コースで距離と状況を変えてTEST
前回の記事を軽くおさらいすると、ウェッジの溝の役割は、芝や水分など余計なものを取り込むこと。それにより溝の端にボールが引っかかりスピンが利くという仕組みだ。摩耗すればその機能は薄れ、「75ラウンド」がウェッジ交換の一つの目安。さらに硬い練習ボールをウェッジ練習に使ったり、バンカーも練習する人であれば、より摩耗のスピードは早まる。結果、打ち出し角度が思ったよりも高くなり、キャリー距離が短くなり、落ちてからのランが増える、ということだった。
75ラウンドでスピン性能が衰えるとなれば、とうに賞味期限切れのウェッジを使っている人が多いのではないだろうか。その溝の摩耗の影響はいかなるものか、まずはコースに持ち込んで実験を開始した。

テスターの内海大祐プロ(オールデイゴルフ馬橋 所属)。試打経験が豊富で、ショットの精度も高い。今回さまざまな状況で2本のウェッジをテスト。1球ごとにフェース面をタオルで拭きながら実験した
試打クラブは「ボーケイ SM9」の56度。新品と80ラウンド使ったもので比較することに。
第一部のコースでの実験では、距離とライを変えてその違いを見ることに。テスターは試打経験が豊富な内海大祐プロ。2本を見比べて、まず見た目の印象を語る。

前作「SM9」の56度のDグラインドで実験
「下の色が見えるぐらいフェースが摩耗していますよね。これを見ただけでちょっと使うのは遠慮したいと思っちゃいます。スピンの利きが弱そうだし、距離がバラつきそうで怖い。自分だったら即交換です。ちなみにバウンスも削れてくるので、当初の性能とは微妙に変わってくるはずです」
ちなみに内海プロは、1シーズンごとにウェッジを交換。2シーズン目には突入しないという。

「摩耗したフェースの状態を見ただけで、ショットに不安がよぎります」(内海プロ)
【20Yで打ち比べ】
新品はディンプルの角が引っかかる感触がある
まずは20Yから。新品と摩耗したもので、それぞれ5球以上打ってもらった。

ノーマルのピッチエンドランで打ち比べ
取材班が見る限りは、さほど大きな違いがないようにも思えたのだが、打っている内海プロ本人は「はっきりとその差を感じます」と言う。
「まず打感が全然違います。新品のウェッジは、ボールのディンプルの角が溝に引っかかる感じがあって、フェースに乗ります。一方の80ラウンドをこなしたウェッジは、この引っかかり感がないんです。ちゃんと止まってくれるか不安になります」
同じ高さで飛び、スピンの入り方も安定している新品ウェッジに比べて、80ラウンド使ったウェッジは、言われてみれば微妙に高さが異なり、スピンもきれいに入ったり、入りきらずに思ったより転がったりと一様ではない。
「フェースに乗る感じが薄いので、“コレ、ちゃんと止まるかな”という気持ちでボールのリアクションを見守ることになる。結果球も止まったり、止まらなかったり。短い距離でも明らかに違いますね」
【50Yで打ち比べ】
摩耗したウェッジは球離れが早い
続いて50Y。こちらも5球以上ずつテストした。距離が伸びてくると、両者の違いが顕著になってくる。

ボールが溝に引っかかる感触は20Yよりも50Yのほうが強く感じる、と内海プロ
「新品の溝の角に引っかかる感触は、この距離のほうが強く感じます。打球音も心なしか澄んでいるというか。ボールもイメージした高さで飛んでいくので不安がない。実際3バウンドめぐらいで“ギュッ!”とスピンが利きますね」
80ラウンド使ったほうは、はたから見ていても高さにバラつきが見て取れる。
「80ラウンドのほうですが、ボールとの接触時間が短くて、フェース面を滑る球も。その一方で“乗る球”もある。20Yの時もそうでしたが、高さと、落ちてからのランが不安定なので止まったり止まらなかったり。どっちが出るかわからないというのは、正直扱いづらいですね」
【70Yで打ち比べ】
新品は「どれだけスピンが利くんだろう」とワクワクして待てる
70Yでヘッドスピードが上がってくると、フェース面で食い付く、滑る、の差がさらに大きくなる、と内海プロ。

