▶【第1話】「殴られたら上手くなるんですか?」はこちら
▶【第2話】「学校に行ったらダメですか?」はこちら
▶【第3話】「ボギーを打ったらダメですか?」はこちら

小斉平優和
26歳。小学校から全国優勝を経験し高校卒業後プロ入り。シード権を失った時期もあるが、2025年はシード選手としてレギュラーツアーに参戦予定。

金子駆大
22歳。小学時代から全国で名をとどろかせる存在で高校卒業後プロ入り。2024年に初シード選手としてレギュラーツアーに参戦、トップ10入り6回。2025年のシード権も獲得した。
聞き手/ゴルフダイジェスト・ヤマダ
ジュニア担当として全国の選手と親御さんに取材を続ける。自身も8歳から競技ゴルフをしてきた元ジュニアゴルファーで1児の父。
練習場で警察に通報されそうになった
ヤマダ: ボギーの数に応じて殴られたり、異常な距離を走らされるという話をうかがいました。ミスは必ず起こるスポーツですし、さらにミスを暴力によってなくそうとするのはどうかと思いました。
金子: 試合では、ミスを見られてない部分もあるのでまだいいですが、練習は本当にキツかったですね。
ヤマダ: それは、長時間だからということですか?
金子: 練習時間が長いのは慣れっこだったので、特にキツイと思ったことはありません。練習場だと父親が打席の後ろに座ってるんですけど、ミスショットが出るたびにボールが飛んでくるんですよ。
ヤマダ: どういうことですか?
金子: 自分めがけてボールをぶつけてくるんです。

金子駆大
ヤマダ: 一般のお客さんもいますよね。
金子: はい、でもやる。ボールだけじゃなく、グリップ側で頭を叩かれたり。
小斉平: やられたわ。あれメチャクチャ痛いよね。ゴムなのに全然やわらかくないから。
金子: あまりにひどいときは、周りの人に「警察呼ぶぞ!」って言われたこともありました。
小斉平: オレも同じような感じなので、練習のプレッシャーは相当ありました。
金子: 肯定はしたくないけど、練習で異常な緊張感を出されてたから、試合でプレッシャー感じなかったですもん。
ヤマダ: もしかしたら、「試合と同等の状況で練習をする」という意図があったのかもしれませんが……。
小斉平: 練習で圧をかけるっていうのは、大なり小なりみんなやれてたんじゃないですかね。びびってスイングがおかしくなっちゃった子もいたので。駆大の振り切ったフィニッシュも見たことなかったもん。
金子: マジで?(笑)。
小斉平: ドライバー振っても、ハーフショットみたいな感じのフィニッシュだったもんね。プロになって、いまやっと振り切れてるって感じだよね(笑)。

ランチを食べながらインタビューに答える小斉平優和(左)と金子駆大(右)
ヤマダ: よっぽど曲げたくなかったというか、ミスが怖くて振り切れなかったんですかね。
金子: OBは嫌だから、ライン出しみたいなフィニッシュになってたのかもしれません。暴力によって練習の緊張感を作り出したとしても、それって意味がないと思うんです。プロになったらその緊張感を作り出すことは、自分でやらなきゃいけないですから。誰かに強いられているうちは、一人立ちができない。
無意味な嘘を言わないと……
――ミスをすると暴力を受けるプレッシャーによって、一瞬はできるようになることもあるが、それは「本当に身についた能力」とは言いがたいのではないだろうか。親側の理屈は、手を上げた直後に良いショットが出たら「もしまたミスしても、同じよう鉄拳をくわえればいい」と、考えてしまうのかもしれない。そういった考えの親が集うと、より危険な考えが膨張していくのは必然的なことである。
小斉平: この取材を受けることを決めて思い出したんですけど、ボクの父親が声をかけてやっていた合宿があったんですよ。
金子: あった! あの合宿、本当に嫌だったわ。
ヤマダ: 詳しく教えてもらえますか。
小斉平: 中学の冬休みだったかな。高知県のコースで10人くらい集まって4泊5日でやるんです。
金子: ボクは小学生でした。女子もいましたがもみんなボコボコ。
小斉平: ゴルフ場で親が子どもを追いかけ回してましたから、ゴルフ場はすごいことになってました。
ヤマダ: 合宿というと、環境が変わることで気分が変わり上達するキッカケになったり、仲間との交流があったりと、練習は大変でも楽しみもあるかと思います。
金子: そういう記憶はないですね。覚えているのは、とにかく走らされたこと。
小斉平: オレはいつもだったから。
金子: 優和くんがいつも異常な距離を走らされていて、それで結果が出ているもんだから他の親も「じゃあウチも走らせればいいか」となったのかもしれません。
小斉平: オレのせいか(笑)。
金子: 冗談半分でそう言っていた子もいたよ。
小斉平: やめてほしいわ。

小斉平優和
ヤマダ: 結果が出たのは、親の支援もあったうえで、主役である選手自身が努力をしたからだと思います。でも、殴ったり異次元な罰走によって、いい成績を収められたわけではないと思いますが。
金子: 表面的な部分しか見ることができないんですよ、きっと。みんな性格とか体力とか食べるものだって違うのに、殴って上手くいってる家庭もあるというだけでウチもやる、みたい考え方は本当に狂っていると思います。
――ミスに不寛容になり目の前の成績を追い求めるあまり、暴力や恐怖によって思い通りの結果を出そうとする親。それは、やられた選手たちの言う通り狂気と言っていいだろう。
次回、2人のゴルフに対する想い、そしてジュニア選手の親に向けたメッセージを話してもらった。
※この記事は、週刊ゴルフダイジェストで連載中の「ありがとうの闇」を再構成したものです。