東京都では、パラスポーツ推進のため、2016年に「TEAM BEYOND」の活動を始めました。
「ロンドンパラリンピック(2012年開催)では、スタジアムが満員になりました。東京パラリンピック開催が決まり、『東京でもあんなふうに盛り上げたい』と考え、そのためにはまずはパラスポーツを知ってもらわないと、というところから始まった取り組みです」
最終的には「満員のスタジアムで、皆でパラリンピックを応援しよう!」と目標ができたのです。趣旨に賛同するメンバーの登録を開始、その数は順調に増え、さまざまな体験会や観戦会の告知をしていきました。(現在、公式LINE友だち登34万人、メンバー企業1,400社)
しかし、2020年の東京パラリンピックは、コロナ禍で2021年に開催が延期され、無観客大会に。結果的に大きな花火はあげられませんでした。しかし、その灯は消えません。いや、消してはいけないのです。
「大きい大会はすぐにはなくてもやはり、引き続きパラスポーツをいろいろな場面で知っていただき、ファンを増やしていきたいと考えました」

「TEAM BEYOND」のキャップをかぶる安雙さん。4月に部署は異動しましたが想いはつながっています。画像をクリックすると東京都のパラスポーツ応援プロジェクト「TEAMBEYOND」のホームページに移動します
www.para-sports.tokyo取り組みの柱は2つ。まず、一般の方にパラスポーツを知ってもらうこと。スポーツを通して、障害者の方の生活にもっと踏み込んでもらい、その理解につなげていきたいと考えます。
「たとえば、ショッピングモールや商業施設のスペースを使いパラスポーツを体験していただく。通りかかったときは全然興味はなくても、パラスポーツを身近に感じていただくと『こういうものなんだ』と興味が出るかもしれませんし、家庭に持ち帰って話題になるかもしれない。そもそも障害があるということはどういうものなのか、健常者の方に気持ちを寄せていただくことで、よりよい社会にもつながるのではないか、もっと言うと老若男女関係なく、多様な方が活躍できるような壁のない社会にもつながるのではないかと」
体験してもらうスポーツは夏のパラリンピックの競技、ボッチャや車いすラグビー、車いすバスケットボールがメインとなります。
「たとえば競技用の車椅子に乗ってもらうことから始める。以前、歌手のイルカさんに体験していただき、『昔は困っている方が乗るものだから遊びで乗ったりしてはダメだと言われたけど、乗ってみないとわからないこともあるよね』という意見をいただきました」

競技用車椅子の体験会の様子。実際に車椅子というものを体感して、目線を感じることが、障害のある方の気持ちに寄りそう第一歩だ(街なかパラスポット開催レポート 東京パラスポーツ月間2024)
昨年は、パリパラリンピックで金メダルを取ったゴールボールの体験コーナーを設けたそうです。
「あまり馴染みはないスポーツですけど、アイマスクをして見えない状況を作り、鈴が入ったボールをゴールに入れてもらうと、『音だけで場所を考えるのは難しい』と実感できます。隣に点字ブロックのコーナーを作り、白杖を使う体験もしてもらいました。視覚障害者の方のスポーツと日常生活の両方を体験していただいたんです」
取り組みのもう1つの柱は、企業向けのもの。
「企業向けの観戦会は年に5回くらい行っています。予算がふんだんにあるわけではないので回数に
限界がありますけど、こうすると企業のみなさまにもパラスポーツに興味を持ってもらえます。また、パラアスリートを雇用していらっしゃる企業さんや、パラスポーツに関わっていらっしゃる企業さんの活動を取材して、各社の取組を広くご紹介する仕組みもあります。一般の方がパラスポーツの情報をキャッチできるような仕組みを一緒に作っていきたいとも考えています。メンバー企業のJR東日本さんは、利用者さんに視覚障害者の方も多く、ご案内するための社内教育を徹底し点字ブロックのこともよく理解されているんですね。ですから、都のイベントにご協力いただき、駅員さんと一緒に点字ブロックを体験するコーナーを作ったこともあります」

片マヒゴルファーの櫻田新児さん。クラブは片手で振る。振りやすくするため、グリップにひと工夫。「100円ショップで買ったんですよ。いいでしょう」
活動していて、やはりスポーツの力は大きいと感じるという安雙さん。
「生活に絶対に必要なものではないかもしれませんけど、楽しみのため、仲間とのふれ合いや交流など、非常に大切なものだと感じます。もちろん文化活動もよいと思いますけど、スポーツの一番の利点は、現実的に健康維持にもつながるということ。ただ、パラスポーツで言うと、私たちのほうが選手からすごく力をもらうという部分も大きいんです。いろいろと難しい状況に置かれていても、皆さんチャレンジ精神がありますし、すごく冒険心の強い方たちだなと思います。まったく経験がないことでも、やってみよう、そこに飛び込んでみよう、というパワーをすごく感じるんですね。選手のみなさんは私たちに大変なことはあまり語らないようにしているのかもしれませんが、すごくポジティブなメッセージを受け取ることが多いんです」

車椅子ゴルファーの皆さん。「世界大会に出たい」「ベストスコアを出したい」「長くゴルフを続けたい」「楽しくゴルフがしたい」。目標はそれぞれ。でも目標があるからより頑張れる
私たちが、障害者ゴルファーの真剣さや前向きさに元気をもらい、努力と工夫ぶりにいつも感心させられることと同じなのです。
「障害者ゴルファーの方が使っている道具などを拝見しても、DIYというか、ガムテープや100円ショップのものなどを上手く使い、それですごい結果を出しています。スポーツは目標を持つことにもなります。それもまたいいんだと思います」
スポーツには結果がつきもの。でもそれは、目標や夢に姿を変えます。目標は生きていくための糧ともなるのです。東京都のパラスポーツ推進の「目標」についてのお話はもう少し続きます。
PHOTO/Yasuo Masuda