
左がベン
欧州障害者ゴルフ協会(EDGA)ベン・エヴァンス氏
ゴルフはもっともインクルーシブなゲームのひとつ
障害を持つゴルファーの精神に導かれて、このゲームにおけるインクルージョン(社会において多様な人が尊重されながら共存していく状態)は拡大しつつあり、スポーツ全体に素晴らしい機会を生み出している。
「私が初めてゴルフをしたのは30歳のときでした。スコアは126。爽快な経験で、ラウンドを完全に楽しむことができました。最初のラウンドで打ったショットのことは一生忘れないでしょう......障害のことは考えず、自分に何が“できるか”を考えるだけです」
そう語るのは、川崎の吉田隼人(世界障害者ゴルフランキングの日本人トップ)だ。彼は20代の頃、バイクで大事故に遭い、その場で右足が砕け、もぎ取られそうになった。一命をとりとめるため、自分の手で出血を止めざるを得なかった。しかし、隼人は絶望するのではなく、その日を天から与えられたものだと考えるようになった――彼の前向きな精神は、彼のゴルフ人生が幸せなものになることを約束してくれ、決して後ろ向きになることはなかった。

日本の障害者ゴルフをけん引する2人のプロ、小山田雅人(右前腕切断)と吉田隼人(右大腿切断・写真)。EDGAのカメラマンも彼らを追い続けている
もう一人の日本人選手、小山田雅人は、幼少期の事故で片腕が不自由なまま育ったが、スクラッチゴルファーとなり、38歳で脳腫瘍の手術をしなければならなかったが、その後、2013年にPGA(日本)のティーチングプロになった。
雅人は語る。
「ゴルフは、年齢や性別、体の障害に関係なく、皆で一緒に楽しめる唯一のスポーツだと思います。私は右手を失っただけでなく、命に関わる病気をしたこともありますが、そのような体の状態でもゴルフはできます。ゴルフは、人生のさまざまな障害による苦難や挫折を乗り越えるため、私を助けてくれるものなのです」

小山田雅人(右前腕切断)
ゴルフというゲームにおいて、怪我や持病があるプレーヤーに、不必要な障壁を設ける必要があるのだろうか。彼らは目標に向かってボールを打つという経験により、大いに励まされているのではないか。
ゴルフは、身体障害、神経障害、知覚障害、知的障害を持つ人々にとって、最もインクルーシブなゲームのひとつになり得るし、なりつつある。
ゴルフで数ホールプレーすることは素晴らしい運動である。360度の自然と新鮮な空気に包まれ、笑顔にしてくれる友人たちとプレーし、外の問題から心を解き放ち、また、昨日のスコアよりもよいスコアを求めて、すっかり心が夢中になるのだ。

欧州障害者ゴルフ協会のポスター。「なぜ、ゴルフをするのか?」。改めて、すべてのゴルファーが考えてみたい問いだ
ゴルフの健康増進効果には、長寿、心血管系、呼吸器系、代謝系のプロファイルの改善、筋力とバランス感覚の向上、精神的健康の増進などがある(世界ゴルフ財団の「ゴルフと健康に関する研究」(2020年)に記載)。この研究では、ゴルフが個人の自信、自尊心、不安レベルの改善に役立つことが実証された。身体活動はうつ病や不安症の治療法になると証明されており、精神的健康の維持や改善に役立つと考えられている。

欧州では多くの障害者ゴルフの試合が開催されている。今年1月、バレ・ダ・ピンタGC(ポルトガル)で開催されたEDGAポルトガルスウィングでの吉田
障害や機能低下がある方にとっては、さらに大きな利点がある。我々はゴルフの“交友”に注目する――障害を持つことは、多くのことで信じられないほど孤独である――ゴルフコースは活力を与える楽園となる。
偉大なゴルファーの一人であるウォルター・ヘーゲンは、すべてのゴルファーは「道中の花を楽しむべきだ」と言った。
へーゲンは――最もタフな競技者である――我々皆にとって人生は十分に短いと言っているのだ。今いる場所を“楽しみ”、感謝する時間を持とう。ゴルフは美しい瞬間と永遠の思い出を与えてくれるのだから。

ベン・エヴァンス