【プロフィール】
橋本 賢一(はしもと けんいち)
1980年から2020年まで埼玉栄中学・高等学校ゴルフ部で顧問を務めた。出身者には岩井姉妹や菅沼菜々、渡邉彩香、今平周吾といった国内ツアーで活躍するプロたちを指導してきた。現在は「KENNY GOLF AVADEMY」でジュニアのみのゴルフスクールで指導中。
顧問が見つからずに廃部になる
ジュニアゴルフ界で「名将」として広く知られている橋本氏は、埼玉栄を定年退職した後、与野ロイヤルゴルフセンターで「ケニーゴルフアカデミー」を開講。代表を務めている。
「私が退職した後、『栄は弱くなった』と言われるのが嫌でね。そんな気持ちもあって、間接的にでもかかわれるようジュニアアカデミーを開講しているんです」(橋本・以下同)
平日の夕方。多くのジュニアゴルファーの姿が練習場にあった。1人、2人、大人に混じって練習するジュニアを見かけることはあるが、ここに集うジュニアの数は他を圧倒していた。もしかしてここがジュニアゴルフの虎の穴なのかと思えてくる。
「ジュニアは2時間800円で練習させてもらえるんですよ。ケニーアカデミーは2階の左奥5打席を借りています。18時半ぐらいになると集まってきます。コーチは埼玉栄ゴルフ部出身のプロやインストラクターが手伝ってくれています」(橋本)
このひとコマだけを切り取れば、ジュニアゴルフがいかにも盛況のように見える。しかし、ジュニアゴルファーの数はここ何年も減少が続いており、「ゴルフ部のある学校」も増えていないのが現状だ。
そんな中でケニーゴルフアカデミーは、優秀なジュニアゴルファーを多数輩出している。練習場の壁に掲げられた「活躍中のジュニア!」には、2024年に大会で優勝したアカデミー生が紹介されていて、全国中学校団体戦に優勝した埼玉栄中学校の西本真優さん、近重怜奈さん。ゴルフダイジェストジャパンジュニアカップに優勝した東路敏くん。全国小学生大会に優勝した宿利龍アランくんが在籍している。入会は9歳~15歳が対象で、2時間かけてケニーゴルフアカデミーに通うジュニアもいるという。

スクール生は各大会で優秀な成績を収めている
橋本賢一氏をあらためて紹介すると、1980年に埼玉栄高校ゴルフ部の監督に就任し、2020年までの40年間ゴルフ部を率いた。「緑の甲子園」(全国中高校ゴルフ選手権団体戦)の第1回大会から去年開催された46回大会まで連続出場を続けているのは、唯一埼玉栄だけで、中高合わせて男子4回、女子6回、全国優勝に導いた名将である。ゴルフ部卒業生は1000人を超え、プロゴルファーは70人以上になるという。
橋本氏に「なぜゴルフ部が増えないのか?」を尋ねると、「顧問のなり手がいない」ことがあげられた。かつて強豪と言われたゴルフ部も後任が見つからず、廃部となったケースも少なくない。埼玉栄ゴルフ部も橋本氏の後任を校内でみつけることができなかったという。
「うちの場合はラッキーでした。ゴルフ部の監督を探していたときに、現監督の植草先生がたまたま採用試験を受けられていたんです。私の後任はもう彼に託すしかない、と思い学校と掛け合って、ぜひ採用してくださいとお願いしました。植草先生は、ご自身がゴルフ部出身でこれ以上の適任者はいないと思いました」
働き方改革の波は教員にも及んでいて、仕事の総量を減らすことが急務と言われている。その中でも一番のポイントは「部活動」で、顧問ともなると、勤務を簡単に終えることができないため、なり手がいないというのだ。ゴルフ部の顧問、監督となると春、夏、冬の合宿に加え、夏休み期間は地区大会、全国大会が続くため、引率でほぼ出ずっぱりになるという。
「以前、関東の私立高校からゴルフ部を作りたいので手伝ってもらえませんかという依頼がありました。練習場を作る敷地も用意し、具体的なプランも持ち上がっていたのですが、その後、話が止まってしまいました。理由はわかりませんが、顧問のなり手が見つからなかったのかもしれません」
