日本のラフが短いのは“進行上”の問題?

ラフの深さや芝の密度など、視覚からくるプレッシャーも大きいように感じる
ネットなどのビジター評価を閲覧すると「ラフが長くてボールが探せなくロストになる」「ロストになるのであまり行きたくない」というような書き込みがあり、しかも意外と多い。確かにボールを見失うと探すことになり、なければロストボール扱いになる。それがルールだからだ。
では「ラフが長くて……」を考えてみよう。ゴルフというゲームは本来自然との対峙だから、ゲーム中には不条理な出来事もあり、それがゲームの面白さと難しさの要因になっている側面がある。ナイスショットをして距離が稼げた、と思ったらキックが悪く深いラフに入ってしまった。「ラフに入ったボールを探しても見つからない」「ラフが深く入れてしまうと面白くない」と思うのは当然だが「ラフに入れないようにする」のが正解で、ラフに入れてしまうのは本来ミスショットであり、ゴルファーの自己責任なのだ。だから「ラフに入るので面白くない。もう来訪しない」というのは全くゴルフというゲームを理解していないことになる。もしラフに入れたくなければさらに練習して正確性の高いショットを習得すべきなのだ。これがラフに入れない最良の解決方法といえる。

日本と芝質は異なるが、このようなコースだと「ラフ」=「ハザード」と考えることに納得
ゴルフというゲームは荒ぶるリンクスで始まった。海岸に接するリンクスは耕作に適さない不毛の地であり、絶えず強い海風が吹き付ける。かつて羊飼いが風除けでもぐり込んだという芝のない窪地はバンカーであり、フェアウェイには強い風を起因とする複雑な起伏がある。もちろんリンクスといえども風の穏やかな日もある。そのような日はゲームも容易で楽しいに違いない。
英国などのコースでは膝までの深いラフに悩まされるが、それに比べれば日本のラフなどはせいぜい足首程度の長さしかないだろう。コースは、ティーイングエリア、フェアウェイ、グリーン、それにバンカーなどのトラップで構成され、それ以外の部分はプレーに関わらないことからラフにされ、整備されずに雑草は伸びるままにされるのが本来の姿だ。
ラフが伸ばされた海外のコースでプレー経験のあるゴルファーは「ラフが長くて参ったよ」と土産話をするが、帰国して自分のコースでラフに入れてロストになると「ラフが長い」とクレームすることが多い。
日本のコースのラフが短いその最大の理由は進行上の問題だといえる。多くの組がラフのボールを探し回るとプレー時間が長くなり、イライラ感も募る。そのため、ラフはなるべく短くされる。それでも入れてしまえば探すことになり、それなりに時間は加算される。簡単に言えばラフが短いのは「ゴルファーのクレームが無いように」する進行上の策である。
極論は「練習してラフに入れないようにする」⁉
見識が豊とされる著名なゴルファーとラウンドした時の経験を記しておきたい。そのコースはフェアウェイ、ラフとも洋芝だった。ラフは普通のコースよりも長めで洋芝特有の柔らかく粘る特長があり入れると脱出するのにパワーが求められた。探すのも時間がかかった。何回かラフに打ち込むとその紳士は「こんなに長くしてボールが探せなくロストする」とブツブツ。それを聞いたので「入れるのはミスショットですから。入れないように練習すればすみますよ」、そして「ゴルフは自然との対峙であるがままが基本です」と。
その見識が豊とされる紳士はかなり不満そうだったが、こちらからすれば「日頃の言動とかなり異なるぞ」という印象を受け、俗に「プレーに本来の性格が出る」といわれるが本当にその通りだった。
コースは常に正確なショットを求めるもの。だからラフやトラップに入れるのはゴルファーのミスなのだと認識すべきだ。つまり「よいコースがよいゴルファーを育てる」ことになる。ゴルフとはそのようなゲームなのだ。
文・写真/吉川丈雄(特別編集委員)
1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材。チョイス誌編集長も務めたコースやゴルフの歴史のスペシャリスト。現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員としても活動中