日本のゴルファーの好みを何年にもわたって研究
「ボーケイ フォージド」といえば、名匠ボブ・ボーケイが、日本のゴルファーの好み、日本のコンディション、さらには日本の文化までも研究して完成した軟鉄鍛造ウェッジ。その最新作は、新たなテクノロジーを搭載し、精密さ、繊細さを求める日本人のためのウェッジとしてさらなる進化を果たしたという。「ウェッジのホント」#1に登場したグローバルのボーケイ担当、コーリー・ジェラードさんに、新「ボーケイ フォージド」の特徴を解説してもらうことに。まず目を引くのはそのシンプルなデザインだ。

COREY GERRARD(コーリー・ジェラード)。アクシネットゴルフで、ボーケイウェッジのグローバル マーケティングディレクターを務める。PGAのライセンスを持つプロゴルファーという側面も持つナイスガイ
「個人的には“美しすぎる”と感じています。日本のゴルファーは、高く精密な機能を重視すると同時に、見た目の美しさ、繊細さにもこだわりますよね。シンプルなデザイン、仕上げの美しさは、フォージドを愛する日本のゴルファーのイメージにピッタリ合うと思います」

極めてシンプルなデザイン。ブラッシュ ストローク(ヘアライン仕上げ)によって、フォージドのイメージがアップ、高い所有感につながる
前作までと同様、ヘッド形状も日本のゴルファーの好みが凝縮されている。
「形状はSM10と少し異なります。ヘッドサイズは若干大きめで、わずかにグースネック。トップラインも薄めです。このあたりは長年、日本のツアープロからのフィードバックをツアーレップが受け、それをボブ・ボーケイや研究チームが何年もかけて研究し続けている成果。また、リーディングエッジ(刃)はストレート感が強くなりました。これはアイアンのリーディングエッジが年々ストレートになってきているためで、結果アイアンからウェッジへの流れがスムーズになります」

SM10に比べて若干グースの入ったネックは、ボブ・ボーケイが大好きな形状。「ただグースも入れすぎてしまうとチープに見えてしまう。プレミアムな製品である以上、グースの量も適正でなくてはなりません」(ジェラードさん)
「さらに、今回のボーケイ フォージドでは、新たに日本だけのグラインド(ソールの削り)が追加されました。そして、何よりこのシンプルなヘッドからは想像できないテクノロジーが内部には詰まっています。そのあたりを、ボーケイウェッジのフィロソフィー(哲学)に沿ってお話ししましょう」
スコアアップにつながる、ボーケイウェッジ「3つの哲学」
哲学①「ショットの多様性」

ボーケイ フォージドにも多彩なグラインドが用意されている(F:46.10,48.10/B:58.06,60.06/M:50.10,52.10,54.10,56.10,58.10/K:56.12,58.08,60.08)
「これは、ボーケイウェッジの豊富なグラインドにつながります。グラインドはツアー選手のためだけのものでなく、すべてのゴルファーのために存在します。ウェッジはフェースの溝、下から2~5本目でコンタクトしたい。しかし、グラインドが合っていないことで打点がズレてしまえば、最高のパフォーマンスは得られません。だからグラインドは非常に重要。そして、最新のボーケイ フォージドでは日本専用のグラインドが追加されました」
1つめは、58と60度のKグラインドで8度のバウンス角だ。

Kグラインドに加わったミッドバウンスの08。より日本のコーライ芝にマッチする
「日本のコースで主流のコーライ芝のコンディションは、ハイバウンスが適しています。従来の6度では、潜りすぎてしまうこともあり、バウンス8度が生まれました。これでより適正な位置でボールとコンタクトしやすくなります」
2つめは、50度、52度に加わったMグラインド。

SM10では設定していない50度、52度に採用。このロフトの活躍の場が多い日本のゴルファーにはうれしい
「ボーケイウェッジの中でも人気の高いMグラインドは、グローバルでは54度以上のロフトにしか設定がないのですが、最新のボーケイ フォージドでは新たに50度、52度にもMが加わりました。日本のゴルファーは、『52、58』というウェッジ2本でセットを組むケースがまだ多い。そうなると、50度や52度が“何でも屋さん”的に活躍の場が多くなります。そういう時に、フェースを開いて使いやすいMグラインドを採用することで、ショットのバリエーションが広がります」
3つめに挙げたのは、今回も引き続き採用されたBグラインド。

