それぞれの取り組み方
日本障害者ゴルフ協会(DGA)の「コースデビュー&レッスン会」の第2回目が新君津ベルグリーンCCで開催されました。まずは練習場でのレッスン。外の空気を吸いながら伸び伸び打てることはやはり楽しい。皆さん、3人のコーチの教えを真剣に聞いて取り組んでいました。やはり、しっかり話を聞いて自分で考え、忠実にやってみる姿勢が上達につながるようです。

参加者の皆さん
さて今回も、コースに”一歩”を踏み出した障害者ゴルファーが2人いました。インドア練習場のレッスン会には参加していたものの、なかなかゴルフ場に来るまでには至っていなかった2人です。
右片麻痺ゴルファーの小原英隆さんは、2011年に障害を得てから14年ぶりのラウンド。しかし、スタートホールとなったパー3でいきなりワンオンしてスタートしました。その後も200Yドライブなどナイスショットを見せてくれた小原さん。「今日はたまたまです」と控えめながら、「またやりたいと思います」と笑顔でコースを後にしました。

左片手でも、大きなアークで飛ばす小原さん。練習場でも1球1球、真剣に取り組む姿が印象的でした
動画を撮影しながらコーチしていた小林茂は、「いいよ、いいよ!」と褒めながら楽しくレッスン。小原さんには、「グリップの端のほうにテーピングを巻いて太くすると振りやすいかもしれない」と道具に関するアドバイスも交えて教えていました。

以前より日本障害者オープン、月例会などを開催している新君津ベルグリーンCC。障害者への理解は、練習を見守る中島繁総支配人の優しい眼差しに表れています
車椅子ゴルファーの若原佑貴さんは、コースに出ることが初めてなのはもちろん、ゴルフ用の車椅子に乗ることも初めて。DGAが所有しているちょっぴり年季が入った車椅子の運転は、最初は不安定だったけれど、少しずつ自分のものにしてコースを走っていました。プレーでも、クラブにしっかりヒットし、球も上がるように。「楽しかった。当たりました。また!」と颯爽と去っていきました。
若原さんのボール位置を調整しながらコーチしていた吉田隼人は、「練習場のときより振れているからボールも飛んでいました。広々としていて目の前に誰もいなくて伸び伸びと打てる。すごく楽しかったみたいなので、僕も嬉しいです」

初ラウンドにして、しっかりヒットさせていた若原さん。車椅子の運転にも慣れて帰り道はスムーズに
それぞれに障害を持つコーチ陣
改めて、今回コーチを務めた障害者プロゴルファーの話を少々ご紹介しましょう。
吉田隼人(右大腿切断)は、「コースに出る楽しみを知ってもらうことが僕らも楽しみ。その人のできることできないことを把握しながら、その人のなかでの気持ちよく振れるポイントを探して教えるのが上達の近道。本人に聞きながら、2人でスウィングを作っていくほうが面白いと思います。そのなかでいつもより距離が伸びたとか、いつもより当たりがよくなったということが喜びにつながるので、僕はそこを意識していますね」。

片麻痺ゴルファーの方にも“体を使って振る”ことの大事さを教える吉田。「右ひじを曲げて上げるのではなく、目線より手が隠れるくらい後ろに上げると、体の回転でクラブを持ってくることができます」
小山田雅人(右前腕切断)は、「障害者の方たちって、なかなか人に聞けない。やっと聞いたとしても、健常者の人たちには理解できないことも多いんです。たとえば片麻痺の方。僕は今日、右手と左手、それぞれの方を教えましたが、教え方はまったく違います。軸は、両手がある方には背骨だと言いますけど、左手の人は左の肩甲骨のあたり、右の人は右の肩甲骨のあたりになりますし、だからボールの位置もそれによって変わるんです」

左手だけを使う片麻痺ゴルファーにパターレッスンする小山田。「ヘッドをブラさないため、親指と人差し指でぎゅっと握る。また、ヘッドを真っすぐ引くためには、ヘッドを意識するのではなく、右目の端や右の耳に引くようにする。ストロークもゆっくりになりすぎません」
小林茂(左下肢障害)は、「まず一歩を出してもらうことが大事ですし、長く続けられるように教えたい。僕は体のどこが動くかを見て、たとえば左手しかなければ、左しか動かないんだから、それに対してボールの位置はこっちにするとか、足がなければ、あるほうの足に重心をかけないといけないから、そっちを重心にして、ボールの当たりやすい位置を見つけてあげる。僕のポリシーは、けなして、やらせて、ほめる、かな(笑)」

「ボールの位置は、下手ほど遠い」と言う小林のテッパンアプローチ。「クラブは開き気味にしバウンスを使う。左かかと線上にボールを置き、右の足を少し出して20度左を向き、インサイドアウトに振る。ヘッドが低く入ってくるとソールを滑らす感じがわかるでしょう」
障害者ゴルファーに教える工夫、障害者ゴルファーが教わる工夫に、すべてのゴルファーが上達するためのヒントも隠れている気がするのです。
DGAでは、インドア練習会や月例ラウンドも企画しているので、教わりたい皆さん、ぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。
写真提供/日本障害者ゴルフ協会(DGA)