1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材し、現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員として活動する吉川丈雄がラウンド中に話題になる「ゴルフの知識」を綴るコラム。第4回目は「リンクス」について。

ゴルフは本来リンクスで戦うゲームでもある

画像: 静岡県「川奈ホテルゴルフコース 富士コース」の7番

静岡県「川奈ホテルゴルフコース 富士コース」の7番

日本のコースの多くが林間である。そのためか、良いコースとは「林間でフラット」という概念が定着してしまっている。確かにフラットなコースは歩きやすく、複雑な起伏も少なくプレーしやすい。フェアウェイをセパレートする林帯は、隣接するホールへの飛び出しを防いでもくれる。結果、スコアもまとまりやすい。

それでは、ゴルフというゲームが持つ戦略性は欠けてしまう。自然と対峙するゴルフは、風、起伏、バンカーや池などのトラップなどにより複雑化され、それゆえに不条理なことも生じる。それらを克服しながら少ない打数で競うのがゴルフというゲームで、そこに飽きることのない面白さが隠れているのだ。

例えば、ほぼフラットで起伏もないフェアウェイを持つコースがあったとする。幅も限りなく広く、かなり曲げても障害物がないことからどこからでもグリーン方向に打つことができる。でも、風は吹き渡るので方向と強弱には気を配る必要がある。とはいえ、フラットだからミスを恐れず攻めることができる。こんなホールが18ホールも続いたら飽きてしまうだろう。もし、このようなホールがあるとするならば、恩恵を受けるのは飛ばし屋だけ。飛距離を稼げればグリーンに近づけるからだ。

だが、これではゲーム性を競うゴルフにおいては全くつまらないものになってしまう。だからコース設計者は、バンカー、池、クリーク、起伏、右や左のドッグレック、打ち上げ、打ち下ろしなどさまざまなトラップを組合わせてゲーム性(戦略性)を高めゴルファーの技量を引き出すことになる。

画像: 写真は沖縄県島尻郡にある「ザ・サザンリンクス・ゴルフクラブ」(撮影/有原裕晶)

写真は沖縄県島尻郡にある「ザ・サザンリンクス・ゴルフクラブ」(撮影/有原裕晶)

評価を得ている海外のコースの大半は、海岸に沿った土地、もしくはサンドベルトと呼ばれる砂地に造られている。スコットランドやイングランドの海岸線は、農耕に適さない不毛の土地で、しかも風雨も強く高く伸びる樹木は育たない。

草や灌木が生えるこのような地は、昔から多くが公有地であり、海に出ることができるパブリックフートパス(歩経路)があったり、放牧地だったりした。

砂地のため、崩れた場所は、牧童らが強い風から退避できる窪地でもあり、後にバンカーとなった。このような自然条件から生まれたのがリンクスコースであり、ゴルフ場の設計理念は基本的に現在に至るまで「リンクス」といえる。

最新のコースに目を向けると、完成から短時間で高い評価を得ているのはいずれもリンクスコースなのが分かる。

例を上げれば、ベン・クレンショーとビル・クアーが設計したカナダのキャボットクリフスは、荒れ狂う波が打ち寄せる崖の上にレイアウトされ、ゴルファーは吹き抜ける風を計算しながらゲームをすることになる。ニュージランドの海岸に沿った白砂の丘陵地にトム・ドークが設計したタライティGCはワイルドで正に「砂の魔宮」と呼びたくなるほどだ。

画像: オーストラリア「ロイヤル・メルボルンゴルフクラブ」

オーストラリア「ロイヤル・メルボルンゴルフクラブ」

歴史を振り返ると、アリスター・マッケンジーが手掛けたオーストラリアのロイヤル・メルボルンGCは内陸部のサンドベルトに造られたコースで、セパレートしている樹木を伐採したらリンクスの風景になり、同じくマッケンジーが手掛けたアメリカ西海岸のサイプレスポイントCも白砂の丘陵地にレイアウトされ荒ぶるリンクスを彷彿させるホールがいくつかある。アメリカ内陸部サンドベルトに造られたパインハーストも同じくインランドリンクスといえる。

日本では制約が多く、海岸線に沿った地にコース建設は叶わないが、アメリカのゴルフダイジェスト誌の海外パネリストである武居振一さんによると「世界のベストコース100」には新しいリンクスタイプのコースがランキングされ続けている。このままでは廣野GC川奈HGC富士コースはやがてそれらの新コースに押し出されてしまう」と危惧をしていた。

文・写真/吉川丈雄(特別編集委員)
1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材。チョイス誌編集長も務めたコースやゴルフの歴史のスペシャリスト。現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員としても活動中

第1回「ウィッカーバスケット」

第2回「ブラインドホール」

第3回「ケープ」

6つのコース種類の攻略法

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