日、第1子の娘さんが誕生します。試合に出ないという状況にないカンポス家にとって、陣痛促進剤による計画分娩で月曜日に出産。妻と子の水曜日の退院を待って移動します。会場は北大西洋に浮かぶバミューダ諸島。気軽に行ける場所ではなく、強風のため飛行機が予定通りに飛ぶことも珍しいとか。

コース入りは初日当日の朝でしたが、飛行機が運よくスケジュール通り飛んでくれて着いたのはスタートの1時間半前。初日は40位と出遅れますが、2日目目、9バーディノーボギーの62を叩き出して首位に浮上します。

ラウンド後、「来年の職が欲しいと、この6カ月ストレスだった。でも子どもが生まれ、仮に仕事を失っても妻と子どもが同じように待っていてくれる。今週、それがわかった」と涙ぐみました。

最終日は強風が吹き荒れるなか、9番で3パット、14番で"お先"を外すなどバタバタのゴルフ。当人はコーンフェリーのバハマで勝った試合……9番で並ばれるもその後良いショットを打つことに集中して勝利した……と同様、「今回もスコアのことは考えずに、バックナインに入ったらリーダーボードは18番グリーンまで全く見ずに集中してプレーすることができた」と。

初日の木曜日に風が吹かずに飛行機が飛んだのも神の粋なプレゼントか。これで2年間の仕事が確保され、マスターズの出場権も手に。年明けのザ・セントリー(マウイ島)からスタートし、夢のようなスケジュールになりました。

※週刊ゴルフダイジェスト2025年1月28日号「さとうの目」より

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