溝の摩耗は球の高さに大きく影響を与える
「新品は食い付き感が強くて、“このボール、どれだけスピンがかかって止まるんだろう”とワクワクしながら打球を追えます。実際ギュギュっと止まりますから、打っていて楽しいです。
一方の80ラウンド使ったほうは、スピードを上げた瞬間“フライヤー”のように、スピンが少なく上に飛ぶ球も増えてくる。フェースに乗らないポッコン系の球ですね。こういう球が出てしまうと、“ウェッジ替えなきゃ”と思います。あえてスピンを強くかけにいくショットも打ちましたが、それでもかからないのはすごく困る。スコアへの影響が出るでしょう」
【25Yラフ】
芝を噛む状況では、両者の違いがより鮮明になる
「ラフ」からも比較してみた。ピンまで25Y、ボールからエッジまでは15Y。できれば2打で上がりたい、そんな状況だ。

芝を噛む状況では溝の劣化がより打球に影響する
「新品は、ラフからでも食い付く感じがある。ラフからでも高さが一定しています。もちろんフェアウェイの時に比べれば少しランは増えますが、溝がしっかり芝を抱えこんでくれるので、打球が安定します。落としどころに狂いが少なく飛ばせるので、これなら2打で上がれる確率が高まります」

新品はラフでもフェースに“乗る”感覚がある
ラフでは80ラウンド経過したウェッジとの差が大きくなる。
「稀に新品と同じように飛ぶこともありますが、基本“ポッコン”です。スピンの少ない球が上に飛んでいくので距離感が出しづらい。落ちてからも“止まれ止まれ!”と祈るような感じ。溝の効果は、こういう異物が介在したときに強く感じますし、この違いは腕前を問わず認識できるはずです」
インドアでスピン量を検証。目立ったのは80ラウンドウェッジのデータの“バラつき”

場所をインドアに移し、データを計測。弾道計測器は「EYE MINI」を使用

コース実験同様、ボールは「プロV1x」を使用
コースでのテストを裏付けるべく、場所をインドアに移しデータを取ることに。
20Y、50Y、70Yのテスト結果は以下の通り。
【20Y】

【50Y】

【70Y】

新品と80ラウンド経過したものでは、平均値(Ave.)を見れば、新品のほうが打ち出しがやや低く、スピンも多くかかっているが、そこまで大きな違いにはならない。しかし、コースでも内海プロが言っていたように、ショットごとにバラつきがあることが、個々のデータに見て取れる。
「コースでも感じていましたが、インドアで打っても打感が明らかに違います。新品のフェースに乗る打感は、溝が摩耗したものでは感じにくくなる。インドアでは芝を一切噛まないので、データ上は感覚ほど大きな差になりませんでしたが、それでも80ラウンドのほうは各ショットにはバラつきがあります。グリーンに近づけば近づくほど、ショットには精度が求められるわけですから、そこで使うクラブに不安があることは避けたいですよね」
【実験延長戦】フェースとボールに「水」。2つの打球はどう変わる?

霧吹きでたっぷりを水を。雨の多い季節、溝の効果はいかほどか
最後に、もう一つ追加で実験。これからの季節は雨も多い。当然ウェッジの溝がフレッシュなほうが有利なはずだが、打球にどれほどの違いが生まれるのか。フェースとボールに水をたっぷりと吹きかけ、50Yのショットでデータを採取した。
雨を想定した50Y

ドライな状態の50Yと比較すると、新品でも打ち出しが上がり(プラス3.5度)スピン量も少なくなる(マイナス898rpm)が、80ラウンド経過したウェッジでは、ドライとウェットでその差が大きいことがわかる(打ち出し角プラス3.6度、スピン量マイナス1577rpm)。
「溝が摩耗しているウェッジは、もう打った瞬間から球が上に飛んでいく感じです。ラフでもそうでしたが、ライや状況が良くない時ほど、溝の恩恵をはっきりと感じられます。もちろん新品でも、打ち出し角が増え、スピンは減りますが、やっぱり各ショットの数値が揃って安定しています。水を含んだ状態でもバラつかなければ、計算が立つ。この差は大きいですね」(内海プロ)
前回の#1の回で登場してもらったコーリー・ジェラードさんは、「ウェッジショットで、思いのほか高く上がって距離感が合わないのを“自分のせい”と考えてしまうことが危険」と言っていた。もしアプローチの距離感に悩んでいるのなら、まずは今使っているウェッジの点検から始めてみてはいかがだろうか。クラブを替えるだけで思わぬスコアアップを果たせるかもしれない。
PHOTO/Hiroaki Arihara
協力/浅見ゴルフ倶楽部、オールデイゴルフ馬橋