この方は、東京都の職員で生活文化スポーツ局 スポーツ総合推進部パラスポーツ課事業推進担当をされていた安雙里美(あそうさとみ)さん。目を輝かせながら熱心に選手たちのプレーを見ている姿が印象的で、声をかけてしまいました。
改めてお話をうかがうと、障害者ゴルフとの出合いは、昨年1月の東京ビッグサイトでのスポーツ庁のイベントだと言います。
「それまでは障害者ゴルフという競技があることをまったく知りませんでした。日本障害者ゴルフ協会(JDGA)さんが、ブースを出展されていて、その場で君津市長杯の概要をいただいたんです。見ると、中高生と一緒に障害者の方がラウンドするという内容でした。これってパラスポーツでもなかなか踏み込めない交流の仕方だな、大変珍しいなと思い、私はゴルフのことは全然わからなかったのですけど、純粋に見てみたいなということがありまして、昨年3月の君津市長杯に視察に行ったんです。そして、ものすごい衝撃を受けました」

強風にもひるまず、やさしい笑顔でJDGA松田治子会長と話をする安雙さん。ボランティアとして今年の君津杯にも参加。「うちの部署にも何人か過去にゴルフをしていたことがあるという方はいましたけど、障害者ゴルフは知らなかったんです」。東京都のパラスポーツ応援プロジェクト「TEAM BEYONDパラスポーツ」のホームページはこちら
この衝撃には、2つあったそうで、1つは車椅子ゴルファーの「プレーの仕方」です。
「事前に職場でも話題になったんですけど、車椅子の方がどうやってゴルフをするのか、想像もできなかったんです。JDGAさんのホームページや試合のポスターを見て、“車椅子っぽいカート″に乗ってゴルフをしているらしいということはわかったんですけど、誰も正解がわからなくて、もうこれは実際に見に行くしかないと。そして現地で車椅子ゴルファーの方を拝見して、とんでもないことをやっているんだなと。
私も一般の方よりは、いろいろなパラスポーツ、車椅子競技を見てきたつもりだったのに、本当に唯一無二というか、独自の進化を遂げているというか。ですからもっと、いろいろな方に見てもらいたいということが素直な感想としてあったんです。車椅子がビューッと立ち上がり、人が立って打つ感じですとか、そのままクルッと椅子の部分が回転して打つ感じですとか、メカニカルな部分が素晴らしいんです。今までにない発想で、ゴルフだからこそ考えられたものだなあと感じました」

打つ時はビューッと立ち上がる
もう1つの衝撃は、障害者と健常者の自然な「交流」に関して。
「健常の中高生と障害のある方が協力し合ってバディみたいな感じで18ホール回ってくるんです。だって、今日初めて会った2人ですよ。そして終わったあとに、『本当にありがとうございました』という感じですごく自然に交流している。どちらかが遠慮したり、気を使ったりすることもなくやり取りできることは、なかなか見られるものではありません。職場に戻ってすぐに皆に、『すごかった! 見る機会があったらぜひ行ったほうがいい』と話をしたんです」

「衝撃を受けた」という車椅子ゴルファー。障害者ゴルファーの皆さんの努力と工夫と夢が「車椅子カート」には詰まっているのかもしれません
その後は、室内のレッスン会やコースでのレッスン会にも参加、障害者ゴルフのいろいろな可能性を探ったり考えたりしてきたという。
ゴルフは、道具を使うスポーツであり、努力と工夫で「障害者」と「健常者」の壁をなくし、同じ舞台で競技ができるスポーツです。また、老若男女が一緒に楽しめる生涯スポーツであり、それは大きな魅力なのです。

今年の君津杯のひとコマ。ジュニアゴルファーと障害者ゴルファーの交流。ゴルファーって一緒にゴルフをするだけで、なぜか会話が弾むのです
我々ゴルファーにとっては普通のことで、特別だと感じなくなっているかもしれないゴルフの魅力を、改めて発見してくれた安雙さんなのです。
さて、安雙さんは新年度の人事でスポーツ課に異動されました。東京都のパラスポーツに関する取り組みの紹介は、次回に続きます。
PHOTO/Yasuo Masuda