スパーンの滑り出しは最悪だった。出だしから3連続ボギー。4番のパーセーブで落ち着いたかに見えたが5番、6番で再びボギー。前半を5オーバー40で折り返しトップの背中は遠ざかるばかり。
しかし中断を挟んでから見違えるようにショットのキレが戻った。バック9唯一のパー5で計算通りバーディを奪うと14番でも長いパットを沈めてバーディ。

全米オープンを制したJ・J・スパーン
クラブハウスリーダーのロバート・マッキンタイアと並ぶ1オーバーで迎えた17番では目の覚めるような鮮やかなティーショットでワンオンに成功しイーグル逃しのバーディ奪い、トータルイーブンパーに。1打差をつけた最終ホールは2日続けてボギーを叩いている鬼門。しかしプレッシャーがかかるティーショットをほぼ完璧に成功。2打目は右サイドのピンから遠く離れたグリーン左。
ところがそこで奇跡が起きる。あとから打ったビクトール・ホブランがスパーンのボールのわずか外側、全く同じラインに止まったのだ。ホブランのパットが大いに参考になった。そして放ったおよそ20メートルのパットはジャストタッチで転がり真ん中からカップに吸い込まれた。
湧き上がる大歓声と「U-S-A!」コールのなかスパーンは右手で力強くガッツポーズ。キャディと抱き合って喜びを分かち合うと感激で涙が止まらなかった。

ウィニングパットを決め、力強くガッツポーズするスパーン
「まさか勝てるとは……。このトロフィーを手にすることができるなんて想像もしていなかった」
昨年までメジャーに出ることさえままならなかった。今年になってプレーヤーズ選手権でローリー・マキロイに敗れたもののプレーオフに進出し、世界ランクトップ50入りしたことで今季はマスターズ(50位)、全米プロ(37位タイ)に出場できた。そして本人さえ驚いた全米オープン制覇とあいなった。
今週はずっと好調だった。初日にノーボギーの4アンダー66をマークして首位発進を切ると2日目以降も上位でプレー。「期待せずコースに身を任せる」スタイルが功を奏し、粘り強いプレーで頂点を極めた。
エマーソンとバイオレット、2人の娘の前で「父の日」に最高の父親の姿を見せられたことが「何よりうれしかった」。
ヨーロッパ系アメリカ人の父とフィリピンとメキシコの血を引く母の間にロサンゼルスで生まれた34歳。20代はPGAツアーカナダやコーンフェリーツアーなど下部ツアーで苦労したが22年のバレロ・テキサス・オープンで初優勝。しかし最近ブレイクするまで下位でのプレーが続いていた。
出場することさえままならなかったメジャーで「ただその瞬間に集中して必要なショットを打っただけ」というスパーン。初体験のメジャーでのV争いを「本当に楽しかった」と表現した。
撮影/岩本芳弘
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