Bグラインドは、ソール後方が削られ、開いてもリーディングエッジが大きく浮かずに扱いやすい。ちなみにソール面はMグラインドよりも平らに設計されている
「幅広ソールでローバウンスのBグラインドは、フェースを開いてテクニックを生かしたい人に向いています。このグラインドがあるのはボーケイ フォージドだけです。他の国のゴルファーも欲しがるグラインドなのですが、あくまで日本専用。長年の日本ツアープレーヤーからのフィードバックとライコンディションの研究によって生まれたものだからです」
そしてボーケイ フォージドではすべて、ソールのリーディングエッジ側が削られた「プレウォーン ソール」を採用している。日本のコーライ芝はハイバウンスが有利だが、それでも芝の薄い状況に出くわすことがある。そんな時にこの削りがあることで、ソールが地面を滑ってくれて、バウンスが跳ねすぎる現象を抑えてくれるという。
「グラインドは、ただの“削り”ではなく立派な“テクノロジー”。なぜならこの完成には、無数の“リサーチ”が入り、信じられないほどの数の“研究”によって生まれているからです」
哲学②「飛距離コントロール」
「打感に優れる軟鉄鍛造のボーケイ フォージドですが、実はヘッドの中にはタングステンとチタンが配置されています。見た目、そして打感からも想像できないと思いますが“複合ヘッド”なのです。その目的は、SM10の非常に優れたディスタンスコントロールを再現したかったから。設計面で言えば、ロフトごとに最適な重心位置を実現するためです。これは軟鉄の一体鍛造では決してなしえなかったことなんです。複合ヘッドとひと口にいいますが、その製造にはかなり難しい技術を要します。軟鉄のボディを鍛造し、そこに正確な位置に、しかもロフトごとに割合の異なるタングステンとチタンを配置。その上から軟鉄鍛造のフェースを被せる。非常に高い精度が求められる工程です。しかし、それが他にはない飛距離コントロール性能につながるのです」

「SM10とはヘッドの大きさもシェイプも異なるりますが、同じ位置に重心を置くために、マルチマテリアルの構造が必要不可欠でした」(ジェラードさん)
最適な重心位置とは、弾道を“低く”コントロールできるポジションだという。
「打ち出しが高いウェッジショットというのは、ショートしやすく、飛距離のコントロールが難しいんです。ボーケイは、ウェッジでは“低くスピンの利いた弾道”を推奨する稀有なブランドと言えるでしょう。そのほうが絶対的に飛距離コントロールがしやすいことがわかっているからです。こう言うと、“バンカー越えはどうするの?”と聞かれます。でもバンカーって地面より下にありますよね(笑)。縁さえクリアできて、スピンが利けば問題はありません。初めてPGAツアーの試合を観に行った人は、2つのことをよく言います。ひとつは、“ドライバーの弾道が想像よりはるかに高い!”、そしてもうひとつが、“ウェッジショットってあんなに球が低いんだ!”ということ。それが飛距離コントロールを助ける最適な重心位置のなせる業なのです」
哲学③スピンの最大化

スピンミルド製法の溝。溝と溝の間のミーリングもスピンを増やす手助けをする。
「ボーケイ フォージドは、SM10同様“スピンミルド”のグルーブ(溝)を採用し、ゴルファーの強いスピン欲に応えています。そして鋭くスピンがかかることで、先に触れた低い弾道の実現にも一役買っています。グルーブは、少ないロフトと大きなロフトで作り分け、それぞれにスピンの最適化が図られています。そしてそのグルーブは全部、最終的に人間がチェック。2025年で技術が進化している中で、そこまでやる必要があるの? という声もありますが、ボブ・ボーケイの答えは“Yes”。最高のクラフトマンとして、そこは譲れない部分なのです」

「精密さ、ルックス、フィーリングを重視する日本のゴルファーにぜひ使ってほしい」(ジェラードさん)
ボーケイの哲学のすべてを高いレベルで実現。そして、形状、見た目の美しさ、優れた打感、日本のコース用にアレンジされたソールなど、現在ボーケイの考えうるすべての英知が盛り込まれたウェッジ、それが最新の「ボーケイ フォージド」なのだ。
次回は、実際にコースで試打をして「ボーケイ フォージド」の実力を診断する予定。続報をお楽しみに。
PHOTO/Hiroaki Arihara、Tomoya Nomura