22歳の金子駆大が『第90回関西オープンゴルフゴルフ選手権競技』で悲願のプロ初優勝を飾った。優勝の瞬間、溢れ出た涙は多くの仲間から浴びせられたウォーターシャワーによってかき消されたが、日本ゴルフツアー機構の公式SNS担当者も「ここまで多くの選手・関係者に祝福されるシーンを見たことがない」と話すほど、多くの人が金子の優勝を祝福した。

最後の最後まで優勝の行方がわからない展開の中で、最終組でプレーしていた金子は最終ホールを単独トップで迎える。ティーショットは右にミスして、セカンドショットはレイアップ。パーなら優勝、ボギーならプレーオフという緊迫した状況の中でも金子の目にはグリーン周りで待ってくれている多くの仲間の姿をしっかり認識していた。

3打目を奇跡的に1mに寄せた金子。ウィニングパットを決めた瞬間、両手を上げて天を仰いだ。グリーンサイドで息子の優勝を祈るように願っていた母・久美さんの元へ駆けつけた金子は力強くハグ。ゴルフを続けさせてくれた母親への感謝の気持ちが一気に溢れた。多くの仲間に囲まれながら切磋琢磨する楽しさ。母親をはじめとする多くの人に支えてもらっていることの幸せ。金子がゴルフに対して感謝できた初めての瞬間だった。

画像: 天を仰ぐ金子プロ

天を仰ぐ金子プロ

金子がゴルフを始めたのは小学校に入る少し前。ゴルフ歴で言えばおよそ17年が経とうとしている。その大半の時間は苦痛と呼んでいいものだった。週刊ゴルフダイジェストの連載『ありがとうの闇』で自らの経験を赤裸々と語ってくれたが、その内容は想像を絶するもの。父からの指導とは呼べない暴力は、もはや「ゴルフをやらされている」感覚しか植え付けなかったに違いない。
 
『ありがとうの闇』の連載が始まったとき、多くのプロ仲間から「コウタに話されたら、あれ以上の話はないですよ」という声が多々聞かれるほど、ジュニア時代から父親の厳しさは有名だった。信じられないかもしれないが顔を腫らして試合に出たことも度々。だから過去を振り返るとき、金子の口からは「練習をさせられた」、「球を打たされた」とネガティブな表現ばかりが出る。あまりの厳しさと、膨大な練習量からプロゴルファーになることは夢などではなく、なれて当たり前のことだという認識だったジュニア時代。悔しくて、つらくて泣いたことはあっても、嬉しくて泣いたことなど一度もなかったのだ。

優勝会見で大泣きしたことについて問われると「自分はよく泣くんですよ」と照れながら話していたが、あの涙には今まで味わったつらさや苦しさ、悔しさが全て含まれていたに違いない。それらを洗い流すかのような仲間からのウォーターシャワーを浴びながら「ゴルフを続けてきてよかった」と心から感じていたことだろう。

画像: 喜びを爆発させインタビューに答える金子プロ

喜びを爆発させインタビューに答える金子プロ

週刊GDの連載を引き受けた理由を優勝会見で聞かれ、自分のような思いをしているジュニアが今もいるなら、早くなくなって欲しいからだときっぱり。金子自身は、つらい思いをしながらも母親などの支えがあり、ゴルフを続けることができたが、同時にゴルフを辞めていく仲間も目にしてきた。そんな思いは絶対にしたくないし、もう誰にもさせたくない。

まだ22歳だが「苦節」という表現が金子ほど当てはまるチャンピオンはいないのではないだろうか。

今の金子はゴルフが上手くなることに心から喜びを感じることができている。ゴルフのことが純粋に好きなだけの一人の若者の本当のゴルフ人生はここからスタートする。

文:出島正登

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